第10話(1)尋常に勝負

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「【特殊スキル:癒しの手かざしを発動しました】」




「これで全員だな……」




 俺は傷付いた全員を回復させる。アヤカが悔しそうに口を開く。




「くっ……申し訳ございません……」


「気にするな、俺も呑気に蒸し風呂に入っている場合じゃなかったからな……」


「奴らの襲撃は予期出来ません……まさか、あの山の王がこの近くに潜んでいたとは……しかもまとまった配下を擁していて――イオがそこに含まれていたのも意外でしたが――さらにジャックと繋がっているとは……」


「……山の王っていうのは?」


「かつてこの国の山岳地帯のほとんどを領していた勢力を束ねる者です。だいぶ大昔のことですので、いくらか代替わりはしているかと思いますが……」


「力を取り戻したとかなんとか言っていたな……」


「……恐らくは数十年前に大規模な争乱を起こした山の王と同じ者かと思われます」


「人間じゃないのか?」


「詳しくは拙者も分かりかねますが、常人ではないということは確かです」


「ふむ……」




 俺は頷く。アヤカが話を続ける。




「あらゆる意味で力を蓄え直し、時は満ちたということでしょう」


「そのタイミングでジャックが接触し、絶妙にくすぐりをかけたのか……」


「ええ、この国自体を征服せんと動き出したのかもしれません……」


「なるほどな……」




 俺は腕を組む。アヤカが言いにくそうにする。




「キョ、キョウ殿……自由に生きるという貴方に大変申し上げにくいのですが……この国は拙者の生まれ育った大事な国です。共に戦ってはくれないでしょうか?」


「無論、そのつもりだ。どうやらまず俺を排除したいみたいだがらな」


「ああ、心強い! それでは拙者たちも再度の襲撃に備えます……!」




 アヤカが刀を構える。


                  ♢


「……それでそれがしを特訓相手に指名したというわけでござるか……」


「不服か?」


「いいえ、そんなことはないでござる。しかし……」


「しかし?」




 アヤカが首を傾げる。ウララが話を続ける。




「こういうことはお一人でなさる方だと思っていたでござる」


「ふふっ、そのように見えるか?」


「ええ……」




 笑うアヤカに対し、ウララが頷く。アヤカが真面目な表情になる。




「勿論、独力で倒せるのならばそれに越したことはない……しかし、彼我の実力差というものを理解していないほど愚かではない」


「『槍手のイチロー』……それほどの相手だと……」


「ああ、そうだ。それに……」


「それに?」


「貴様も奴にやられただろう?」


「!」


「そのお返しというのはしたくないのか?」


「……あまりそういう考え方はしないようにしているでござる」


「ふむ……それでは、良いのか?」


「逆によろしいのでござるか?」


「うん?」


「手柄を独り占めすることになってしまっても……」


「はっ、生意気なことを言うな……」




 ウララの言葉にアヤカが苦笑する。




「それでは……」


「ああ……」


「いざ尋常に……」




 ウララとアヤカが各々の武器を手にして見つめ合う。




「「勝負!」」




 アヤカが斬りかかるが、ウララがかわす。




「……後ろか!」


「おっと!」




 振り向き様のアヤカの剣をウララはまたもかわす。アヤカが舌を巻く。




「やるな!」


「これでは不十分!」


「うおっ⁉」




 上半身をこれでもかと捻った体勢から、ウララが反撃を繰り出す。予測するのが困難な攻撃だったが、アヤカはそれを防ぐ。体勢を立て直して距離を取ったウララが感心する。




「今のを防ぐとは……流石でござるな……」


「まだだ……」


「え?」


「奴の繰り出す槍は通常以上のしなりを見せていた。あれに対応出来るようにならないとお話にならない……」


「ふむ、それは確かに……」


「というわけで、ちょっとしなってみてくれるか?」


「な、何を言い出すのでござるか⁉」




 アヤカの言葉にウララが困惑する。アヤカが話を続ける。




「いや、忍術ならば、しなるのも容易いのかなと……」


「あ、生憎、しなる忍術というものは体得していないでござる……」


「そうか……」




 アヤカががっくりと肩を落とす。ウララが声をかける。




「と、とにかく集中して研鑽を積むのみでござる!」


「……それもそうだな……!」

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