異世界レイヤー(モブ)戦記

青木 節虎

第1話 学園七不思議、終わる

「我が名はハオウ!世紀末覇者!」


 ……いきなりとんでもない敵に遭遇してしまった。

 黒い巨馬にまたがる筋骨隆々の大男。

 一子相伝なのに後継者が4人もいた、あの最強暗殺拳の継承者、その長兄じゃないか?!


 ……こんなのに、勝てるわけない?!


 ただ、この時点で、

 俺はもう死んでいる。

 ……だって俺は、コスプレしたキャラになりきれるというこの異世界に、

 コスプレしない状態で転移した「モブキャラ」なのだから……

 


 自分の首の骨が折れる音を初めて聞いた。

 まあ、そうだよな……

 普通、聞いても一回、聞いたら最後だ。

 ……異世界に来て数分で、オレの人生は終わった。

 平凡な容姿、身長、成績、運動、出自……名前も「ただの」、「多田野 昴(ただの すばる)」。

 17歳で生涯を終えるオレの、たった一つの非凡、レア?スーパーレア?ウルトラレア?……いや、エクストリームレアの更に上、ギャラクティカレアを引き当てたような……『彼女』がいる。

 可愛いのだ。

 とにかく可愛いのだ。

 メチャメチャ可愛いのだ。

 ……

 何でオレなんかに???

 ……

 自分でも、不思議に思う。

 今まで何人もの勝ち組まっしぐらなイケメンに言い寄られた彼女だが、

「ごめんなさい。彼氏、います。」

 と、笑顔で一言。

「何であいつ(ただの)なんかと???」

 と、学園七不思議の筆頭となっている。

 その彼女『神坂 凛々(かみさか りり)』。

 死にゆく俺の耳に、リリの泣き叫ぶ声が聞こえた。


「ルゥくーーーん!!」

 彼女はオレを、そう呼んでいる。

「……るーっ!!」

「昴くーん!!」

 保育園の頃、家よりもたくさん玩具がある場所、保育園がオレは大好きだったらしい。

 母親が迎えに来た時に、少しでも母が保育士と世間話でもしようものなら、その隙にいなくなり、玩具でまた遊び始めた子供だったらしい。

「すーばーるーーっ!!」

 オレの名を伸ばして叫ぶ母親、オレを探している。オレは反応しない。

「昴くーん!!」

 呼ぶ声に「くん」がついた。オレを探す母親がちょっとイラついてきた合図、でもまだオレは反応しない。

「るーくーん!!」

 イラつきがピークになった時の母親の呼び声、こうなると後がない。オレは玩具を諦め、母親の下へと向かう。

 と、

「あなた『ルゥくん』っていうの?」

 同じ保育園にいたリリが、目をキラキラさせて訊いてきた。同じ組だが、ほとんど会話したことはなかった子だ。

「うん。」

 母親がキレる前に戻ろうと、とっさに適当な返事をしたオレ。

 それが……リリが彼女となった理由。


『LiLi』……という、漫画があった。

 アニメ化もされた少年漫画。

 そのアニメを見て、自分と同じ名前の主人公『リリ』を、魔法少女のようなヒラヒラでキラキラな衣装の『リリ』を、一目で好きになった幼い凛々。

 魔界からやって来た魔族の美少女が、普通の高校生『ルゥ』に一目惚れし、人間界で暮らし、騒動を起こすという押しかけラブコメ。

 自分を主人公リリと重ねていた幼い凛々が、現実でルゥと出会えた……理由はそれだけ、それだけで、それ以来、オレの彼女でいる。


 ……そのリリが、泣いている。

 首を折られたオレの最期を見て泣き叫んでいる。

 異世界、

 一面が砂と岩の、殺風景な異世界。

 雲に隠れた月のほのかな明かりしかない、夜の異世界。

 首を折られたオレと、泣き叫ぶリリ、

 オレの首を折った男と、

 ……立会人の現地人(異世界人)3人。

 この場にいるのはその6人。


 間もなくオレが消え、

 5人となる……


 学園七不思議筆頭の、オレとリリの関係も終わる……

 学園七不思議が一つ消える……

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