第16話 強硬手段
あのイベント明けの翌週から猫丸産業は各部署大忙しで走り回っていた。
あの都市に建造されている商業施設の空きテナント状況の問い合わせや賃貸契約、マンション・戸建住宅等の問い合わせ等、不動産関連部署がその対応にてんてこ舞いになり、各営業部署も企業からのイベント立案の相談、業務提携や契約、提携等の話を持ちかけられたりとかで目が回る様な忙しさなのだ。
勿論、他の部署も似たりよったりである。
それにモーターショーに参加した各メーカーも然りだった。
特に痛車の成約が伸びたはいいが、ほぼオーダーメイド・カスタマイズ案件だった為、それなりに手慣れた下請工場に委託するにも限度があった。
結果、本社工場や各支社の工場でも急遽臨時でそれに携わる部門を作りその対応にあたっていた。
そしてこちらも…
「店長、こちらが昨日のオーダ一覧です」
「今回も多いわね〜」
ブティック【HANAKO】の奥にある店長室。
冴子は凛夜が持ってきた注文書の山に軽く目眩を起こしそうだった。
モーターショー開催中に来場者やコスプレサークルに配布した自社カタログ、口コミ、メディア、SNS等の宣伝媒体の活用が功を奏して、予想以上にコスプレ衣装等の注文が舞い込んできているのだった。
「オーダーメイドという理由で納期の方は結構頂いていますが、年末に行われる冬コミには間に合わせるようにとの希望が殆どです」
凛夜が言う様に衣装に関しては、ほぼフルオーダーな為、冴子が経営するデザイン会社【WAKANA】か保有している自社工場をフル稼働して対応していても、それでもギリギリの状態なのである。
そんな状態に頭を抱えている冴子。
しかし彼女にはもう一つ気になる事があった。
「解ったわ…それよりも凛夜、9月の最終選考会に発表する作品制作は順調に出来てるの?」
そう…
あの《WORLD・Fashion・Contest》の件である。
「ん〜華恋以外は…って所ですかね〜」
「あら、あの娘ってば色恋沙汰に夢中になり過ぎて集中出来てないのかしら?」
そんな凛夜から意外な答えが帰ってきた事に驚く冴子は、直ぐにそんな疑いを掛けてきた。
しかし…
「アハ♡華恋に限ってそれはナイナイ(笑)」
笑いながらそれを否定する凛夜。
それは華恋の事を公私共に熟知する幼馴染だからこそ断言できるセリフなのだろう。
「じゃ〜何で?」
「ど〜も作品のテーマを変えたらしいですよ」
「え、今更?」
その更に意外な答えに驚きを隠せない冴子。
事実、コンテストまで2ヶ月を切った今の状態で、コンセプト等も含め、総てを最初からやり直すのは結構無謀な事なのだ。
「詳しくはウチラにも教えてくれないからよく解らないですけどね、それで苦戦してるみたい」
案の定そういう事らしい…
「そうなのね…まぁ〜何かあったら言ってくるでしょう♪報告ありがとう、皆頑張ってね」
「はい、ありがとうございます♪では失礼します」
『あの娘ったら…どんな心境の変化なのかしら…』
実の娘とはいえ、冴子は必要以上の詮索をするのは今後の事も考えて良くないと考えたのか、敢えて放っておく判断をした。
それに凛夜達三人も同じ条件で頑張っているので、それを尊重したかったのである。
だからなのか、そんなセリフを心の中で呟きながら、この件に関しては心の隅に留めるのみにしたのであった。
一方その頃…
そんな母の心配なんてお構い無し的な当の本人はというと…
「………どういうこと?」
「だって洗濯物が溜まってるの我慢出来ないタイプだし〜♡」
この間の休日出勤の振り替えで午後から半休を取り、食材を買い込んで自宅へ帰って来た太郎は、鍵が掛かっていた筈の自分の部屋で故か当たり前の様に溜まっていた洗濯物を嬉しそうに干している華恋の姿を見て、完全に思考が止まってしまっていた。
「あ〜それでね…ってじゃなくて!な、なんで…華恋さんが…う、家に居るの?」
どうやら少しは思考を取り戻したらしい太郎(笑)
凄くまっとうなツッコミがある。
