1-14不幸な再会

「ティエル、私に貴方を壊させないで。私はもしも貴方に裏切られたら、貴方のことを壊しちゃいそうなくらい愛してるの」

「ああ、俺は君を裏切ったりしない。だから、俺のことは壊さないで傍においてくれ」


「ティエルったら本当に可愛いんだから、でもそんなことを知っているのは私だけでいいわ」

「可愛いのは君の方だろう、昨夜の君は本当に可愛くて、優しくするのが難しかった」


「私だってサキュバスだもの、相手を誘惑するのは得意なの。それが愛している相手なら、もっと強く誘惑してしまうのよ」

「ひっ、昼間は誘惑するのもほどほどに頼む。毎日、それで執務ができなかったら困ってしまうから」


 私とティエルはそんなことを言いながら浴室を出た、そうして着替えていつもどおりに魔王と家族が使う食卓についた。リヒトもその場所にもう来ていた、そして昨日いっぱいティエルに愛して貰った私に向かって、親指を立てて私のことをよくやったと褒めてくれていた。リヒトはその他にも情報をもう手に入れてきた、あの私の愛人になりたがったヴェルという男が情報源だった。


「やっぱり元魔王アヴァランシュを復活させたのはネルビオ家だぜ、昨日散々あの男を女のように泣かせてやったらすぐに吐いた」

「ふふっ、リヒトったら仕事が早いわね。あのヴェルっていう子を泣かせて、もう女の子みたいにしちゃったの?」

「ネルビオ家か!? リヒト、具体的な証拠はあるのか?」


「いいや、さすがに貴族だけあって用心深い。アイツはネルビオ家が元魔王アヴァランシュを復活させた、そう確かに実家の魔族から聞いたそうだが、アイツ自身が妾腹で使い捨ての駒だから証拠を見ていない」

「それじゃ、ネルビオ家を強引に調べることはできないわね。妾腹だからって使い捨ての駒だなんて、本当に貴族のやり方は嫌いだわ」

「具体的な証拠を見ていないのは残念だ、でもこれで完全にネルビオ家は敵だな」


「ああ、そうだ。油断しないで背中から刺されないように気をつけなきゃな、ネルビオ家に関係している魔族の侍女や使用人はもう首にした方が良いぜ、それとネルビオ家が反乱軍を起こそうとしている」

「そうね、リヒトの言う通りだわ。元魔王アヴァランシュと戦うんだったら、背後には十分に注意しておかなくちゃ。それじゃ反乱軍を相手する軍を残していかなきゃね」

「俺を援助してくれている貴族のところから新しく魔族を雇おう、ネルビオ家に関する魔族を首にしてもそれなら問題ないはずだ。軍は三つに分けたほうがいいから元魔王への討伐軍、そして反乱を鎮圧する軍、それからこの魔王城を守る軍だ」


 そうしてまず魔王城内の大掃除をすることになった、ネルビオ家に少しでも関わりがある侍女や使用人は首になった。リヒトが尋問し彼らの嘘を見抜いて次々と首にしていった、首にする理由は私の愛人ということになっている、リヒトに無礼を働いたことにしておいた。リヒトは悪役でも何でもしてやると言って、密偵かもしれない侍女や使用人は首にして、新しく迎え入れた新人のことも調べてくれた。


 インキュバスで嘘を見抜くことが上手いリヒトを騙せる者は少なかった、ティエルが新しく連れてきた侍女や使用人のほとんどは味方だったが、二人ほどリヒトの尋問に引っかかる者がいた。だからちょっと拷問して吐かせてみると、彼らはネルビオ家から送り込まれた密偵だった。彼らも詳しいことは知らされておらず、使い捨ての駒に過ぎなかった。


「それからフィーネ、俺が今から言うことをよく聞くんだ」

「ええ、リヒト。ティエルに言えないなんて一体何が遭ったの、私だけが聞いた方がいい話なのね」


 そうして私はティエルがいない間に大変なことをリヒトから気かされた、それは本当は優しいティエルにとっては辛過ぎることだった。だからリヒトは私だけにその大事なことを教えてくれたのだ、私はティエルを悩ませたくなかった、苦しませたくなかったから私とリヒトだけで、そのことだけは秘密にしておいた。そしていざとなったら私が戦うから、そうリヒトには言っておいた。


 そうしている間に元魔王アヴァランシュが、とうとう復活したという噂が絶えなくなった。私は魔王城を出て戦わなければならなかった、そうして魔王軍を率いて私とティエルは、元魔王アヴァランシュが現れた地域へと向かった。私たちは来るまで民は怯えていた、だから私たち魔王軍を歓迎してくれた、元魔王アヴァランシュのいるところへ向かった。


