第8話 旧知の配信者に連絡する
「見ましたか? いまの上腕の動きと足捌き!!」
「剣先がずっと地平線まで延びているようなイメージで、振り抜くのです」
「力を入れてはダメなんです。いかに脱力するか、それが肝です」
最初は遠慮がちにアイチューブについて語っていたニディアだったが、お気に入りに保存した映像の話に至っては、テンションが上がりに上がり、段々と饒舌かつ早口になっていった。
にしてもニディアさん、あなたこんなのばっか見ながら5年も自己鍛錬してたのですか。
お気に入りの映像は完全に「武道系」と「グルメ系」の2種類だけだった。
ずいぶんしっかりしていると感じていたが、もしかしたらすごく偏っていて、その範疇から外れた世界ではかなりポンコツな人物なのかもしれない。
武道系は熱い語りとともに、オススメの中のさらにオススメをいくつも見せてもらったので、続いてグルメにカテゴリー分けされた方を覗かせてもらう。
ん…?
ああっ!
見知った配信者の名前がバグったようにたくさん並んでいた。
「…もしかして、この酔っぱらいの動画、好きなんですか?」
「えっ、アカツキさん、リンタローさん知ってるんですか?」
「いや、知ってるというか…」
「このひと、いつも酔っ払ってて、どうしようもないんですけど。料理の腕は確かで、簡単で超美味しいレシピが多くて。ものすごく真似してます。あっ、昨日のメインもそうですよー」
ああ、あの肉汁溢れる鳥の揚げ物、そうだったのかー。
リンタロー。
料理研究家の配信者と言えば、いの一番に名前の挙がるトップ配信者だ。
100万再生を超えるコンテンツを山ほど持ち合わせている。
お酒を片手に料理をしながら配信するそのスタイルが大きな特徴で、多くのファンを抱えている一方、アンチもたくさんいる。
そして数少ない俺の配信者仲間てもある。
これはリンタローを頼ってみろって天啓なのかもしれないな。
アイチューブにアップされた動画は、どんな端末でも見ることができるし、コメントや投げ銭も可能だ。
一方で、動画をアップする側には所定の手続が求められる。最初に必要なのは、配信師協会に申請をして認可を得ることだ。
その関係もあって、協会にある端末はこのプラットフォームの深部にアスセスできるようになっている。そして、いま目の前にあるのはなぜかそれと同じレベルの設備だった。
ということは、俺の登録アカウントを使えばダイレクトにリンタローへ連絡ができる。
ニディアに、ちょっとこのまま使わせてもらってもいいかと確認する。
「あら、アカツキさんも、武闘派になるんですか?」
よく意味のわからない答えが返ってきたが、なんなく快諾してくれた。
程なく、ご飯までには降りてきてくださいねー と奥さんみたいなセリフを残して部屋を去っていったので、システムにログインしリンタローにコールする。
ものの30秒も経たない内にコールバックがあった。
「おーーーーー、久しぶりっ。おまえから連絡してくるなんてほんと珍しいな。嵐にでもならなきゃいいが。どうしたんだ?」
相変わらず元気がいい。
嵐にはもうあったけどな とか思いつつ、単刀直入に用件を伝える。
「いや、実はちょっと困った状況にあってさ」
すると、間髪いれず訝しげな表情でツッコまれた。
「ん? 例の調査の件か? おまえ、ヤバそうなことに首を突っ込んだんじゃないだろうなー」
「いや、ちょっとまずは俺の話を聞いてくれ」
そう言って、ニディアのときと同じように、この国に来てからの経緯を一通り説明した。
リンタローの表情が、説明していく内にどんどん高揚していくのが伝わってきた。
「…未踏のダンジョンってとこか。面白そうだな」
すぐにでも飛んできそうな感じだ。
「で、お願いごとって言うのは?」
「実はいまどこにいるのか、皆目見当がつかないんんだ」
「ダンジョンの場所がわからないってことか…。カルテでも無理なのか?」
「ああ、どうも結界が張られているらしい」
「おー、それは随分大層だな」
「でだ。こちらから情報を提供していくので、場所の特定をする手伝いをして欲しいんだけど、可能かな?」
リンタローの持つ情報網に期待してのお願いだ。
「それは全然構わないんだが、情報は広く公開しちゃって大丈夫なのか?」
「いや、できれば絞り込みたい。なので悪いけど、リンタローの持つルートを頼らせてもらいたいんだ」
「…なるほど、わかった。そういうことなら…、じゃあ、コレだな」
テキストメッセージが届いた。
「俺のサブチャンネルなんだけど、メンバーシップ向けだから、オープンではない。あと有識者も多いから、情報をもらうには適当だと思う。どうだろう?」
「助かるよ。いつも本当にすまない」
「そんなこと気にしなくていいよ。俺も最近レシピの配信にちょっと飽きてて、気分転換したいとこだったんだ。
んで、それはそうと…、最初から気になってたんだけど、おまえの後ろにたくさん並んでるもの、それなんなんだ?」
「あ、これね、魔導具の山なんだ」
「は !?」
「まったく見たこともない魔道具もあるし、なによりその量がすごい」
リンタローに見えるようにカメラ部分を持ち上げた。自分の身体が写り込まないように半身にして、後方を映す。
「ほら、こんなに…」
あっ!
そこにはいつの間にか、扉を開けて入ってきたニディアがフライパンを片手に立っていた。
急いでカメラ位置を元に戻し、俺のアップで画面を埋める。
が、もちろん、遅かったみたいだ。
「…アカツキ、いまのは…、誰なんだ??」
「えっ?」
「超美人が見えた…」
「あれ、えっと、カルテかな?」
「髪の色が違った」
「とすると、ブーク?」
「あんな幼児体型ではなかった」
アミュレットが激しく揺れた。
今度リンタローと会ったときにきっと、水責めか、土の下に埋められるか、あるいはその両方に処せられることだろう。
「じゃあ、もうひとりの…」
「漂う品格がぜんぜん違う」
うん、まあ。それはそうだ。
そんなやりとりをしていると、突然、ニディアが俺を押し退けて画面に入ってきた。
「はじめまして! アカツキさんの同居人のニディアと申します。いつも動画拝見しています!」
さすがのリンタローも画面の向こうで固まっている。
「リンタローさんのレシピ、超活用してます! 今日もあのバズってたお魚のレシピにチャレンジなんです!」
そう言って、フライパンをカメラに映すニディア。
「あれ、でも今日は酔っ払ってないんですね??」
あぁ…。
やり取りした内容が頭からすべて飛んで行ってしまいそうだ……。
ちょっと、またきちっと紹介するからと言って、ニディアを追い出し、リンタローに向き直った。
「…紹介の前に、説明待ってるからな」
「……」
あらためて礼を伝え、また明日やりとりしようと宣言し、リンタローとの会話を締めくくった。
あーーーーー、疲れた。
よく考えたら、王子パーティとダンジョンに潜ってから、気絶していた時間を除けば、休みなしの気がする。
とりあえず今日は休んで、明日からこのニディアダンジョン(仮称)の探索を始めるとしょう。
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