第7話 防具と家を手に入れた
「次は防具ね」
クリスティーナさんが各武器にあった防具のある場所を、教えてくれる。
戦わないと飢え死ぬとか。嫌なところに来てもうたな。
戦争時代に逆戻り〜。飢えるのは嫌やな。敵を殺さな自分が死ぬ。嫌やなぁ。どっちが嫌って、ひもじい方が嫌に決まってる。
全員防具を選び終えた。
元来ていた服から着替えて、選んだ服を着ることになった。
私は、少し大きい長袖に皮の胸当て、太ももの半分くらいの布ズボン。サイズの合わない靴下と茶色の靴。
雷は、布で出来た長袖の上に、鉄の鎧を着ている。下は布の長ズボン。靴下と黒い靴は丁度サイズがあったらしい。
本人曰く、鎧は鉄だけど意外と軽いそうだ。
じゃぁそれ鉄なの見かけだけやん。防御力に期待は出来なさそう。
父は、長袖長ズボンを着て、靴下と黒い皮靴、黒っぽいローブのような物を着ている。
はい防御力皆無ぅ! 魔術師もっと防御力固めるんや。せめて皮の防具でも良いからちょうだいよ! って、文句言いたい。魔術師コーナーに無かったんだから仕方がない……。
母は、長袖長ズボンを着て、靴下と黒い皮靴白いローブのような物を着ている。
はいはいこちらも防御力紙〜。
魔法使いやからローブとか安直なんじゃ。
なんで魔法使いの方はローブしかないん? せめて関節部分とか、部位だけでもいいから防御力を高めようとする努力をやな……。防具買いたいけど、お金……。
ふふふふ、お腹空くようなことにはなりたくないで。稼がないと。でも焦りは禁物で。敵を倒すって何。敵って何。もーー!! 考えたくないッ!
涙の張った目を袖で拭う。
「次は家ね」
家。家畜小屋みたいな所だったらどうしよう。あといっぱい人がいるところも留美ちょっとコミュ障やからコミュニケーション取れる気がせえへん。
でも一人やったら、生活できる気がせえへん……。
難しい。
「ここよ。住居人はあなた達だけ、今はここしか空いてないから、ここで生活してちょうだい。また迷い人が来たらここに来るけど、それより先にきた迷い人が消えると思うし、その時はそっちに引っ越してもいいわよ」
なんてことを淡々と言うんや。
留美、共同生活とか嫌なんですけど。当分、迷い人くんなよ。
私は心の内を隠して笑みを浮かべた。
「考えておきます」
「はい。これが解体用のナイフよ」
解体用ナイフ重い……。
「ありがとうございます」
両親も私に続いて、不安を精一杯押し込めているような態度でお礼を言った。
私は受け取った四つのナイフのうち二本を、左右にいる両親に渡す。
「じゃ、あとは頑張ってね」とクリスティーナさんが戻っていくのを見て。ハッとして私は彼を止める。
「あっ。クリスティーナさん! 戦うってどこで何と戦えばいいんですか!?」
これは重要ッ。
「ああ、東にゴブリンがいるわ」
「ご、ゴブリン……、東ってどっちですか?」
クリスティーナさんが街で一番高い建物を指さした。
「この町の時計塔を中心として、あの山が北よ。あっちの森が東。遠くに崖が見えるのが南。他に質問は?」
他。他、ほか、他は……。
「とりあえずは、ありません」
「そう。行くときは一度ギルドによりなさいね。じゃ、明日ギルドで待ってるわ」
「ありがとうございますっ!」
「うふふ、いいのよー。迷い人をサポートするのも私の役目だから」
圧迫感がなくなって、ふぅと息を吐く。
クリスティーナさんがいるギルドっていう場所と、この家の道は結構距離があった。覚えているか少し不安。
4人もいるんやから誰かは覚えてるよな? いいや、その考えは良くない。留美がちゃんとせんと。
留美がしっかりしないと。
これから私たちが生活する、家を見上げる。
寮や小さい屋敷と呼べるようなものだった。
家畜小屋みたいな感じでは全然ないけど、逆に住みずらそう。
あぁ〜〜、戦う相手が人外って。ゴブリンって……いや薄々思ってたよ、一応異世界っぽいし。
現実に起こると不安しかない。
人間とゴブリン殺すのどっちがマシ〜? ゴブリンやろ。まだマシやと思えば良い。そうそう、きっとそう。
留美はゲームとか、物語のモブDくらいで眺めていたい人やのに。主人公どこよー。誰もが人生の主人公じゃいっ。……はっ。鼻で笑ってまうわ。
先に入っていた雷が窓を開けた。
「みんな入ってきいや! すごい広いで!」
そりゃ、共同で使うこと前提なんやし。……野暮なことは言うもんじゃない。
主人公……こいつちゃうやろうな?
