1-08魔王への反抗者

「俺は魔王アヴァランシュに染まったこの魔国が嫌いだ、だから母上が元気だった時のように平和な国にしたいんだ」

「私もよ、ティエル。私が両親と幸せに暮らせた時のように、たとえ弱い種族でも幸せになれるような国にしたいわ」


 私がそう言って微笑みかけるとティエルも少し笑ってくれた、真っ赤になって慌てるティエルも可愛いが、私に笑ってくれるティエルもとても可愛いかった。魔国を昔のように平和な国にするなら、頑張って魔王のお仕事をしなきゃと私は張り切った。そうして私とティエルは仲良く執務をしていった、ただサキュバスのフィーネという魔王の名前が広まったら、私を侮って自分が魔王になろうと挑戦してくる者が現れた。


「ふふっ、私を倒そうというわりに、貴方とっても弱いのね」

「畜生!! サキュバスなんて弱小種族が!?」


「ああ、もう飽きちゃった。だから、特別に残酷に殺してあげるわ」

「――――!?」


 私に挑戦してくる愚か者を私は決して許さなかった、見せしめの為にも私はその魔王になろうとした愚か者を残酷に殺した。声が出ないように喉を潰して、それから両手足を大斧で切り落として、傷口を魔法で焼いて何日も何十日も死ぬまで魔王城の正面に飾っておいた。そうしたらサキュバスなんて弱小種族だという者が減った、私に挑戦しようという愚か者が目に見えて減っていった。


「女王フィーネ、あの愚か者を始末する権利を俺に与えてくれ」

「ええ、良いわよ。ティエルもちょっと運動しなくちゃ、書類仕事ばっかりじゃ飽きちゃうものね」


 時には私への挑戦者をティエルが相手することがあった、ティエルは元魔王だけはあって剣の腕は確かだった。私がティエルにあっさりと勝てたのは彼が私に手加減する気があったからだ、私は『血まみれティエル』の残酷な戦い方を見てそう思っていた。だから魔王は私じゃなくてもいい気がしたが、でもそれでティエルが後宮を作って他の女性にとられてしまうのは嫌だった。


「ティエル、ずっと私の傍にいてね」

「きっ、君が望むならいつまでも、フィーネ」


 ティエルは血まみれになって敵を倒してくるのに、いつまで経っても初心で可愛かった。最近では私に随分と慣れてきたが、やっぱりまだ女慣れしていない可愛い悪魔だった。ティエルが女慣れしてリヒトみたいになったら寂しい、ティエルの可愛いところを知っているのは私だけで良かった。だから私としてはティエルを早く捕まえたかった、だけどティエルは初心だったからなかなかそれができなかった。


「ティエル、そろそろ私のことを抱いてみない?」

「ぶはっ!?」


「あらっ、ティエル。紅茶で綺麗な顔が台無しよ、拭いてあげるから逃げないで」

「えっ、ええとだな、たっ、確かに俺は君を抱きたい」


「まぁ、それじゃ。今夜、さっそくティエルの部屋に行くわ」

「でっ、でも俺は君にもっと俺を好きになって貰って、そうしてから君を抱きたい」


「私はティエルのことが好きなのに……」

「たっ、ただ好きなだけじゃ足りない、俺は執着が強いから一度抱いたら離さないぞ」


 私はティエルのことが確かに好きだった、でもティエルはそれじゃ足りないと言った。私はどうすればティエルのことがもっと好きになれるか、いつものようにリヒトに相談した。リヒトはお前の母さんが父さんを思っていたくらい、それくらい好きにならなきゃ駄目だと言った。母さんは確かに父さんを深く愛していた、そう父さん以外は目に入らないくらい愛していた。


 私もティエル以外の男はどうだって良かった、リヒトだけは例外だったがそれもいけないのかと思った。それなら私がティエルを愛するのは難しかった、リヒトは私の命の恩人で大切な保護者そして家族だったからだ。私はティエルが以前の私にした質問『俺とリヒトの二人が死にそうだったら、どちらを君は助けるんだ?』という問いに、どうしてもすぐにティエルとは答えられなかった。


