第34話 3対3の戦い(2)
「さっさと、グリエルに渡せだと!!!」
王族の間から出てくるなり怒号を上げたバッカスは、怒り狂ったように、すぐ脇の壁を拳で激しく打ち叩いた。
部屋の前で待っていたアリフォンとボルケスは、どう声をかけたら良いものかと、可哀想なくらいオロオロしている。
「オレ様が策を講じて捕らえたと言うのに、なんだあの言い草は!!」
アリフォンが恐る恐る声をかける。
「…儀式を終えられて、皆様お疲れのところだったのかもしれませぬ。今回のバッカス様のご功績は十分ご理解されていらっしゃることかと…」
「なにも分かってなぞおらぬわ!!!」
アリフォンの取りなしもまったく功を奏すことなく、バッカスの怒りは最高潮に達していた。
「グリエルに貰ったモノだがおまえも食うかだと! このオレ様を舐めるのもいい加減にしろ!!!」
!!
そんな憤怒の情が周りに伝播したかのように、突然フロアが激しく揺れ動いた。
「な、なんだ!!」
何の前触れもなく発生したその揺れはまさに激震だった。
立っているのが困難なくらいの揺れに、アリフォンがよろめき倒れる。
さらに揺れはその激しさを増した。
建物自体が倒壊しそうな激烈さだ。
岩が砕けるような音が鳴り響き、床に何箇所も大穴が開いた。
バッカス、ボルケスすら、もはや立ってはいられず、膝を床につき手で身体を支えている。
すると床の大穴から、植物のように生えて伸びる円柱がいくつも姿を現した。
「…!!!」
その円柱の上端には、ただ乗り物にのって来たとでも言いたげな様子で、見知った人物が佇んでいた。
「……お、おまえたち」
怒りの矛先がその者たちに切り替わるのに、さして時間はかからなかった。
*
「……おまえたち、いったい何をしやがった!!!」
バッカスの表情に驚きと戸惑いが見てとれた。
いや、俺の方もこんな風に再会する予定では無かったんですけどね…。
4階と同じ構造であれば、この6階のフロアにもいくつか部屋が存在していたはずだが、壁は壊れて、床はデコボコ、あちこちにブークが作った柱が乱立している。
ブークさん、あなたも気をつけないと出禁になっちゃうんじゃない、コレ?
「ブーク、少なくて悪いけど、これ、使ってくれ」
リンタローが水の入ったボトルをブークに投げ渡した。
「わっ! リンリンありがとー!!」
「こないだのお詫びの品がアレだったからさ」
「えっ! アレの代わり? ならちょっと少なくないー? まあ、コイツら倒す分には十分過ぎますけどー」
「なにを、ごちゃごちゃ、言ってやがる!!」
こちらの緊張感を欠く会話にブチギレたのだろうか、ボルケスがその巨体を揺らしながら、愛用する斧を振り上げ迫って来た。
「くたばりやがれ!!!」
自身の屈強さを誇りたいのか、バッカスは普段から軽装の鎧を身に付けている。
そしてその出立ちは、カルテにとっては絶好のターゲットだった。
いつもと変わらぬクールな表情のまま、カルテが優美な動きで、半円を描くように右手を一振りした。
ボルケスの身体が、突進して来た向きとは90度異なる方向に勢いよく吹き飛ばされ、その先にあったブーク制作の柱に激突する。
爆音が響き渡り、土煙の上がるなか、ボルケスの身体が崩れるように床へと転げ落ちた。
普通の人間ならこれで終了だろうが、ボルケスは気力を振り絞るように、手を地面につき、身体を起こそうとする。
そこに容赦のないカルテの追撃が見舞われる。
再びその身体が浮き上がったかと思うと、平らな壁面へ一直線に飛ばされた。
壁に張り付けにされるボルケス。
身につけた鎧の金属部分が壁にどんどんめり込んで行く。
斧を握ったままの右腕が関節とは逆の向きに曲がっていた。
斧が手から外れ、ガシャンと音を立てて床に落ちる。
壁に大きくドーム上の窪みを作ってめり込んだままのボルケスの身体は、もうピクリとも動かなかった。
一瞬の出来事に動けずにいたバッカスとアリフォンだったが、ボルケスの受けた攻撃が何かを理解したようだ。
身につけていた大きめの金属類を手早く外していた。
アリフォンが物理・魔法のバリアを張り、バッカスの前に立って守りの体制を取る。
そこへ向けて、ブークが土粒を硬く練り上げた弾丸をありったけ浴びせていった。
もちろん物理バリアで防げはするのだか、何しろ数が半端でない。
バリアの耐性がどんどん落ちて行くのが目に見えて伝わってくる。
防戦一方の自分たちにバッカスが苛立っていた。今にも前に出て俺たちに切り掛かって来そうな様相だ。
それをアリフォンが押しとどめる。
「ボスぅ、ブークなんか普通に戦うのが可哀想になってきましたー。
もうちょっと歯応えがあると期待してたのに、なんかがっかりです…」
「マスター、時間が勿体無いかと…」
辛辣なふたり。
ただうん、俺もそうは思う。
このパーティに1日だけとはいえ、居たんだから実力は十分知っているし…。
とはいえ、このまま見逃してもらえる気もしない。
「こら! ファスティアとかいうおまえ! 妖精なんぞ使いおって、卑怯ではないか! 正々堂々と勝負しろ!!」
バッカスがそう声を上げた。
言ってることは意味不明だが、あらためてあることに気付かされた。
俺のこと、やっぱ気づいてないんだ。
火に油を注ぐことになりそうな気もするが、万が一にも打開策になれば、それに越したことはない。
俺はブークに攻撃をやめるよう手で制してから、バッカスに声をかけた。
「バッカス! 俺だよ、俺っ」
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