第27話 お前にはそう見えるのか
こうして、蜥蜴賃貸のさらに隣の四階建てワンルーム賃貸も狩場にすることに成功して引き返してきた。
ちなみに新しく狩場にしたところは最初の獣人賃貸が犬っぽいのに対して猫っぽい感じだった。
まあ、この違いに悩む必要は特にないかな、ということで深く考えないようにした。
猫獣賃貸は内廊下が真っすぐで両側に三部屋ずつある造りだったので各階に一つガーゴイルを設置してきた。
こうなるとすごい勢いでポイントが増えていく。
今は時速五万ポイント弱ぐらいだろうか。
この勢いだと明日の朝にはコーポ大家の眷属全員にスキルを三つずつ習得させることができるだろう。
樋渡さんに「治癒」を使わせられれば良かったのだが、活きのいい怪物相手では危険ということで、四階建てワンルーム賃貸の怪物が猫獣と判明したところで帰宅してもらった。
それまでは「溜息」を使っていてレベルも上がったが、特に効用については判らなかったようだ。
さてさて、辺りもすっかり暗くなってしまったけど世の中は一体どうなっているんだろう。
樋渡さんにテレビやネットでの情報の確認をお願いはしてみたけど、どんな報道のされ方をしているのか想像もつかない。
とりあえず、もうひとつぐらい狩場を増やそうかなと道を挟んだ反対側の建物に向かうとこれまでと違う光景があった。
高級分譲マンションの敷地から道路に出ようとしていただろうドイツ車が運転席のところが敷地の境界ぐらいの位置で停まっていたのだ。
ああ、これは車で出掛けようとした住人が行動制限に引っ掛かって敷地外に出られず、敷地境界と車の座席に押し潰されてしまったのだろう。
ゆっくり徐行で出てくればこんな目に遭わなくて済んだかもしれないのに、結構なダメージを受けているということは勢いよく出てきたのだろう。
目の前の車の中では恐らく下半身が潰されてしまって苦しんでいる男性が苦悶の表情をしている。
怪物化せずに人間のままでいることから、ここにはダンジョンマスターが存在するようだ。
車の周りにはこの状況を知って出てきたのか、自分も敷地外に出ようとして出られなくてうろついているのかは分からないが男が一人いて、私に気付いたところで声をかけてくる。
「おい、そこのあんた。さっきから119番に電話してるんだが、全然つながらないんだ。どうにかしてくれ。」
なんだろう、このオッサン。
私が医者にでも見えるのだろうか。
違うな、こういう手合いは誰もが自分のために尽くすべきだと勘違いしているんだ。
億越えするような高級分譲マンションに住み、数千万するような高級車に乗るのは確かに普通の人に簡単に出来ることではないが、だからと言ってそれで誰かに威張り散らす理由にはならない。
それができた自分を誇らしいと思えど、他人より偉いわけではないのだから。
金持ってるやつが偉いって言うなら、お前より金持ってる人間は間違いなくたくさんいるぞ。
ああ、そういえば何年か前になるが、近所の道を歩いている時に後ろから来た馬のマークの高級イタリア車のサイドミラーが思いっきり私の手を跳ね上げた。
運転手は気付いたようで一旦車を停止させたが、私が静かに歩み寄っていくと車から降りることもなくそのまま走り去ってしまった。
は?当て逃げですか。
おいおい、たまたま手だけだったから良かったが、もう数十センチずれてたら体に当たって撥ね飛ばされてたんだよ。
ナンバーも見られているのは判ってて逃げるってバカだよね。
罪が重くなるだけだっての。
当然、警察に届け出て捕まってもらい、打撲の治療費を払ってもらった。
品川ナンバーだったので抜け道気分で裏道を飛ばしてたんだろうけど、高級車に乗ってるなら裏道使うなんてせせこましいことするなと言いたいし、狭い道走るのなら速度落とせよと言いたい。
路上駐車してる高級車を多く見かけるのもどうにかならないだろうか。
高級車に乗るくらいの金持ってるならちゃんと駐車にも金使えよと思う。
いい車に乗っていい恰好したいなら変なところでケチって他人に迷惑かけるんじゃないよ。
さて、前置きが長くなってしまった。
私は医者でも何でもないが、この車の中の男を今の痛みから救う方法はすでに判っている。
だが、それをこの他人をアンタ呼ばわりするろくでもないオッサンの前で実行するのは少し憚られる。
そうそう、私がやろうとしてるのは運転している男にとどめを刺すことだ。
この運転者は状況から見て、行動制限に引っかかって敷地から出られない眷属に間違いないだろう。
なので、死を与えてやれば十中八九自分の部屋で生き返ることができるはずだ。
まさか、高級分譲マンションに住んでいて家財道具が一切ないなんてことはないだろうから。
と、その時オッサンが敷地の外に出てることに気付いてしまった。
なあんだ、車の人がこんな目に遭ったのはお前の所為じゃないか。
しっかり世界の仕組みを教えてあげるとしよう。
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