雷とか家族が主人公やった場合、他の家族が死ぬとか、別れるとか、そういう未来しか見えへん。
いやいやいや、大丈夫や。留美たち誰も主人公ちゃう。ほら、みんな人生の主人公やって言うやん。
みんな主人公やねん。キリッ。
…………チート無し。現実を見ろって先人の誰かも言ってたやん。…………死にたくないな。やばい、ネガティブ思考がループし始めてる。
いつの間にか外にいるのは自分だけになっていた。ポツンと窓から中にいる三人を眺める。
「留美早く入ってこいよ!」
興奮する弟に合わせるように、私も中に入っていく。
「うわーっすごい広い!」
「掃除大変そうやね」
「それな」
パパな何も言わなかった。この世界に来てから、まだ一言会話していない。普段から喋るタイプじゃないから仕方ない……のか?
私と弟は探検だとばかりに、ドタドタと家の中を駆け回る。
一階は大部屋というか、リビングが半分を占めていた。共同生活のためだろう。
なんかシンプル。剣を振り回して戦えそうなくらいには空間が空いている。
大、中の机が二つ、五つと九つの椅子が並んである。そして机の近くに暖炉が置いてあった。
収納所は横長で三つ、中には何も入っていない。その上は物置台に使えそうだ。
水瓶が一つ。中には水が入っていたが、いつのものだろうか。
大部屋と吹き抜けになっているキッチン、洗い場が少し汚れているが、他は使われた痕跡はない。
そばにある水屋も空っぽっだ。
部屋は、小さな空き部屋が三つ。
薪が数本置いてあった置き場。
その隣がお風呂場、外ともドアで繋がっていた。薪を炊いて温める必要がありそうだ。
どっぽんトイレが一つ、紙はちょっと心許ない。『下水道管に繋がっているから定期的に水を入れて周りを流すべし』と張り紙が貼ってあった。
それなら頑張って水栓便器にしてくれたらいいのに。
二階には部屋が十二室全て個室だった。
きっと言っていたように、同居させるために作られたのだろう。
それにしては個室のグレード差が激しい。わざとか? それとも、前に住んでいた人の私物?
グレード差と言っても、最低限寝る場所があるかないかの違いだ。何もない部屋よりはマシなだけ。
どんな暮らしをしていたんだ先人の人よ。
私たちが決めた部屋には、ベットと薄い布、簡単な机と椅子が一つある。
少し埃をかぶってはいるが、ベッドは新しそうだった。
部屋は離れると不安だったので、端から 留美 雷 ママ パパ の順に部屋を決めた。
さらに、この家には庭がある。
そこには井戸と物置があった。そして謎の鍋。
物置小屋はものがごったがえしていたから、少し覗いただけ。何があるのかは把握していない。そのうち整理しようと思う。
井戸水は冷えていて美味しい。水瓶と入れ替えよう。
そして井戸の横にある謎の鍋だが。ガッツリ使用方法が書いてあった。
軽い蓋に「ゴミ、汚れ物入れ。中に入れると中身は1日、半日、よく分からないけど時間が経てば、消えている」と書いてある。先人の迷い人が書いたのだろう。かなり綺麗な字だ。
鍋は地面に固定されているらしく、びくともしない。
「井戸水そのまま飲んだんか?」
やってきたパパの問いに、留美と雷はハテナを浮かべる。
「え? うん」
「飲んだけど何? あ、パパも飲む?」
「一回沸騰させんと、微生物とかおるかもしれんし、お腹壊すで」
パパが冗談を言うはずもなく。チラッと目を合わせると、二人して苦しみだす。
「おろろろろ! 飲んでしもたー!」
「ぐはっ、あ、あちゃー。夜にでもお腹壊すやつー……グハッ」
「トイレ一個しかないのに」
「気にするとこそこ?」
トイレの数って大事やろ。
「お腹痛いの嫌やなぁ。……大丈夫、きっと整備されてる井戸水やねん。微生物とかおらんねん。山の水は綺麗やろ。綺麗綺麗なお水やねんきっと」
「現実逃避するな」
なんてこともありながらも、探検を再開する。
家の裏は岩壁で遮られていて、途中で崩れた場所から草がモサモサと生えている。木も切る必要が出てくるかもしれない。雑草抜きもしないと……。はぁ。面倒な家。
生きる術を知ってるであろう、先輩もおらんし……。
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