第12話 パンドラの御節料理

 その家のお正月は勿論御節料理だ。漆塗のお重に入った御節料理はまさに豪家絢爛、な筈なのだが、その家の御節料理には何の食材も入っていないように見える 。


 一族は御節を祝い箸で美味しそうにつまんでは食べる。ところがその年に新年挨拶に来た次男の彼女さんには何も見えない。

 お樹の中には何かが有る酔うには見えないのだ。


 正月元旦の日ではあるが会話は弾む。

「お兄ちゃんはぶっきらぼうでしょ?よくこんな可愛い人彼女に来たよね。沢山食べてね」

「家の息子にこれほどの。いや、感謝に絶えないよ」

「ささ、どうぞお嬢さん」

 家族も次男の彼女を暖かく迎えている。

 しかし御節料理は何も見えない。

 彼女さんは仕方なくビールばかりが進む。


 彼女さんは独り心配になってしまう。

もしかしたら家族総出で私をかついでいるのかもしれない。

 或いはバカには見えない御節料理なのではないかと。

 本当にご家族はきれいに御節を食べたふりをしている。まるで見えない御節が有るかのようだ。

 あら、早くもお重が一つ開きそうねと、母親と娘がお重を一段空にする。

「あっという間でしょ?ほら」

 彼女さんのほうに空になったお重をむけると!そこから幸せが飛び出し、彼女さんの身体にとけた。


 それはパンドラの御節料理。

 食べた後は幸せが残る御節料理。

 その家に嫁ぎ、いつまでも幸せに居てほしいという御節料理からの粋な計らいだ。

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