「恋ってとっても難しいのね、リヒト」

「いや、フィーネが自分の素直な気持ちに気がつけば、そう難しいものじゃないさ」


「私はティエルが好きよ、でもリヒトが本当に危なかったら、私はどっちを先に助けるかしら」

「だからそこはあの坊やが先でいいんだよ、俺は自分のことは自分で助けるからな」


「リヒトってばカッコいいわ、そういう狡猾なところが好きよ」

「俺だって可愛いお姫様に心配をかけたくない、だからこそ狡猾に悪知恵をはたらかせなきゃな」


 リヒトは彼らしくもう魔王城のほとんどの女性を掌握していた、彼女たちはリヒトが命じるならいろんな情報を持ってきた。その中にリヒトにはちょっと気になることがあったようだ、夜に私の部屋に来てリヒトはいつもどおりに私の頭を撫でてくれた。そうしてから私にとっては大事なこと、ティエルのことを喋り出した。


「前にあのお前が気に入っている坊やが、お坊ちゃんだって言っただろ」

「ええ、ティエルは元魔王アヴァランシュより前、その魔王の子どもだって聞いたわ」


「いわば王子様ってわけだ、ちょっと苦労はしちゃいるが尊い血筋ってやつだな」

「だから何なの? 私はティエルが以前は乞食だったとしても気にしないわ」


「王子様にはお姫様がついてくるってことだ、あのお坊ちゃんにはヘレンシアという婚約者がいた」

「むぅ、可愛いのにティエルったら、私にそんなことは言わなかったわ」


「ああ、そうだろう。魔王がアヴァランシュだった時、その婚約者ヘレンシアの実家はその魔王側についた」

「なるほど、それじゃ。ティエルは彼女を絶対に許さない、きっと殺したいくらいに嫌ってるわ」


 私はティエルに婚約者がいると知ってまた胸が苦しくなった、ティエルは魔王アヴァランシュを母親の仇だと憎んでいるから、だからその魔王についた婚約者のことも嫌っているはずだ。でもリヒトが集めてきた話ではその元婚約者だったヘレンシアという女が、図々しくもこの魔王城にまた帰ってくるという話だった。


 私はその時、ティエルがどんな顔をするのか気になった。まさかヘレンシアという女に少しでも愛情を残していたらどうしよう、そう思って気分がかなり落ち込んでしまった。こんな時にはティエルの可愛いを補充しなきゃ駄目だった、だから私はリヒトの腕の中から抜け出して、私は薄いネグリジェ姿でティエルの部屋に行くことにした。


「ティエル、私に食事をさせてくれる?」

「ふぃ、フィーネ!? そっ、そんな格好で男性の前を歩き回るな」


「あらっ、このネグリジェを気に入っているのよ。とても肌触りが良くて、着ていたら気持ちいいわ」

「おっ、俺以外にそんな姿を見せているのか!?」


「リヒトには見せてるわ、だって子どもの時から一緒にいるんだもの、リヒトは私の裸だって見たことがあるわ」

「ああ、あの保護者だったら仕方がない。でも、リヒトと俺以外の男には見せないでくれ」


「ええ、もちろん分かっているわ。私が好きなのはティエルだから、他の男に見せても意味ないわ」

「そっ、それで食事だったな。俺が気絶しない程度で頼む、気を失っていたらいざという時に困る」


 私がティエルのことをサキュバスらしく生気を食べてしまってから、ティエルは私に俺以外の男性から生気を貰うなと言ってきた。だから私はリヒトから生気を分けてもらうのを止めた、その代わりにこの可愛いティエルを誘惑しながら、毎晩のように彼から生気を分けて貰うことにした。それにはキスが必要だったから私はベッドに寝ているティエルに近づいた、そうしてキスしてくれるティエルはだんだんキスが上手くなっていた。


「ふふっ、ティエルのキスって大好き。私は貴方に優しくキスされると、なんだかとっても幸せな気持ちになれるのよ」

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