第79話 究極の選択

 ドアを開けて専用エレベーターの方へ向かう。

 早良さんが手を翳して乗り込むと、5階のボタンを押してドアが閉まるのを待つ。


 ギルド職員は魔力登録をしてるから、カードじゃなくて手を翳すそうだ。


 3階はギルドの紹介番組なんかで見たことがある。

 B級以上のための受付や会議室があって、買取りカウンターも大きいし、保管庫も併設されている。


 ランクEのギルドだと、B級以上の需要がなさそうなのに何故かと言うと、ギルドからの依頼の場合は依頼した支部へ納品になるからだ。


 そうでないと高ランクダンジョンの支部だけに上級探索者が集まり、その地域に高級アイテムが集中すると、格差が生まれる事になる。


 ランクA~Bの支部から他の支部に卸す案も出たが、そこの支部長ギルマスに権力が集中して、不公平な取引や賄賂が横行した為に、依頼納品制度になったんだ。


 まあ、そのギルマスは粛正されたけどね。

 噂では、ダンジョンで奉仕活動強制労働をしているとか。


 探索者はどこのギルドの依頼を受けても良いんだけど、指名依頼は所属ギルドホームに優先権がある。


 あまり無茶な依頼をすると所属変更をされるから、ギルドは信頼関係を大事にしているし、上級探索者を誘致するための優遇措置も行っている。


 優遇出来る内容も規定はあるが、基本は各支部に任せている。

 専用駐車場はもちろんギルド所有の施設も無料だし、なんなら家まで用意してくれるよ。


 爺ちゃん達は地元だからって事で、始めに登録したホームのままなんだけど、今の土地はギルドが融通してくれたらしい。


 あくまでも噂だけど、我が家のために近くに駅が出来たとか、姉ちゃんが生まれた後に小学校が近くに移転してきたとか。


 この辺はギルドは否定してるけど、他にも何らかの忖度があったとかの噂は消えないし、上級探索者が住んでるなら安心感が違うから、人が集まるため発展しやすいとかはあるようだ。


 一般人に怒られそうだけど、モンスターハザードを止める事が出来る探索者が優遇される事に文句は言えないんだよね。


 だってA級探索者が、ランクAダンジョンに入らなくなったら、日本は滅びるしかないよ。


 某独裁国家が、A級探索者を奴隷扱いした挙げ句に亡命されて、ランクAダンジョンのモンスターハザードで滅んだ話は有名だからね。


 話しは戻るけど、ギルドの4階以上は未知の領域だよ。

 職員も限られた人間しか入れないらしい。


 噂ではギルマスが住んでいる家だとか、政財界との会食が行われる料亭や密会用のホテルがあるとか、モンスターの秘密研究施設があるとか、異世界に通じるドアがあるとか、もはや都市伝説レベルのもあるよ。


 でもエレベーターを降りたら、ホテルのラウンジのような雰囲気なんだけど…

 まさか密会ホテルは本当だったとか?


 早良さんが左の通路の一番奥にある、木製のドアをノックする。


 重厚な感じのドアが開くと、サブマスが玄関らしき場所に立っていた。


「いらっしゃい、朱鷺君。早良君もお疲れ様です」


「お疲れ様です」


「あ、こんにちは。あの、認識阻害は効いてないんですか?」


「ああ、ギルド職員には見えるように設定してるんだよ。もう効果は切っておこうか」


 その端末で認識阻害を切ったり出来るんだ?

 着けたり外したりするより早いから、ホントに便利だね。


「さっ上がって。スリッパは朱鷺君は緑にしたけど、違う色もあるよ?」


 何この我が家へようこそ感。

 ここはサブマスの家なの?


 スリッパに拘りはないから、何色でも良いけど…

 って見たら、緑の竜っぽい顔のアニマルスリッパなんだが…


 え?なにこれ。


「違うスリッパはないんですか?」


「後は青色とオレンジ色もあるよ」


 見たら青色はスライムキングで、オレンジは猫だった。


「…緑でいいです」


 究極の選択だった。


 間抜けな顔の王冠を被ったスライムか、可愛らしさを全面に出した猫か、太眉のキョロッとした目の竜なら、竜がまだダメージが少ない気がする。


 いやサブマスの足元見て、うすうす気付いてたよ、他に選択肢はないと。


 なんでレッサーパンダを履いて平気な顔をしてるんだ、この人。

 と言うか、サブマスの認識では色しかスリッパに違いはないの?


 早良さんはシレッと、アイテムボックスからマイスリッパを出してた。


 渋いグレーに黒のペンストライプのスリッパだよ。

 裏切り者がここにいる!


 酷いわ俺の事を散々弄んだくせに。

 じとーっと見てたら、ニッコリ笑顔で躱された。


 くそぅ…腹黒い笑顔も似合い過ぎ。

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