「お待ちください、魔王フィーネさま。どうか、わたくしを連れていってください!!」


 そんな私たちに勝手についてきた者がいた、それは浄化の上級魔法を使えるヘレンシアだった。彼女はそんな自分の力を自慢して、そして清楚でか弱く見返りは要らないふりをして、大勢の男を味方につけようとした。私は魔王としてヘレンシアに帰るように命令した、私の魔王軍を中から引っ掻き回されるのはごめんだったが、ヘレンシア自ら罠にかかってくれたのは助かった。だからわざと私は彼女に諦めるように言った、そうして本当は彼女の軍への参加を認めるつもりだった。


「ヘレンシア・ネルビオ、今すぐに家に帰り謹慎しておきなさい」

「でも浄化の上級魔法を使えるのはわたくしだけです!!」


「そうだとしても貴女は要らないの、だから大人しく自分の家に帰りなさい」

「ティエルさま、どうか貴方さまからも魔王さまに進言ください。わたくしはきっと、きっとお役に立ってみせます」


 ヘレンシアの懇願にティエルは考えを変えたりしなかった、前方の敵と戦うのに後方から背中を狙うような味方は必要なかった。そんなものは味方とは言えなかった、ただの敵よりもより狡猾な敵だった。それでもヘレンシアは騎乗しているティエルの足に、か弱いがしっかりとしがみつくようにして懇願を繰り返した。そんなヘレンシアをティエルは煩わしそうに振り払った、そしていい加減に頭にきたのかヘレンシアにこう言った。


「そんなに俺たちの軍の役に立ちたいのなら、兵士たちの夜の世話をして貰おう」

「そっ、そんな!? ティエルさま!?」


「強い者なら誰にでも尻尾を振る貴様にお似合いだ、それでもいいなら魔王軍についてくるがいい」

「ひっ、酷いわ!! わたくしは魔王さまの役に立ちたい、その一心で来ているのです!!」


 私はヘレンシアを上手く魔王軍に組み込む口実ができたので、本当に魔王軍の男たちの中に彼女を放り込んだ。ヘレンシアは悲鳴を上げて助けを求めたが、彼女自身が望んでいたことなので放っておいた。その日からヘレンシアは魔王軍の一部の男たちの慰み者になった、夜はティエル以外の男たちに抱かれてヘレンシアは嬌声を上げるようになった。


「ふふっ、彼女が男たちに抱かれて楽しんでいる間に、さっさとすませてしまいましょう」


 私は魔王城に残ったリヒトに手紙を書いて急いで届けさせた、ヘレンシアは私の力になりたいと言ってきたのだから、私は彼女の言う通りにしてあげるつもりだった。だからリヒトに手紙を書いて面倒ごとを頼んだ、やがてリヒトから返事がきて私はこれであの女の始末ができる、そんな状態にしておきながら表面上は何事もないふりをした。


 私は彼女が魔王軍をその体を使って篭絡する可能性もあったので、一部の忠誠心が低く弱くて使い物にならない男たちだけに彼女を与えた。そして常にその一部隊を見張らせておいた、ヘレンシアは毎日ずっと男たちの玩具にされていた。でも彼女はまだティエルのことを諦めておらず、ティエルの姿を見かけたら憐れみを乞うように縋りつこうとした。


「離れろ、売女。俺に二度とその顔を見せるな!!」

「そっ、そんな!! ティエルさま!!」


「貴様は耳が聞こえないのか、そんな耳なら切り落としても構わんな」

「ひっ!?」


 そうしてようやく魔王軍は元魔王アヴァランシュを見つけた、私が初めて見る仇の姿の醜悪さに吐き気をもよおした。元魔王アヴァランシュは腐りかけた悪臭のする変形した肉体に、四本もの腕を生やして涎をたらしながらこちらに向かってきた。ヘレンシアはその姿を見て気絶したふりをしていた、あてにして無かったが浄化の上級魔法は使えなかった。


 浄化の上級魔法を使える者がいないのなら、遺体を徹底的に破壊し燃やして灰にする必要があった。だが死霊につかれて目覚めたのは元魔王アヴァランシュだけではなかった、私はティエルの傍にいってそして落ち着いてからその姿を見るように言った。それでもティエルは自分が見たその姿に驚いて、思わずこう叫ぶのが私には聞こえた。


「なっ、何故だ!? 母上!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る