第2話(1)やべえ奴

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「到着しました!」


「ふむ……」




 着物を羽織った、綺麗な黒髪ポニーテールの女性が、船から陸地に降り立つ。ポニーテールが揺れるとともに、腰に提げた刀がカチッと音を鳴らす。




「報告します! 目付役らは避難! 軽傷者多数!」


「……死者は出なかったのか?」




 ポニーテールの女性が切れ長の細い目を報告者に向けて問う。




「はっ! 死者、重傷者は今のところ確認されておりません!」


「それは結構……直ちに治療班を向かわせろ」


「はっ!」


「……重傷者もいないとは……戦闘よりも脱獄することを優先したということか……?」




 ポニーテールの女性が顎に手を当てながら呟く。別の者が駆け寄ってくる。




「報告します! 脱獄を手引きしたのは、ジャックの一味の模様!」


「『野蛮』のジャック……本国でも派手に暴れて回っているやつか……」


「はい! 目撃情報などを照らし合わせても間違いないかと!」


「ここの囚人どもに目を付けるとは……野蛮なやつら同士は引き寄せ合うのか……」




 ポニーテールの女性が腕を組んで頷く。さらに別の者が駆け寄ってくる。




「報告します! 脱獄囚たちはこちらとは反対の砂浜に逃亡した模様!」


「なるほど、ジャックはそちらからこの島に上陸したのか……」


「不審な船を確認したという情報もあります!」


「そちらに向かうぞ! 第一小隊は監獄を確認! 第二小隊は島の反対側に船を回せ! 私は陸路でやつらを追いかける!」


「お、お一人で大丈夫ですか⁉」


「一人の方が速い!」


「し、しかし、お嬢様にもしものことがあれば……」


「お嬢様ではない! 拙者はアヤカだ! 各員、戦闘準備を怠るなよ!」




 アヤカと名乗ったポニーテールの女性は颯爽と駆け出す。




「は、速い!」


「並の男では相手にならん健脚よ……」


「しかし……少々気負い過ぎではないか?」


「とにかく、我々は命令通りに動くぞ」




 配下の者たちがテキパキと動く。




「……ジャックめ、神出鬼没な奴だ。なかなか捕まらんとは思っていたが、そうか、海路……海賊も傘下におさめたのか……凶暴な囚人どもを連れて、本国の海岸沿いの町村を狙われてはマズいことになるな……」




 アヤカがぶつぶつと呟きながら、砂浜へ向かう。足取りは素早い。島の地図は上陸前に頭に入れてある。彼女は迷うことなく、砂浜へと向かう。




「お、おい、一体どうなってやがる⁉ なんで戻ってきたんだ⁉」


「砂浜にやべえ奴がいるらしい!」


「やべえ奴ってなんだよ⁉」


「知らねえよ! 俺らも見てねえし!」


「いや、知らねえのかよ!」


「とにかくこっちから逃げた方が良い! 船もあるだろう!」


「た、確かに、今なら見張りなどは手薄か! あっ⁉」




 三人の囚人とアヤカが鉢合わせする。アヤカが刀の鞘にを手をかける。




「……大人しく監獄に戻れ……」


「……あっはっはっは!」


「……何がおかしい?」


「いや、もう追っ手がやって来たのかと思ったら、か弱い姉ちゃん一人かよ……よっぽど人手不足みてえだな……」


「……貴様ら如き、一人で十分だ……刀を使わなくてもな……」




 アヤカが刀から手を離す。




「あ、あんだと⁉ 舐めやがって!」


 三人の囚人の内の一人、小柄な男がアヤカに襲いかかる。




「はっ!」


「だあっ⁉」




 小柄な男がアヤカに足をかけられて転ばされる。小柄な男は顔を打ち、動かなくなる。




「なかなか素早い動きだが、あまりにも直線的過ぎるな……」


「ちいっ!」


「ふっ!」


「づあっ⁉」




 大柄な男がアヤカに迫り、その細い腕を掴もうとするが、アヤカがあっさりと投げ飛ばす。大柄な男の体は宙を舞い、地面に叩きつけられる。大柄な男も動かなくなる。アヤカが両手をパンパンと払いながら呟く。




「『柔よく剛を制す』という言葉を知らんか……」


「く、くそっ!」


「ほっ!」


「どあっ⁉」




 残った中肉中背の男が剣を振るうが、アヤカはその剣を素早くかわし、すれ違いざまに鋭い手刀を叩き込む。中肉中背の男はその場に崩れ落ちる。




「その程度の剣さばきでは、拙者の相手にはならんな……」




 アヤカは三人の囚人を手早く縛り上げると、砂浜に急ぐ。




(……それにしても何故、あやつらは引き返してきたのだ……? やべえ奴とかなんとか言っていたが……モンスターか? いや、この島にそれほど危険なモンスターはいなかったはずだが……!)




「……ん?」


「や、やべえ奴だ⁉」




 ほぼ全裸状態で砂浜に立つキョウに出くわして、アヤカは声を上げる。

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