1-12負け試合

「どっ、どうかわたくしを信じてください!! 必ずや元魔王アヴァランシュを倒してみせます」

「貴女の話はもう聞き飽きたわ、もっとマシなことが言えるようになったらまた来なさい」


 私はヘレンシアに向かって心の中で舌を出して、そう言って笑顔で彼女を追い返した。ヘレンシアは悔しそうにしながら最後はしおらしく帰っていった、ティエルはヘレンシアの実家であるネルビオ家を調べさせると言っていた。ヘレンシアの男の庇護欲をかきたてる演技はティエルには全く効いていなかった、ティエルは本当に自分が苦しい時に助けてくれなかった彼女を嫌っていた。


「今更になってなんだっていうんだ、俺に権力がなければ見向きもしないくせに」

「まぁ、権力が大好きっていう女性もいるもの、そんな女性は身を引くのも早いわ」


「フィーネは権力を持つ男は好きじゃないのか?」

「私は元は平民よ、元々権力なんて持っていなかったわ。だから私が好きになったのはティエル、とっても可愛いくて優しい貴方自身よ」


 私がそう言うとティエルは、照れてまた顔を赤くしていた。そして私には続けて面倒な客が来てしまった、それは魔国が接している隣国の王からの使者だった。彼らは金色の髪に緑の瞳をしているとても美しい男性を連れてきていた、そうして他の贈り物と一緒に私に差し出した。でも私は好みじゃないと言ってその男性という贈り物だけは受け取らなかった。


「隣国の使者よ、よく務めを果たしたわ。でも男はこのティエルくらい強くないと要らないの」

「それでもどうかお受け取り下さい、受けとって貰えないのなら彼を殺すしかありません」


「それじゃ、とりあえず受け取りましょう。でもこの国が受け取るのなら、一つだけ条件があるわ」

「なんなりとお申し付けください、この男は魔王フィーネさまの奴隷でございます」


 受け取らないなら殺すそんな面倒なことを言われたら、その男を受け取らないわけにはいかなかった。そんな私の言葉にティエルが何故か不安そうにしていた、確かに私はその男を受け取ったが私の後宮に入れる気はさらさらなかった。だから隣国の使者にもはっきりと今後はこんな男は要らない、そう言ってから受け取った男のことはこう処分することにした。


「確かに今回は受け取るけど、でもこの魔王城の中にはいさせない、彼は私の国民の一人にするわ」

「それはまた光栄の至りにございます、この国の民の一人として働くことをこの男なら喜びます」


 更に面倒な客は続いた、魔国の有名な貴族の息子が私に求婚を申し込んできた。彼はヴェルという真っ赤な髪に赤い瞳を持つ男性で、男らしく立派に私に求婚を申し込んだ。それが叶わないのなら愛人の一人に加えて欲しいとも言った、どうしてこんなに皆が私の愛人になりたがるのか、私にはさっぱり理解できなかった。


「白銀の髪を持ち、金色に輝く瞳をしたフィーネ女王。どうか僕の求婚を受け、共にこの魔国を平和な国にしましょう」

「私が夫にする相手はもう決まっているの、ここにいるとても可愛いティエルよ」


「それならばこのヴェルは貴方の愛人になりましょう、偶に気分を変えたい時にどうか僕をお使いください」

「私の愛人になりたいのならもっと強くなりなさい、私はティエルより弱い男には興味が無いの」


「それではティエル殿と僕を勝負させてください、きっと僕が勝利を手に入れてご覧にいれます」

「私は別に構わないけど、ティエルはどうする?」


 ティエルは私にあいつと勝負すると言った、そうしてティエルとヴェルの勝負が広場で始まった。自分で言うだけあってヴェルは強かった、ティエルとも互角に戦ってみせるくらい強かった。私はまさかティエルが負けるはずがないと思っていた、でもヴェルが何かをティエルの耳元で囁いた途端、ティエルの様子がおかしくなり彼はあっという間に負けてしまった。 


