たらしなあの子の恋愛事情

月島ノン

一杯目 男たらし

「俺と、付き合ってくれませんか…!?」


カフェの中、従業員にプロポーズをする男がいた。結果は…


「ごめんなさい。私は誰のものにもなりません。お気持ちだけ受け取りますね…」


撃沈。

今プロポーズした男はダグラス。

このカフェの常連客であり、被害者でもある。


そう…このプロポーズされた女性、サヤはとんでもない男たらしである。

カフェに訪れる男たちを次々と落とすゲームをし、弄んでいるのだ。


(皆、ちょっと優しくすれば落ちちゃうんだな~…誰か、私に落ちない男が来てほしいものね!ふふ…)


カランカランッ…


カフェのドアが開く音がした。

入ってきたのは、サングラスをかけた全身黒い装いの謎の男…


「あー…すまない、プロポーズ中だったか?邪魔をしたな…誰か、席を案内してくれ。」


「ダグラスさんすみません…お客様がご来店したので案内いたします。お客様、窓際のお席へどうぞ~。」


「サヤちゃんごめんね…それと、お兄さんも…」


ガックリと肩を落として、ダグラスは帰っていった…


「ご来店は初めてですね!メニューはこちらになります。」


「いきなりですまないが、コーヒーを一杯。甘くないものを。」


「ブラックコーヒーですね!かしこまりました。少々お待ちくださいませ…」


サヤは厨房に戻り、コーヒーの準備を始めた。


(今回はなかなか落ちなさそうな人が来たな~。絶対落としてみせるんだから!張り切っちゃお~っと!)


こんな感じだが、サヤはコーヒーを煎れるのがとてもうまい。

その技術を巧みに利用して、男を落とすのだ。


「よし、煎れたぞ~ブラックコーヒー…この味に落ちるがよい!」


そう呟きながら、サヤはコーヒーを片手に謎の男の席へ向かった。


「ブラックコーヒーでございます!お熱いので気をつけてお飲みください…」


「感謝するよ…ところで、さっきの大丈夫だったのか?プロポーズされている最中だったじゃないか。」


「…接客をしているうちに、皆さんその気になってしまうようで…少し、困りますね。」


故意に落としておいて何を言うか。しかし、謎の男はそれを知らないため…


「接客も大変だな…コーヒーありがとう。今まで飲んだ中で一番美味いよ。」


これは好感触と読んだサヤ。


「ありがとうございます!でも、そう言ってくださるお客様そこそこいるんです。幅広い年代層の方にファンがいる人気者だったり…?」


「このコーヒーには、それくらいの価値がある。ファンになるのも頷けるな。おかわりをもらってもいいか?」


もう飲み終えてしまったようだ。

サヤは満面の笑みでそれを受けとる。


「また私が煎れますから、期待していてくださいね~!」


再び厨房に戻り、コーヒーを煎れる。


(なーんだ、案外チョロいかも…?いや、駄目よサヤ。ここで油断しちゃ。最後までちゃ~んと、落とさないとね!)


いつもの要領でコーヒーを煎れ、謎の男の元へ持っていく。


「お待たせいたしました~。おかわりのコーヒーでございます。」


サヤがコーヒーを持っていくと、謎の男は本を読んでいた。

これは狙い目だと思ったサヤは自身も席に座り、話をする。


「何の本を読まれているんですか?」


「ん?ああ、君か…コーヒーありがとう。それは…答えないといけないか?」


「嫌ですか…?」


得意の上目遣いで落とそうと試みるが…


「すまないが、言いたくない。それより…」


謎の男は本を閉じる。


「お客が来たぞ。えーと…サヤ…さん?」


振り向くと、常連客である別の男が来店していた。


「あ、名前…ありがとうございます!また後でお話しましょうか。」


謎の男は頷くと、また本を読み始めた。

サヤは接客に戻る。


「いらっしゃいませ、こちらのお席へどうぞ~。」


「あ、サヤちゃん!いつもありがとね~。はいこれ、プレゼント。」


サヤが常連客の相手をしている時…謎の男はというと…


「美味い…このコーヒー、どうやって煎れているんだ…?」


一人、コーヒーに酔いしれていた。


「それより、彼女は男たらしなのか…これは難敵だな…」


コーヒーをすすりながら、謎の男は本に目を戻した…

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