第9話 リスポーンの代償

私の部屋に戻ると、その頃には壁の穴はすっかり元通りに自動修復されていた。


「チラシ男についてはどうしましょうか。警察には連絡しないとまずいですよね。」


「郵便受けに食べられちゃいましたって連絡するんですか。多分、相手にされませんよ。」


「死体もないもんねー。残ってるのはスマホとキャップだけかー。」


『自陣に対する投擲物を感知しました。』


「天の声」がすると自動追尾監視の映像が映し出された。

そこにはビールの空き缶が投げ込まれる様子が捉えられていた。


また、あいつか。

こいつは隣接するアパートの住人で、てめえのゴミを自室の窓から投げ捨ててくる非常識な阿呆だ。

大家さんが存命の頃からたばこの吸い殻、空き缶は当たり前で、ゴミ箱をひっくり返してきたり、ゴミ袋を投げ込んでくることもあった。

向こうの大家のババアも話にならなくて、行動を改めるように何とかしてくれと言っても証拠を出せとか言ってくる始末だ。

挙句の果てには、こっちの敷地に届かず自分の敷地内に落ちているゴミまでこっちの所為にしてくる有様だ。

大家さんに相談されて、動画を撮って突きつけてやったことがあったが捏造だと言い張って聞く耳を持とうとしなかった。

じゃあ警察に被害届出しますねと言うと態度を少しだけ改めてしばらくは大人しくしていたようだが、どうやら性根は治らなかったようだ。

倍返してやろうか。


『ゴーレムを設置します。』


「はい?」


「多田さん、どうかしたんですの?」


間抜けな声を出してしまったので、面近さんに何事かと問いただされてしまった。


「あぁ、また例の人がゴミを投げ込んできたのを「天の声」が教えてくれたんです。」


「ほんとアソコの住人は碌な奴がいないよな。」


そうなのだ。

大家のババア、ゴミ男のみならず、騒音、覗き、侵入と迷惑行為のオンパレードなのだ。

いっそのことこの機会に制圧してしまうかと思わなくもない。


と、その時脳裏の映像に新しいものが加わっていた。

ゴミ男が驚いた顔で自分の部屋で後退っている。

次の瞬間、何かを顔にぶつけられて自分の部屋の壁まで吹っ飛ばされてぐったりと動かなくなってしまった。


『敵性勢力の眷属を撃破したのでポイントを獲得しました。』


あー、やっちゃったかー。

今のは設置されたゴーレムが何かを投げつけてゴミ男の顔面に直撃させたようだ。

まあ、しょうがないよね。

好き勝手放題やってたんだから、因果応報と言えなくもない。

大家さんも私も何回か話をしに行っただけ優しい方だと思う。

世の中には一度のやらかしですぐ警察に訴えたり、自らの暴力に訴える人もいるのだから。


私は普通のことができない人が嫌いだ。

常識のない人、ではない。

時に常識とは自分の都合のいいように解釈する人もいるので違うと思っている。

私の言う普通とは自分がされたら嫌なことを想像して、それを他人にはしないということだ。


自分の部屋にゴミを投げ入れられて嬉しい人は恐らくいないだろう。

嘘をつかれて貶められたり騙されたりすることを良しとする人もいないだろう。

狭い通路を全部塞ぐように横並びで我が物顔で歩くような人種も大嫌いだ。

そういう奴らはこちらが立ち止まっても気にすることなく正面からぶつかってくる。

しかも、何ぶつかってんだよ、みたいな表情でこっちを見てくる。

違う、私はぶつかられた方だ。ぶつかってきたのはお前だ。

被害者は私だ。間違えるな。

信号待ちしていて追突された車の方に過失があると言っているようなもんだぞ。ふざけるな。

歩きスマホするようなやつもどっちに避けるかもわからないので立ち止まると大概突っ込んでくる。

そのスマホを叩き落としてやろうかと思うが実際にやったことはない。


何が言いたいかというと私が嫌いな人がどうなろうと痛痒を感じないのが私という人物だ。

別の言い方をすると、親切にしてくれる人にはできるだけ報いたいと思っているが、恩を仇で返すような人やましてむやみに攻撃してくる人には容赦しないのが私だ。


などと思っていると脳裏の映像に変化があった。

ゴミ男が復活したのだ。

へー、撃破したって言ってたけどあれで生きてたんだ。

人間って意外としぶといんだ、と思ったけどどうやら違うようだ。


『自陣内で撃破された場合はリスポーンが可能です。ただし、相応の代償を必要とします。』


代償ねぇ。

言われてみると、最初の映像に比べてゴミ男の部屋の中のものが減っている気がする。

ふーん、じゃあ払うべき代償がない時は復活できないのかな。

どうせならコイツで確認しちゃおうか。

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