第5話(3)見た目に似合わず
「こんなに大きなゴブリンはそうそういないよ……」
「ふむ……」
オリビアが呟き、俺は覗き込む。エリーが尋ねる。
「人間でありんしょう?」
「あ、ああ、そうだな……」
「顔どころか、体も黄緑色に塗っているね……鼻もわし鼻にして……付け鼻か? なんとも手間のかかることを……」
俺が頷くと、オリビアも俺の脇から覗き込んで確認する。俺はオリビアに問う。
「し、しかし、何のためにこんなことを?」
「推測でしかないけど……」
「構わない、聞かせてくれ」
「……ゴブリンだと、相手は油断する場合がある。大体は非力だからね」
「ふむ……」
「もちろん、戦闘経験のほぼない商人などにとっては脅威だろうが、それなりの実力者――今回の場合なら、軍隊やモンスター狩り――ならば、相手がゴブリンだと判断した時点で警戒心を緩めてしまう」
「なるほど、そこで生じた隙を突くと……」
「恐らくはそういうことだろうね……」
「う……うん?」
ゴブリンに扮した男の一人が目を開ける。アヤカが見下しながら呟く。
「……さて、街にこいつらを連れ帰って、役人に突き出すとしますか」
「ま、待て! 俺たちはゴブリンだ! 俺たちの平穏な暮らしを乱そうとするお前らが悪い! 俺たちは共存を望んでいたというのに!」
「まだ言うか。貴様らのような、大きなゴブリンがそうそういてたまるか……」
「あ、あの~」
そこに大きな女ゴブリンがひょこっと現れる。俺は思わず驚いてしまう。
「お、大きなゴブリン⁉」
「はあ、どうも……」
女ゴブリンが自らの後頭部を抑えながら会釈する。顔や体は黄緑色だが、上半身に茶色のブラウス、下半身にこれまた茶色のロングスカートを穿いている。こう言ってはなんだが、きちんとした服装だ。
髪色は栗毛で、二本の三つ編みにしている。眼鏡をかけている。眼鏡っ娘ゴブリンか……これまたなんというか、意外な印象だ。ちなみにスタイルはなかなか良い。
「ほう……」
「えっと……」
「おおっ! 同朋よ! 俺たちの平穏を乱そうとする輩だ! 助けてくれ!」
「はっ⁉」
ゴブリンに扮した男がいきなりわけの分からないことを口走る。それを聞いた女ゴブリンがわずかだが表情を変え、俺たちに視線を向ける。
「……あなたがた、悪い方たちなんですね?」
「い、いや……」
「そうだと言ったらどうするんでありんすか?」
「お、おい、エリー……」
「こ、懲らしめさせていただきます……!」
「面白い、やれるものならやってみなんし!」
「お、おい、エリー! 無駄に煽るな!」
「大きさに少しばかり面食らいんしたが、所詮はゴブリン、たかが知れておりんす」
エリーが余裕たっぷりの笑みを浮かべる。おいおい、そういうのって大体……。
「わ、わたしたちは穏やかに暮らしたいだけなのに、それを邪魔するというのなら……」
「どうするでありんすか?」
「ちょ、ちょっとばかり痛い目を見てもらいます!」
「さっきと同じことを繰り返しているだけでありんしょう。悲しいくらいボキャブラリーが貧困でありんすね。その眼鏡はお飾りでありんすか?」
「こ、これでも勉強は出来る方です!」
女ゴブリンが身構える。アヤカが呆れ気味に指摘する。
「声が震えているぞ、悪いことは言わない。無理をするな……」
「む、無理はしていません!」
「素手で戦う気か?」
「そ、そうです……ええいっ!」
「むうっ⁉」
女ゴブリンがほとんど一瞬でアヤカとの距離を詰め、殴りかかる。アヤカはなんとかかわそうとするが、右肩に強烈な打撃を食らってしまい、片膝を突く。大柄な体格に似合わず、かなりの素早さだ。
「はああっ!」
「くうっ⁉」
女ゴブリンが今度はエリーとの距離を詰め、両手でエリーの二本の角を掴み、顔面に思い切り飛び膝蹴りを食らわせる。大人しそうな外見に似合わず、かなりエグい攻撃だ。思わぬかたちで攻撃を食らったエリーは膝から崩れ落ちる。女ゴブリンがオリビアの方に視線を向ける。オリビアが舌打ちしながら銃を構える。
「ちぃっ!」
「やああっ!」
「なにっ⁉」
女ゴブリンが今度はその場にかかと落としをして、地面を粉々に砕く。砕けた土塊が周りに飛び散り、中でも一番大きい土塊がオリビアのみぞおちにめり込む。オリビアが倒れる。眼鏡に似合わず、的確な判断力だ。いや、この場合は似合っているのか……。
「お、お次は……」
「!」
「いや……」
「おい、今、こっちをチラッと見ただろう! なんで視線を逸らす!」
「ど、奴隷の方、あなたはもう晴れて自由の身です。どこへなりとも行きなさい……」
「だ、誰が奴隷だ! 人を外見で判断するな!」
「だったら、服を着てください!」
近寄ろうとする俺に対し、女ゴブリンが恥ずかしそうに顔を背ける。わりともっともな指摘だ。外見で色々と判断してしまったのは俺の方が先だしな……。
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