第6話 その日…華恋の夜
母親から届いた咎める様なメールに腹を立てながら何時もの様に裸でベッドに潜り込む華恋…
そんな彼女を夜の暗闇と静寂が優しく時を刻みながら包みこんでいた。
「…私だってさ…そんなん解んないってばさ…」
独り寝の物寂しさにも慣れた彼女は、天井の一点を見つめながらふとそんなセリフを漏らしてしまう。
そう…
彼女だって本当は解らないのだ。
今自分の内側に流れこむこの感情が…
大卒らしいから自分より学はある。
ただ母親と同い年のアラフォー。
見た目なんかも小太りで私よりも背も低くて、髪だって正直少し薄い上に猫毛…
それに確実にビビりな上にコミュ障でオタクっポイ。
下手するとあの歳で母親が言う通り童貞かもしれない。
そうじゃなくてもセックスはヘタでテクが無さそう…
女性のエスコートもヘタそうだし、仕事でそこまで稼いてる様にも見えない眼鏡中年。
…でも…
不器用だけどとても優しく笑う♪
こんな感じの自分だけど、他の男共みたいにスケベな目で見ないし、普通にかまってくれる。
それにちょっとからかうと直ぐ赤くなるし(笑)
…そして…
煙草や変なコロン、整髪料の香りがしない。
ちょっぴりだけ珈琲の様な残り香が何だか安心する。
何だろ?
それもかなり昔に嗅いだ事のある懐かしい匂いだ…
だからなのかあの時、時間は短かったけど飾らず、カッコつけず、見栄もはらないで素のままでいられた。
それに気付けばいつの間にか笑ってた。
身体を重ねなくても何故かまた会いたくなった。
…今日だって…
いつの間にかあの顔を思い出してボーっとしている自分がいる。
偶然彼を見かけた時なんか自然と駆け足になった。
連絡先を聞きそびれ後悔してた気持ちが吹き飛んだ。
…顔を見た途端一瞬で…
自分がどんな感情で今いるのか…
どんな気持ちに今支配されているのか解った。
「何でだろう…ん〜〜やっぱさ…惚れちゃってるんだろうな…うち…」
改めてそう自覚する華恋。
それを素直に認めても何の抵抗も不快感も感じない。
思い起こせば、男友達も彼氏も欲しいと思ったら直ぐにできた。
処女なんて、とうの昔に捨てている…
性癖だって気持ち良ければ何でもOK…
今は高校を卒業して大好きな職業のついているから男なんていらないと思っていた。
一人暮らしだって直ぐに慣れた。
むしろ好きな時間に好きなだけデザインの勉強に集中できて充実している。
専門学校も考えたけど高校で基本的な事は勉強したし、第一プロのデザイナーで目標とする母親がいる。
「だけど…ね…」
支離滅裂でとりとめのない深い想いが繰り返し浮かんでは消えている…
それにここに至って一つだけ否定出来ない確証が、頭の中を今グルグル回っている。。
「もしかしなくても…私独占したいんだ…ずっと…誰にも渡したくないんだ…マジで…」
おそらく彼女にとって初めて芽生えた感情…
定義は色々あるだろうが、もしかしなくてもそれが彼女にとっての《初恋》と呼ばれるものなのかもしれない。
ただ、そうだとして次に何をどうしたら良いのか…
気づけば何も解らない華恋は、困惑した表情を浮かべながら頭までスッポリと布団を被り無理矢理眠りにつく努力をするのだった。
…続く…
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