白雪姫の継母の夫に転生したっぽいんだが妻も娘も好きすぎるんで、愛しい家族を守るためにハッピーエンドを目指します ~とりあえず魔法の鏡、まずお前をぶっ壊す~

めぐめぐ

第1話 自称女神の八つ当たりで死んだ前世を思い出した

 後頭部がズキズキと痛む。

 俺はいったい……ああ、そうだ。

 

 後頭部の痛みの原因を思い出した。


 睡眠不足で眩暈がして倒れた拍子に頭を打ったんだ。

 ここんとこ、ずっとお袋の介護で夜中起こされて、まとまった睡眠がとれてなかったもんな。


 そう思いながら、俺はゆっくりと目を開いた。

 

 真っ先に飛び込んできたのは、豪華な刺繍が施された天蓋。

 

 頭を動かそうとした瞬間、後頭部に鈍い痛みが走った。思わず手で押さえると、


「お、お目覚めでございますか、陛下‼」


 すぐ傍から、非常に慌てた様子の女性の声が聞こえた。

 俺が身体を起こそうとすると、こちらに駈けより、身体を起こすのを手伝ってくれた。


 若いメイドさんだ。

 メイドさんの肩の向こうには、ファンタジーのアニメとかで見るような、豪華な調度品などが飾られ、バルコニーに繋がる大きな窓兼扉が続いている。


 どう見てもこの部屋は、俺とお袋が過ごしてきた一軒家じゃ……ない。

 それにさっきこの子、俺のことをなんて……


 そう思った瞬間、今まで堰き止められていた記憶が溢れ出し、全てを思い出した。


 俺がこの国――エクペリオン王国の国王、レオン・メオール・エクペリオンとして転生したことを。


 ◇


 気付けばメイドさん――いや、俺の世話役である侍女が部屋からいなくなっていた。

 恐らく、俺の目覚めを伝えに行ったのだろう。


 全てを思い出すと、前世の記憶が今世の記憶と混じり合うことはなくなった。

 

 うん、この部屋は国王である俺の寝室だ、間違いない。

 

 ふうっと大きくため息をつくと、俺は再びベッドに横になった。そして、前世の記憶をゆっくりとひもといていくことにした。


 俺の前世である井上拓真の人生は、三十歳半ばで終わった。

 早くに父を亡くし、母親も介護が必要になる状況だったため、俺は必死で働き、母親の面倒を見てきた。


 だがその母も亡くなり、俺は完全に燃え尽き症候群になってしまっていた。


 介護は大変で、時には母親を憎みたい気持ちもあった。しかし母が亡くなるとそれはそれで、心に何かぽっかりと穴が空いた気持ちになってしまった。

 詰まっていた物がなくなり、できた空白に入れる物を、俺は何も持ち合わせていなかったのだ。


 娯楽も趣味も――

 恋人なんて、年齢=恋人いない歴だ。

 いや、これだ! という女性と出会わなかっただけだ。非モテだという意見は断固として否定する。


 そんな空虚な気持ちを抱えながら、俺は深夜のコンビニで買い物をして帰っている途中、突然全身に強い衝撃を受け、気が付くと真っ白な空間で何故か正座していた。


 頭から布を被って顔を覆っている、いかにも怪しげな女の前で――

 

 現状を把握できず、ポカンとして薄く口を開くしない俺。だけど視線は、怪しさ百万倍な女に向けられている。


 ギリシャ神話とかで出てきそうな白い布を巻き付けたような服を着ていた。

 両腕は何も覆われておらず、素肌が顔を出しているが、スカートは長くて足先しか見えない。


 そして顔は、頭から被った布が顎まで伸びているせいで、全く分からない。女だという判断は、服装と身体付きからくるものだ。

 こんな女が街中あるいてたら、コスプレに間違われるか、おまわりさんに職質されるだろう。


 そんなことを考えていると、あの女の顔を覆った布が僅かに揺れた。

 怪しさのわりには、女性らしい高い柔らかな声色が俺の耳の奥を揺らす。

 

「私はここ、異世界ファナードの管理者である女神です」


 ……あ、これ、やばいやつだ。

 変なツボを売りつけられる前で、早く距離を取らねば。


「ア、ハイ、ソウデスカー。では俺はこの辺で……」


 シュタっと手を挙げ、立ち上がろうとしたが、


「ここから出ようとしても無駄ですよ。だって貴方はもう死んでいるのですから」

「え?」


 自称女神の言葉を聞き、俺は固まった。

 自然と唇から、疑問が洩れる。


「しん、でる? どういう……」


 も、もしかして、これってラノベ展開でよくある――


 自称女神は俺の考えを読んだのか、大きく頷いた。

 

「井上拓真さん。あなたは死にました。私が八つ当たりで放った――雷のせいで……って痛い痛いっ‼」


 気付けば俺は、自称女神の両肩に掴みかかり、ギリギリと力を込めていた。

 先ほどまで凜としていた女神の声に、涙声が混じる。


 もちろん、女性には優しくすべきだと思う。

 だけどな……殺人犯にまで優しくする義理はないからなっ!