「この間こっそり携帯にGPSアプリ入れたし♡」
「な、成る程ね…って、そ、そうじゃなくて!」
更に冷静になってきた太郎(笑)
確かモーターショー開催中、携帯の電源が切れかかっていたから、彼女に充電を頼む為に預けた記憶がある。
おそらくその時だと太郎は予想した。
まぁ〜確実にビンゴだろう(汗)
しかしヘタしたら犯罪一歩前の行為で何だか怖い…
ある意味ヤンデレと言っても良いかと思う(怖)
それと…
「あ〜鍵なら不動産屋さんに連絡して開けてもらったし♡」
太郎が何をツッコミたいか察した華恋は、直にその答えを口にした。
「え?」
「そこの店長さん、(鬼無里)おじさん知り合いだし〜おじさんの名前出して《鍵を無くして入れないの〜(号泣)》って言ったら、確認の連絡取ってくれて〜それで身元確認取れたからって笑顔で開けてくれたの〜♡」
「ほ、本部長…は…て、店長には…な、なんて説明を…」
「《フィアンセ》ですって♪キャ♡♡♡」
「………はぁ〜?」
総てが繋がった…
共犯者がいたのだ…
しかもかなりタチの悪いのが…
確かにこのマンションを紹介してくれたのは鬼無里である。
猫丸産業に就職が決まり、大学の寮から出ていく事になった際、引っ越し先を探すのに難航していた自分に
当時指導員をしていた彼がここを紹介してくれたのだ。
それに不動産屋の店長も鬼無里の知人という事で、初期費用を大幅に値引きしてくれたばかりか、何故かファミリー用の3LDKSの広い部屋まで用意してくれたのだった。
でもね…
「は、華恋さん…きょ、今日は休み…ですか?」
色々と釈然としないものを感じつつ、無理矢理自分を納得させ別の話に切り替える太郎。
「ハイな♪凛夜達と交代でこの間の振り替え休日とってるん♡」
華恋は嬉しそうにそう言いながら洗濯物を干し終わると、洗濯籠を片付けに太郎の前を通り過ぎた。
その時彼はこの部屋で嗅いだ事が無い女の子らしい香りに何だか照れくさくなって横を向いた。
その時である。
「ん?」
太郎は使っていない部屋のドアが少し開いてる事に気が付いた。
何故かそれがちょっと気になる太郎…
と言うか、凄く嫌な予感がした彼はその部屋に足を踏み入れようと恐る恐る静かにドアを開けた。
すると…
「あ〜その部屋かっわいいしょ〜♡」
「え、え…え?」
いつの間にか異次元の世界に変わっている(笑)
ではなくて!
いつの間にか華恋の好みだろう…
女の子らしい部屋に早変わりしていた(汗)
薄いピンクのカーテンに…
真っ白なアンティーク風のドレッサー…
仕事に必要なマネキンと作業机や作業ラック…
それに太郎が見たこともない様な仕事道具の数々に…
ツリーコートラックスタンドやガーメントラック…
他にも数個の開いてないダンボール等々…
誰が見ても誰かさんの自室にしか見えない(笑)
おそらく…
いやこんな用意周到加減、絶対裏に協力者がいる!
※勿論、あの太郎の上司だろうけど…
絶対的な確信を持った太郎は、頭を抱えながらフラフラとベッドがある自室へと向かい部屋のドアを開いた。
するとその瞬間!
『あ、あれはもしや噂で聞いた陽キャラ必須アイテムの一つ《Yes-No枕》!!』
太郎よ、それは誤解だって…(汗)
だが確かにそうだ…
太郎お気に入り《Queen・Size》のベッドに置いていた何時もの枕が、いつの間にか巨大な二つのその枕に変わっていたのだ(笑)
それを見て目を見開きフリーズしてしまった太郎(笑)
どうやら嫌な予感が大当たりしたらしい。
そんな彼のリアクションなんて気にもせず…
「そうそう、タッく〜ん♡コンテストが終わったらお買い物付き合ってね♪」
「………ハイ?」
華恋は次に掃除機をかける準備をしながらそんな約束を太郎にとりつけるのだった。
そんな彼女のセリフに、再び嫌な予感がしてならない太郎…
なんだけど…
……まぁ〜頑張れ……
…続く…
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