第32話 美美さんより〜形見分け
一方その頃…
【華恋side】
「あら、華恋さん一人なんね?」
太郎が以前使っていた部屋は現在紗和子の部屋になっている為、母屋の空いている部屋に泊まる事になった太郎と華恋。
夕食に出された美味しそうな田舎料理を存分に堪能した華恋は、食べ過ぎたお腹を擦りながら後で入浴すると太郎に告げ、一人部屋でくつろいでいた。
するとそこに祖母の美美が尋ねて来たのだった。
「あ、ハ、ハイ!タッくんなら今お爺ちゃまとお風呂に行ってますです」
「フフ♪そんな無理に畏まらなくてもよかよ(笑)」
やはりまだまだ緊張感が抜けないのか、美美の言う通り畏まり過ぎて変な日本語になっている(笑)
「解ります?」
「勿論だで♪じゃ〜よかったらちょっとこっちに来なっせ♪渡したかもんがあるけん♡」
「??ハイな…」
お互いそう会話を交わしながら笑い合う。
すると不意に美美からそんなお誘いがあり、言われるまま彼女について行くと…
「ささ、どうぞ〜」
そこはどうやら祖父母の部屋らしい。
凄く豪華な仏壇とその上の壁面に白黒の写真が飾られていた。
おそらくご先祖様のものだろう…
何処となく太郎に雰囲気が似ている写真もあった。
そして華恋自身初めて見た、ちょっと大きめで花鳥風月の彫刻が施された火鉢が置いてあった。
そのせいか、部屋の中がとても暖かくなっている。
「改めて…華恋さん、ホンに太郎と世帯持ってくれてありがとうな〜これからも末なご〜あの子と添い遂げてやってくれんねね♪」
座布団がニ枚…
美美に促されるままそこに座った華恋…
するとその目の前に座った美美が静かにそう言いながら頭を下げた。
「お礼なんて…こちらこそ皆で結婚を許してくれて感謝だし、タッくんの子供の頃の話も聞けて嬉しかったし、ありがとう御座いますお婆ちゃま♡」
その行為に恐縮した華恋は、慌てて彼女と同じ様に頭を下げている。
その光景は何だかほのぼのとした空気をかもしだしていた。
「ん〜やっぱり《オバァ〜ちゃま》って響き良いわね〜♡それに太郎の事 《タッくん》って呼ぶのも素敵やね〜仲睦まじい感じで良いわ〜」
「エヘ♪♪」
顔を上げ微笑みながらそう告げる美美…
華恋も顔を上げ照れくさそうに微笑んでいた。
「それでな華恋さん…これを受け取っちゃらんかの」
「え?綺麗なかんざし…」
すると美美は脇に置いていた長方形の木箱を華恋の前に差し出すとそう懇願した。
華恋は美美の《開けてご覧》のジェスチャーに促されてその木箱を開けると、中からそれはそれは細かな細工が施された美しいかんざしが現れたのだった。
「それな、私の母の形見での…何でも旦那さんから初めて買って貰ったものらしいで、最後まで後生大事に持ってたもんなんじゃ」
「え!そ、そんな大切なの美代子ママとか稲代義姉様や紗和子ちゃんにやるものだし(汗)」
「ハハハ♪心配いらんで(笑)あの子達にはちゃ〜んと別のもん渡しとるし、紗和子の分も用意しとるから」
そんないきさつを聞いて驚いた華恋は、慌てかんざしをしまい木箱の蓋を閉めると目の前に置き直した。
しかしそんな彼女のリアクションと発言を、笑いながら受け流す美美。
そして華恋にこう告げた。
「………」
「華恋さんは服飾の仕事ばしとんじゃろ♪何時かこのかんざしが似合う服ば作ってくれんね♡そしたら私も私の母も嬉しかけんがら」
今まで以上に優しい眼差しを華恋に向ける美美…
「…お婆ちゃま…ウン、解ったし!約束するし!!」
「そうかい♪じゃ〜約束だよ♡」
その眼差しと言葉に意を決した華恋は、握り拳を作りそう約束したのだった。
ちなみにコレは余談なのだが…
後に華恋は、このかんざしをイメージして仕立てた初の和装で、この業界のみならず各方面で一躍有名になるのであった♫
「あ〜ここにいた♫華恋さん一緒にお風呂行こう♡」
そこへ突然紗和子が現れ、お風呂に行こうと誘いにきた。
「あれ?タッくんとお爺ちゃまは?」
「父さん達に捕まって飲み直してる(笑)」
やれやれ…(汗)
「あらあらだったらおつまみが足らんやろうに、何か作ろうかね〜」
「母さんと美代子さんも一緒にお風呂行くからそれがいいかも」
美美はそれを聞くと、華恋よりも先にゆっくりと立ち上がり台所へ向かった。
「え、美代子…さん?」
「あ〜なんでもね、おバァちゃんて呼ばれたくないらしいわ(笑)」
「あ〜〜♫」
それは何となく納得できた華恋…
おそらく冴子も孫が出来たらそんなリアクションをするだろう(笑)
なんだかんだ言いつつ、美代子と冴子は似ているのかもしれない。
その時…
「コラ紗和子!聞こえてるわよ!!早くきい〜(怒)」
「ほら行こう〜♪」
「「ハ〜〜イ今行く〜」」
美代子の地獄耳が炸裂した。
どうやらその手の話は良く聞こえるらしい(笑)
二人は笑顔で顔を見合わせると笑いながら入浴に向かうのであった。
…続く…
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