第16話 名残の花
俺と暁は、親の反対を押し切って、カリフォルニアに移住した。
カリフォルニアの底抜けのブルーの空と家の合間合間にあるヤシの木が開放的な印象を受けた。ゲイやレズビアンの婚姻も認められており、居住しているカップルも多かった。
カリフォルニアには日本にも店舗をだしているアパレルの店がコーヒーショップと一緒に立ち並んでいて、日本にいた時にそのブランドが好きだった暁はアパレル関係の仕事についた。
おれはコーヒーショップに勤めた。
暁と俺で、交互に料理を作った。暁は、カリフォルニア料理を良く作った。
俺は料理が下手だった。作るのに時間がかかったが、小さい頃から色々な美味しいものを食べているせいか、暁は「味付けは美味しい」と残さず食べてくれた。 母さんのつくるハンバーグが好物だった俺は、レシピを教わって、暁に食べさせたい!!と思ったけれど。そうだ、母さんとはもう会えないんだった。
母が亡くなる直前、一度だけ日本に帰った。
陽向の妻、咲夜が「子供は母親が死ぬ時わかるんだ。お腹で繋がっているんだね」
と涙ぐんだ。
もう他界した父に千春はカリフォルニア大学の新薬の研究の仕事を紹介された。
父の最後の遺言だった。
よく二人で、夜明けのカリフォルニアの海に行った。 カリフォルニアで見る暁の空は、日本の暁の家で見た空と全然ちがっていた。 茜色の太陽が、海や地平線や街を照らし、幻想的な風景が広がっていた。
「日本でみるのと全然違うね」
暁はその透き通る、すべてを見通す瞳を細め、ずっとその光景を眺めていた。 そんな暁が愛おしかった。
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「千春、俺が死んだら、お墓に木を植えてほしい。子供も残さず、木も植えない者は、死ねないらしい」
「ヘルマンヘッセだ」千春が笑った。
「桜の木がいいな」
「わかった」
暁は、老衰だった。最後の最後まで、あいつは暁の空を見ていた。
千春はお墓に桜の木を植えた。
暁が死んだ後は、老人施設で暮らした。
「あら、おじいちゃん、またお墓に行くの?」
「大切な人に会いに行くんだ」
「ほんとに仲良いのね」
お墓の桜を見ながら、老人は目を閉じた。
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