「フィーネ様、これでこの僕は貴方の愛人ですね!!」

「そう、そうね。一応は愛人にはしてあげる、でも貴方これから甘い地獄を見るわよ」


 私はティエルが負けたことが信じられなかったが、でもこんな時にも頼りになる味方が私にはいた。それはもちろんリヒトだった、彼は素早くもう広場に来ていた。そして私の愛人になると喜ぶヴェルをリヒトが捕まえていた、そうしてそのまま彼はヴェルを適当な客室にお持ち帰りした。ヴェルはとても美しかったし、リヒトが好きそうな特徴を持っていた。


「俺がこの後宮を案内してやるぜ、なぁ新入り」

「貴方も愛人ですか、フィーネさまの寵愛は譲りませんよ!!」


「その威勢の良いところがいい、俺としては今からお前を泣かせるのが楽しみだ」

「なっ、何ですか!? 僕はこれでもフィーネさまの愛人です!!」


「だから俺が調教してやるのさ、もう女なんて目に入らない、そのくらい楽しませてやるぜ」

「えええええ!?」


 そうリヒトは女性にしか興味のない普通の男性を、だんだんと女性のように可愛くしてしまって、そうもう男性でもいいと愛情で溺れさせてしまうのがしまうのが上手かった。ヴェルという男は私を抱くために愛人になろうとしたが、彼を待っているのはリヒトからの調教という名の溺愛だった。私はそれよりも負けてしまったティエルが心配で、すぐに広場にいる彼のところに走っていった。


「ティエル、大丈夫? 一体何を言われたの?」

「それが、その、どうも上手く言えない」


「体のどこかが悪いんじゃないの、どこも怪我をしていない?」

「俺の体は大丈夫だ、情けないことに負けてしまったが」


「そんなことはどうでも良いのよ、私のティエルが無事ならそんな些細なことはどうでもいいの!!」

「フィーネは本当に俺には勿体ないほど優しい、それにサキュバスなのに本当に俺に一途なんだな」


 私はティエルのことを心配したが、彼は大丈夫だと言って私の手にキスをした。初心な側近であるティエルが昼間に皆の前で私にキスしてくれるのは珍しかった、だから私は喜んで今度はティエルの頬にキスをしてあげた。そうしたらティエルはいつものように真っ赤な顔になってしまった、そして私と一緒に執務室に戻った。ティエルに勝ったヴェルという男はもうリヒトが連れ去っていた、今頃はきっとベッドの中で彼に調教されているに違いなかった。


「フィーネ、今日俺は負けてしまった。こんな弱い俺は嫌いか、こんな俺でも愛せるか?」

「もちろん私はティエルのことが大好きよ、たとえ誰かに負けたってそれは変わらないわ」


「あいつには強さしか取り柄がない愛人と言われたんだ、そう言われて咄嗟に俺は反論も反撃もできなかった」

「ティエルが強いのは良いことだけど、ティエルが可愛いのはもっと別な素敵なところよ」


「それは一体どういうところなんだ、俺はどうすれば君から本気で愛してもらえる?」

「ティエルの可愛いところはまず照れると赤くなって可愛いでしょ、それに褒めてあげるとやっぱり照れちゃうでしょ、それからとても優しくキスしてくれるでしょ、それから……」


 私は本気でティエルが可愛くて好きだと思っていたから、ティエルの可愛くて好きなところを百個くらい次々に喋りまくった。それをティエルは真面目に真っ赤な顔で聞いていた、それから百個くらいティエルの好きなところを私が喋ったら、執務室の椅子に座っていた私にキスをしてくれた。ティエルからの昼間のキスは本当に珍しいことだった、だから私は喜んで最近上手くなってきたそのキスに応えた。


「俺が好きになったのがフィーネで良かった、俺は本気で君を抱きたくなってしまった」

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