三十六羽 入手難易度S級フルーツ 最高のおやつ!


『ふう、でし』

「はあ……至福のひと時だったな」

「それはよかったですねぇ」


 気が済んだのかうさぎさんはピョイッとカルナシオンの背中から降りる。

 そのままコテンッと横になり、足を伸ばしてリラックスモードだ。


『……?』

「お」


 すると、興味の対象がすぐさま移り変わる。

 嗅いだことのない匂いにうさぎさんのお鼻が反応する。

 ふんすふんすとお鼻をひくつかせ、身体を起こしてその匂いの元へと徐々に近づく。


「お、おおお……」


 それはカルナシオンの手元にあるのだが、うさぎさんが食べないように手で上にあげ遠ざける。

 すると、うさぎさんはカルナシオンの身体によじ登るように上を目指す。


「うさぎさん、落ち着い──てっ!?」


 カルナシオンはあまりの胸の痛みに死ぬかと思った。


 ブイイーン。


 垂れ耳のホーランドロップであるうさぎさん。

 いつも耳はぺたんと垂れ下がり、耳先は地面を向いているのが普通だ。


 しかし、興奮しているからなのか何なのか。

 そのお耳が横一直線にブイイーンと広がっている。

 まるで両手を伸ばしているかのようだ。


 そんなうさぎさんが自分に迫ってくるのだから、胸が痛くなるのも仕方ない。


「い、いったい……どうしたら……っ!」

『ごしゅじん、なにもってるでしかー』


 うさぎさんは止まらない。

 この進撃を止められるのは、もう──


「……お、おやつだぞ!!」

『! なんでしってぇー!!』

「いいんですかねぇ?」

「カルナの判断に間違いなどない」


 今この瞬間も間違いしかないのだが。

 それはそれとして、カルナシオンは三女神への手土産としてゲットしたはずの清麗せいれいの実をうさぎさんに食べさせてあげることに。


「一度に全部だと、栄養価が高すぎるか」

「ではあたしが小さく切ってきましょうかねぇ」

「頼んだ」


 カルナシオンは当初の目的などすっかり忘れて、うさぎさんに好かれる方を選んだ。



 ◆



「……」

「……」

「……」

『んまままま』


 ベッショベショ。


 用意された清麗の実の欠片を、一心不乱にもぐもぐと食べるうさぎさん。

 その口周りは、わんぱくなんて言葉だけでは表せない。

 白いお口周りの毛に、やや黄色味がかかった果汁がべしょべしょとついていた。


「なあ」

「はい?」「なんだ?」

「かわいすぎんか?」

「そうですねぇ」「そうだな」


 それ以上言葉はない。

 うさぎさんが元気にお食事をしている姿。

 見させていただくだけで、人は幸せを感じることができるのだ。


「はあ……つらい」

「つらくはないですがねぇ」

『?』


 うさぎさんはそんな周りのことなど露知らず。

 ひたすら目の前のおやつに夢中だった。


「はあ、可愛らしいがそのままにはしておけまい。私が拭こう──かっ!?」


 カルナシオンは、うさぎさんのポテンシャルの高さを完全になめていた。


 ──ペロペロッ


 うさぎさんの意外と長い舌。

 それがうさぎ神拳の時のように、想像以上の速さで顔回りについた果汁を舐めとる。

 上下左右。確かに上の唇は大きく開けないものの、長い舌のおかげで口周りの汚れはあっという間に綺麗になった。


「自浄作用……!」

『?』


 食べ終わり、毛づくろいも済んだところで再びふう、と腰を落ち着けるうさぎさん。

 その一連の動作は狙ってやっているわけではないのだから、末恐ろしい。


「よく見ると、お腹の毛は真っ白なのだな」

「ほんとですねぇ」


 観察する度に新しい発見のあるうさぎさん。

 横たわったお腹の毛は、前足の裏のように真っ白な毛が一面覆っていた。


「はあ……。お手々を揃えているのも、なんと愛らしいことか……」


 前足はきちんと平行に揃った状態で並んでいる。

 横たわった体は丸みを帯びているから、みょっと短い足が体から生えているかのように見える。


 カルナシオンはうさぎさんの際限のない愛らしさ。

 人間相手には中々感じることのないそれに、どこか恐怖をも覚えた。


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