月下無限天~最強の在り方~

第1話 予言の英雄

古来より伝わる予言。



世界が闇に包まれし時、異界より英雄現れん。



人々に絶望が訪れし時、神に愛されし英雄現れん。



その者達、素晴らしき力を振るい闇を払わん。



その者達、異なる力を用いて人々を救わん。



祈りて待て、信じる者は救われる。




「一番隊! 前進せよ!!」


マナ歴20XX年。


『オールガイア』は混沌の真っただ中であった。


血で血を洗う戦の舞台に人々は否応無しに駆り出され、汗を拭う暇さえも与えられず、その小さな命を散らす。


人類は滅亡の危機に瀕していた。


その理由の一つが今……『彼等』の目の前に存在している。


人々の呼吸と風の音が響き渡る荒野に、一際目立つ大きな存在が立ちはだかる。


巨大なトカゲの様な風貌を見せる大型の『生物』。


高さ20メートルに達するであろう巨躯は硬い鱗で覆われ、その背には大きな翼が生えていた。


腕の先端には鋭利な爪、そして何もかもを噛み砕くであろう牙。


それを含めれば、全長30メートルにも及ぶであろう巨大な尾。


生態系の、そして食物連鎖の頂点であると言われる種族……『龍』と呼ばれる『魔物』がそこに存在していたのだ。


緑色の肌を持つ緑龍、通称『グリーンドラゴン』。


その存在に対峙するは、凡そ百人程度の小隊を組んだ人々。


それが彼等……『アトランティス魔導騎士団』である。


世界三大国に数えられる大国の一つ、アトランティス王国が誇る騎士団に属する者達。


前方で大きな盾を手にする者は白銀に輝く重鎧で身を包んでおり、彼等の後方には己の背丈程の長さもある武具を手にした人物達が整列している。


その更に後方には軽装に身を包み弓を携える人物達、そして武器とはとても見えない『杖』を所持する者達まで居る。


重火器の様な類を一切所持せず、古代兵器と言っても過言では無い様な剣や槍と言った近接武器を手にする者ばかりだが、しかしそれこそが『現代最強兵器』なのである。


当たり前に戦闘ヘリや戦車等と言った戦闘機の類や、ミサイルや対戦車ライフル等の重火器を用いる方が、この様な巨大生物相手には優位と思えるだろう。


しかし、そんな物はここでは『役にも立たない』どころか、現人類にはそんな物は『必要無い』のだ。


「1番隊、2番隊、広範囲に広がり前進!! 5番隊、『詠唱』始め!!」


隊を指揮する隊長らしき人物が重鎧を身に纏った人々、そしてその大楯に守られる様に存在する軽装部隊へと指示を出す。


その号令に反応し各々が行動を始め、前方に大きく広がり始める重鎧の者達。


じりじりと、ゆっくり地面を踏みしめる様に前進を開始する。


それに呼応する様に、後方にいるローブを身に纏った者達も手に持たれた杖を掲げながら行動を起こす。


その者達は褐色の欠片も無い細く白い腕を振り上げながら、杖の先端を緑龍へと向ける。


そして、口々に小難しい言葉を呟き始める。


「3番隊、4番隊、構え!!」


前衛と後衛の中間に整列し、支援武器を持つ者達は大きな鉄製の弓を構え、矢を緑龍へと向ける。


重火器の一切を持たず、巨大な魔物へ挑む人々。


彼らが『魔導騎士団』と呼ばれる所以が、今……垣間見える。


「5番隊、放てー!!」


「「イラプション!!」」

「「エアストーム!!」」

「「スプレッド!!」」


口々に発せられる自然現象の呼称。


その瞬間にローブを着用した者達が持つ杖の先端から、炎や風等と言った自然現象が溢れ出し、猛威と成り緑龍へと放出される。


そう、彼らが扱うのは『魔法』。


ローブを身に纏った彼等は、『自然魔法』を扱う『魔導士』なのだ。


「3番隊、4番隊、放てー!!」


鉄製の矢筈(やはず)から放たれた矢は、生半可な銃から放たれる弾丸よりも圧倒的に速く緑龍へ突き進む。


無数の矢が緑龍へ激突し、数々の『自然魔法』がそれに命中した事を確認した瞬間、隊長は大きく叫んだ。


「1番隊、2番隊……突撃ぃいいいっっ!!」


怒号と共に駆け出す重鎧に騎士たち。


本来ならば、それ程の重量を身に纏った状態ではろくに走る事もままならない筈である。


しかし彼等は地面を抉りながら、凄まじい速度で戦場を駆け巡ってみせた。


その中で特に目立つ一人の『男』の動きは、人間の限界を遥かに超えた速度を見せる。


男が右手に持つ大きな斧は、2メートルを超えるであろう彼の体躯に匹敵する程の大きさを誇っており、超重量武器である事が伺える。


しかし男はその得物を軽々と『片手』で持ち上げているのだ。


そして強く地面を踏み込むと、そのまま遥か上空に位置する緑龍の頭部まで飛び上がって見せた。


人類は進化した。


『魔法』と言う概念を与えられ、それを武器にする事によって、重火器を遥かに超える力を扱う事を可能とした。


彼等がこの力を手に入れたのは、今は昔の事である。


人々の記憶の彼方から続く争いの幕は、はるか昔に突然に上がり始めたのだ。

 

この世はかつて、『三つの種族』と『三つの地方』に大きく別れていた。


科学と共に歩む『人間』が住む『グランガイア』。


自然と共に生きる『エルフ』が暮らす『フォレスガイア』。


そして事の発端、魔物を総べる存在『魔人』が存在する『モンスガイア』。


三つの種族が生を受けるこの星を……人々は総じて『オールガイア』と呼んでいた。


現在、魔人と魔物はそれらを総称して『魔族』と呼ばれ、人間、エルフの共通の敵として存在している。


モンスガイアは他の二つの大陸と比べると、遥かに広大な面積を持っていた。


しかし最弱種と言われる『スライム』や『ゴブリン』等の種族でさえ、人類の絶対数を超える数が存在している。


緑龍の様な上級の魔物と成ると個体数こそ少ないが、大きな体躯を誇る存在が殆どである。


弱肉強食の世界で互いの命を散らしても、魔物の繁殖力はそれを上回る。


結果、モンスガイアの面積では全ての魔物を抱えきれず、魔人の住処でさえ満足に確保できない状況となった。


その結果、魔人達は人間、そしてエルフの大陸へとその矛先を向ける事となり、共存と言う意識を持たない魔人達は、力の限りの侵略を開始したのである。


元来より魔物は無差別に人々を襲うとされている為に、共存等初めから有り得ない事だったのだが……。


魔族の進軍は鮮烈であった。


人間、エルフの二つの種族は、瞬く間に魔族の侵攻を受け、その数を日に日に減らして行った。


科学兵器で武装していた人間はまだしも、当時『点火や照明程度』の自然魔法しか扱えなかったエルフは、魔物に対して為す術が無かったのだ。


事態を重く見た双方の種族のトップ達、グランガイアの各国の王、そしてフォレスガイアの各集落の長老達は、会合に会合を重ね、その結果……人間とエルフの『共同戦線』が張られる事となった。


この時から……人類の反撃は始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る