 とうとう自称女神が泣き出した。


「ご、ごめなさい! 私だって色々とストレスが溜まってて……ちょっと大声上げてストレス解消する感じで雷放ったら、まさかコンビニから出て来たあなたに当たるなんて……」

「そんな軽い感じで雷落とすな!」

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ‼」


 とうとう女神は地面に額を付けて謝りだした。

 小さな身体がプルプルと震えている。


 確かに相手は俺を殺した殺人犯だが……


「……もういい。顔あげろ」

「え? 許してくれるんですか?」

「別に許したわけじゃない。諦めただけだ。どうせここでお前を袋叩きにしても、俺はよみがえらないんだろ?」

「いまさらっと怖いことが聞こえた気がしましたが……ま、まあそう……ですね……」


 ブツブツ何かいいながら、自称女神は指先をモジモジと弄っている。


 言葉どおり許したわけじゃない。

 でもあの人生に、何の希望も見いだせなかったのは事実だ。


 別に中の良い友人がいたわけでも、彼女がいたわけでもない。

 これから頑張ればよかったのだろうが、そう奮起するほどの気力が俺にはなかった。


 ならばもう開き直って、来世に期待するしかないだろう。


「お前、さっきコンビニって言ってたよな。ってことは、俺がいた世界の知識があるようだな?」

「え? あーまあ……ほどほどには。私はあの世界の副管理者ですので」

「ってことは、最近流行のラノベのお約束があるだろ。こう……俺を間違って殺してしまった詫び……というか……」


 それを聞き、自称女神はポンッと両手を打った。


「勿論です! 蘇らせることはできませんが、次の転生先として、私が管理する異世界【ファナード】にあるエクペリオン王国の王族を考えております」

「王族……か」


 まあ、貴族や王族は、転生系の基本だもんな。

 そしてもう一つ、忘れてはいけないのは――


 ちらっと自称女神を見ると奴は、分かってますよと言いたげに得意げに頷いた。


「後、あなたには望む能力を授けたいと思います。井上さんの世界でいう『チート能力』ってやつを。ただし一つだけですが」

「ま、まあ……いいだろう」


 よぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっっしっっっっっっっっっ!

 これで俺もチート能力で無双して、美女や美少女に囲まれてウッハウハなイージーなスローライフだぁぁぁぁぁぁ‼


 さもそれで手を打ってやろうという表情を浮かべつつも、心の中で滅茶苦茶ガッツポーズをしていると、突然白い空間が輝きだした。

 あまりの眩しさに右手の甲で目許を覆いながら、自称女神に向かって叫ぶ。


「な、どうなってる!」

「申し訳ございません。もう転生する時間です」

「っておいっ! まだチート能力もらってないぞ!」


 俺が叫ぶと、少しの間だけ沈黙があった。


「……それにつきましては、欲しい能力をよく吟味なさってください。なにせ私が授けられる能力は一つだけなのですから。能力が決まり次第、私を心の中で呼んで頂ければ、いつでも授けましょう」


 後から申請でもOKってことか。


 身体に、引っ張られる感覚が襲い掛かったかとおもうと、グングンと上昇していく。

 

 もうさっきいた場所から離れているはずなのに、自称女神の声が耳元で聞こえた。

 その声は笑いを含んでいて、でもって何故か震えていた。


「あなたが転生する時、これまでの全ての記憶を失います。チート能力が欲しければ、どうか頑張って今の私との会話――つまり前世の記憶を思い出してくださいね?」

「え?」


 ちょ、まてっ!

 もし前世を思い出さなければ……俺のチート能力が、ウハウハのハーレムスローライフ生活がなしってことか⁉


「くっっっっっっっっそ女神がぁぁぁぁぁっ‼」


 そう叫びながら俺の魂は今の俺――レオン・メオール・エクペリオンの中に吸い込まれていった。


 そして睡眠不足からくる眩暈で倒れ後頭部をぶつけたことで、三十二年の時を経てようやく全てを思い出したのだった。



✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚ ✽.。.:*・゚

カクヨムコン参加のため、新作を始めました!


正直、間に合うかは分かりませんが、頑張って更新しますので、お好みに合いましたら是非フォローや評価(お星さま)を頂けますと嬉しいです♪

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