第316話 天狐通りの快女狐

 マーケットにあった家具屋で無事、多めに払う事でベッドや布団類一式を一台分、本日中に手配する事が出来た。晩飯と、ミズー待望の赤いパイを七個(タイキとダイチの分を合わせて六個、一個は俺たち三人の分だ)買って家に戻る。


 食事をしていると、やはり天狐がまた飯をせびってくるので分け与えた。与えても大丈夫とミズーが言っていたのと、皇都の周りで狩りは無理なので晩飯は多めに買っておいた。


 天狐はミズーのように、流石に箸やフォークは使えないが、前足を使って器用に食べている。この手の味に慣れてしまうと、野生に戻った時に大変な気がする。


『さて、トールよ』


 食後のデザートに赤いパイをモリモリ食べながらミズーが切り出す。


「なんだ?」


『ここには麻雀卓と麻雀牌が置いてあったであろう』


「ああ、流石に卓をもって旅するのは無理だからな。奥に置きっぱなしになってるはずだ」


 見に行ってみると、やはり置いてあった。


『タイキとダイチの奴が来てからやろうではないか。今日からしばらくはここに滞在するのであろう? じっくりと楽しめそうだな』


「まあ良いけど。エーファとジルはどうする?」


「私はトールと交代でたまーにやるぐらいで良いかな。この家って楽器の調整とか、演奏の練習しても良いよね?」


「他の家まで結構距離があるし大丈夫だろ」


「私は読みたい本があるのと、せっかく皇都まで来たなら書店を巡りたいので麻雀は遠慮しますよ」


「皇都は治安が良いみたいだが、出歩く時は俺かジル、もしくはミズーを連れてってくれよ」


「分かりました」



 ほどなくしてタイキ、ダイチが現れ、ミズー、俺を入れて麻雀が始まった。やはりミズーがガチガチの打ち筋で強いな。


 さっきから気になるのは、俺の後ろで天狐がエジプト座りをしてじっと麻雀を見続けている事だ。興味でもあるのだろうか?


『ねえ、トール』


 そう思っていると、後ろから天狐から話しかけられる。


「ん、何か用か?」


『それは四人で実施する遊戯だよね。牌って呼んでるその四角い箱に描かれた絵を、一定の法則で揃える、それが揃うと一定の点数が付いて、その点数の高さを競い合うって規則で合ってる?』


「ああ、よく分かったな」


 特に教えたわけでもないのだが、天狐は俺たちが麻雀をやっているのを見て大体理解したらしい。


『基本的には三個、三個、三個、三個、二個の組み合わせにするっぽいけど。たまーにそれと関係が無い組み合わせもあるみたいだね。ヒトって面白い事を思いつくね』


『貴様は麻雀に興味があるのか?』


 ミズーが天狐に問いかける。


『やっても良いなら、やってみたい!』


『良かろう、トール代わってやれ』


「でもお前、牌を取る事が出来るのか?」


『空気を操る「加護」を使って足に吸着させれば問題ないよ』


 タイキが使っている方法と似ているな、天狐は複数の『加護』を使えるという話だったが本当のようだ。


 俺が椅子からどくと、天狐がその椅子の上に飛び乗ってから、エジプト座りした。


『よし、では始めるぞ』



 ミズー、ダイチ、タイキ、天狐での麻雀が始まった。俺は近くに座ってそれを見ていた。ジルも興味があるらしく同様に近くで見ている。エーファは全く興味がないのか、持って来た本を奥で読んでいるようだ。


 最初の半荘は、天狐が全くダメで放銃しまくり、ミズーやタイキに役を献上しまくっていた。だが、そこから三ゲーム程すると、天狐も川を読む事を覚えたのか容易に放銃しなくなり、ずっとビリだったのに、ついにダイチを抜いて三位を取った。


「……すごい学習能力だね」


 思わずジルが呟く。


「ここまで賢く、複数の『加護』が使えるとなると、人類に敵対したら大変な事になるな」


『ボクはそのつもりはないから大丈夫だよ。今はトールの仲間のつもりだよ!』


 西を捨てながら天狐がそう言う。


『過去に存在していた天狐も表立って人類に敵対した個体はおらぬかったはず。その力を利用しよう、討伐しようと等して手を出し、酷い目にあったのヒトはいたはずだが。天狐は元々好戦的な獣ではない』


 今度はイーピンを捨てたミズーがそう言った。


『そうそう。心配ないよ』


 そう言ったタイキが、キューソーを捨てる。


『……』


 黙ってダイチが白を捨てる。


『さーて、これでリーチだ!!』


 そう言ってから天狐が中を捨てて、点棒を取り出す。少し反応したがミズーが安パイを捨てる。タイキは少し考えてから、ウーソーを捨てた。


『それ、当たりー!! えーと、リーチ、一発、平和のみってやつかな。ドラは……乗ったから八千点で合ってるよね!? やったー!!』


『やられたー!!』


『ウーソーはどう見ても危険牌ではないか、何故捨てた?』


『僕の勘では通ると思ったんだけどなあ。ようしまだまだやろうじゃない!!』


『……』


 ダイチも頷いている、天狐もやる気満々のようだ。


「俺たちはもう寝るか」


「そうだね」


 三頭と一匹の麻雀はどうやらまだまだ続くらしいが、俺たちは寝させてもらおう。しかし、狐まで麻雀が出来るとは異世界ってとんでもねえな。

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