偽ギャルDays⑪




小百合はゆっくりと目を開けた。 見覚えのない場所だが鼻から届く匂いで自分が病院にいると分かった。


―――・・・あれ?

―――アタシ、死んだんじゃなかったの・・・?


意識は失ったが小百合は生きていた。 現状を把握しようと起き上がろうとする。


「痛ッ・・・」


だが身体は動かない。 首だけを動かそうとしても痛くて動けなかった。 よく見れば全身包帯で巻かれガチガチに固定されている。


「小百合!?」


小百合の声で気付いたのか母が姿を現した。


「お母さん・・・?」

「よかった、意識が戻って・・・! 小百合、階段から酷く落ちたんだって? もうお母さん心配で心配で・・・!」

「・・・アタシ、どのくらい眠っていたの?」

「5時間くらいよ。 今お医者さんを呼んでくるからね」

「待って!」

「どうしたの?」

「担任の先生は・・・」

「今も待合室にいると思うわ。 ずっと小百合の目覚めを待ってくれているの」

「担任の先生も呼んできてほしい」


そう頼んだ後は医者から色々と話を聞いた。 全身を打撲しておりしばらく入院が必要だと言われた。 話が終わると入れ替わるように担任の先生が入ってくる。

母は空気を読み担任に会釈をして二人きりにしてくれた。


「・・・すまなかった。 今朝言われた言葉を信じてもっと俺が注意していればこんなことには・・・」

「・・・」

「本当に目覚めてくれてよかった。 だが一緒に落ちるのは少しやり過ぎだとは思うけどな」

「その、千尋は・・・」

「同じ病院にいる」

「そうですか・・・」

「まだ吹奈は目覚めていないが命に別状はなさそうだ。 皆無事でよかったな」


その言葉に耳を疑った。


「・・・え? 吹奈は死んでいなかったんですか!? 痛ッ・・・」


大きく反応してしまい首を痛める。


「無理をすんな。 吹奈は首を切ったが太い血管は全く傷付いておらず出血のほとんどはすぐに止まったようで助かった」

「そうなんですか・・・! よかった・・・」

「だが会うのはまだ禁止だぞ。 吹奈はすぐに退院できるだろうが小百合は重症だから絶対安静だ。 分かるか? お前の方が余程重症なんだよ。 まぁ千尋は下になった分、もっと怪我が酷いようだがな」

「行ってあげなくていいんですか?」

「もちろん見舞いに行ったが・・・。 酷く拒絶された。 そんなに嫌われていたんだろうか」


言いながら落ち込んだ様子を見せる担任を見て“よく教師になれたな”と思ってしまった。 今重要なのはそこではないだろう、と。


「・・・先生」

「何だ?」

「アタシのスマホを取ってもらえますか?」

「・・・これか?」


千尋が担任を拒絶した理由を小百合は察していた。 もしかすると怪我のせいで本当に錯乱しているのかもしれないが。 担任にスマートフォンを取ってもらい、指を掲げた。


「アタシの指で指紋認証を解除してください。 それからフォルダの中に・・・」


色々と指示をし今まで撮ったものを全て見せた。 吹奈がいじめられている時にこっそりと撮影した動画と音声。 それを見て先生は驚いていた。


「どうしてこれを早くに見せてくれなかったんだ・・・!」


もっと早くに先生を頼っていたら。 もっと早くに証拠を見せていたら。 そう思うも今たらればを言っていても仕方がない。


「・・・先生。 それを見たら分かると思いますがアタシも加害者なんです」

「・・・」


小百合抜きで吹奈を責めることはほとんどない。 だから今日撮ったもの以外は小百合も全て写っていた。 証拠は残しておこうとずっと前から撮影や録音をしていたのだ。


「アタシも吹奈に危害を加えていたんです。 だからアタシも罰してください」


そう言うと先生はスマートフォンの電源を切り机に置いた。


「・・・実は吹奈の制服から遺書が出てきてな」

「・・・遺書?」

「あぁ。 丁寧な文字ではなく殴り書きで書かれているものだった。 切羽詰まった状態で書いたものだろう」

「・・・」

「そこには三人のことが書かれていた。 茉耶と千尋からいじめを受けている、と」

「二人だけ・・・? アタシは・・・?」

「小百合は二人から言わされているだけで何も悪くない。 いつも自分を気にかけてくれていた、と」

「・・・!」

「日付は今日の日付が書かれていた。 小百合は確かに加害者かもしれないが二人よりかは大分軽い罰になると思う。

 そもそもその遺書が本当に吹奈によって書かれたものであるなら小百合が罰を受けることを望みはしないだろう」


―――確かに吹奈を毎日追い詰めていたけど今まではそこまで酷くはなかったはず。

―――じゃあ遺書は今日、首を切ろうと決意した時に書いたっていうこと?

―――・・・アタシは先輩と一緒にいて裏切るような行為をしたというのに吹奈は最後までアタシを信じてくれていたんだ。


そう思うと涙が出てきた。


「・・・アタシは今日一日で大事なことを学びました」

「何だ?」

「周りに流されない自分の心が一番大事なんだって。 これからは胸を張って自分の心を強く持ちたいと思います」



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