第23話 殺伐とした、帰り道
———二一時。
俺達はやっとバイトを終えて帰宅することとなった。
勿論横には、俺と同じ時間にバイトが終わった絵里奈ちゃんがいる。
そして———追跡者達も。
結局今日は最後まで眼鏡君が来ることはなく、途中からはずっと黒髪ピアスと茶髪キノコが監視をしていた。
ただずっと録画を撮っている……というわけではないらしく、今も後方に距離を置いてついて来ているが、録画をしている様子は見られない。
「……これは良い情報だな」
「? どうしたの?」
「いや、夜は怖いなって」
「ふふっ、何よそれ。子供じゃないんだし」
柔らかく笑う絵里奈ちゃん。
始めの頃より随分と俺を信頼してくれている様子で、俺としても大変嬉しい限りだ。
同時に、この笑顔を自分のために奪ったあの黒枝とかいう塵屑への怒りが更に湧いてくる。
「……何かあったの?」
どうやら怒りが少しばかり表情に出ていたらしく、心配そうに絵里奈ちゃんが俺の顔を覗き込んで来た。
ただここで言うわけにはいかないので、直ぐにへらりと笑みを浮かべて誤魔化す。
「いやいや何もあるわけないって。何せ俺は何処にでもいる一般高校生だからさ」
「喧嘩して停学した人にそんなのもう通用しないし」
「……皆んな一度は停学するもんだよ?」
「そんなわけないじゃん。まぁ……あの時の快斗はカッコよかったけど……」
恥ずかしそうにボソボソと喋る絵里奈ちゃんには非常に申し訳ないが……全部聞こえてるんだよな。
だって夜だし、周りの音とかほぼないし。
ただ、ここで俺は指摘しない。
てか、指摘できるほど俺のメンタルは強くないんです。
「ん? なんか言った?」
「別に何も」
俺が聞こえてない体で訊くと、絵里奈ちゃんは案の定はぐらかしてプイッとそっぽを向いた。
そういうところもとても可愛い。
———ってことで、あんまり俺の楽しい時間を邪魔して欲しくないんだよな……。
俺はチラッと後ろを見ると……未だについて来ている黒髪ピアスと茶髪キノコについて内心愚痴る。
同時に丁度街頭が近くに無くてスマホのライトがない暗過ぎると感じるくらいの場所に辿り着いたので、絵里奈ちゃんの耳元に口を近づけて告げた。
「きゃっ!? な、何———」
「二人ストーカーが居る」
「っ、何を……」
「ごめん、ちょっと俺に合わせてくれ」
俺は絵里奈ちゃんの肩を抱き、少し足早に角を曲がると、絵里奈ちゃんに「スタンガン持ってて」とスタンガンを渡し、更に二つのスタンガンを手に持つ。
少しするとタタタッと此方に小走りで駆け寄ってくる音が聞こえ、後ろから絵里奈ちゃんが息を呑む音が聞こえた。
説明が少なくて申し訳なく思うが……コイツらを一気に叩くには今しかない。
そして遂に、二人が曲がって来た。
その瞬間———。
「———ガッ!? カハッッッ!!」
「ど、どうし———アガッ!? ゴホッ!?」
次々とスタンガンを押し当てて動きを鈍らせると、一人には鳩尾に膝を入れて呼吸をし辛くし、もう一人には背負い投げで動けなくしてやる。
そして痛みに呻く二人に再びスタンガンを押し付けると、問い掛けた。
「黒枝の差金か?」
「っ、な、何なんだ……」
「くそッ……何で……」
「おい、動くなよ」
こんな冷徹な姿を絵里奈ちゃんに見られたくはなかったが……絵里奈ちゃんを守る為であると自分に言い聞かせ、二人にもう一度スタンガンを食らわす。
「———っ、ぐぁあああッッ!?」
「コイツい、イカれてんの———があああああああッ!? わ、分かった! 動かないし言うからやめてくれ!」
「信用出来ないな。お前ら今は録音とか動画は撮ってねぇよな?」
「と、撮ってねぇ、なぁ!?」
「あ、ああ! 何なら見てみてくれてもいい!」
……まだ少し余裕がありそうだな。
俺は時々絵里奈ちゃんの方を見ている二人に目を細め、再びスタンガンを……押し当てた所で茶髪キノコが叫んだ。
「っ!? も、もうやめ———ま、マジだからッ! ほんとに撮ってねぇしもうあの女に危害も加えない!! ほんとだ! マジだからもう辞めてくれ!」
「お前は?」
「お、俺も———うがぁあああああ!?」
俺はスタンガンでは無く、関節を決めて今一度聞く。
「もう危害は加えねぇか? なぁおい」
「は、はひっ!! もうしません! この件からも手を引きます!!」
だからやめてくれ、と足をバタバタさせる黒髪ピアス。
今俺は茶髪キノコは離しているが、どうやら本当に危害を加える気はないらしく大人しく俺達の方を見て震えていた。
さて、ムチはこのくらいにしておくか。
取り敢えず二人の害意を削ぐことが出来たので、俺は次の行動に移った。
「お前ら———どんな条件で黒枝に頼まれた?」
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