偽ギャルDays

ゆーり。

偽ギャルDays①




12月ともなれば外は冷え込み丈の短いスカートから冷たい風が吹き込んでくる。 小百合(サユリ)はいつも通りに登校し、辺りを見て溜め息を隠す。

女子高校生とはいえ、自身の格好は冬に適性があるとはとても言えない。 許されるなら腹巻の一つや二つ仕込みたいところだが、ファッションを考えるとそれは無理。


―――寒ッ・・・。

―――あぁ、今日もアタシは自分を偽って生きるのか。

―――こんな寒い中、誰が好き好んでこんな格好を・・・。


それが自分がしたくてしているならいいが小百合にとってはそうではない。 もちろん男子に受けがいいからそうしているわけでもない。 意外にも男子生徒は女子の冬服を好むことを小百合は知っている。

なのに寒い中このような格好をしているのは滑稽だなと毎朝思った。 寒さに耐えていると教室へ着くまでの記憶がほとんど残っていなかった。

とりあえずストーブがついているのにホッとし、席へと向かい準備を進めた。 そして、朝からこのような格好をする羽目になっている原因である茉耶(マヤ)と千尋(チヒロ)も登校してきた。


「おっはー! 小百合!」

「今日もイケてんねぇ」


元気な二人は自分の席へ着くことなく小百合の隣の席へと腰を下ろす。 一人は隣の席の机の上に座った。


「おはー。 今日も寒いよねー。 早く冬休み来てー、って感じ」


小百合も笑顔を作ってそう言った。


「だよねー! まだ12月に入ったばかりとかマジだるいー。 冬休みまで祝日がないとかもうオワコンだわぁ」

「オワコンとか古ッ」


二人はそのようなしょうもない会話をしながら爆笑していた。


―――オワコンっていう使い方合っているのかな・・・?


小百合は教室のギャル4人組の中の一人で、その中でも何故か決定権は小百合が握っている。 どう見ても代表格と言える雰囲気ではないのにもかかわらず。


「ねぇ小百合! こんな寒くてつまんない学校から出てどこか行こうよ!!」

「そうだよ! このままだと凍っちゃうー」

「えー? でも流石に最近サボり過ぎじゃ・・・」

「まだ大丈夫だって! ギリ平気!!」

「ねぇ、どこ行く!? ファミレスにでも行ってだべっちゃう?」


小百合は断ったが二人はそれを聞こうともせず話がどんどん進んでいく。 そもそも寒いのに外へ出るなんて意味が分からない。

確かにエアコンの効いているファミレスの店内は暖かいだろうが、そこまでの道中はまだ冷える朝の風を受けなければならない。

そのような小百合の思いなんて知る由もないだろうが、ファミレスはなくなったらしい。


「最近もファミレスでお金を使い過ぎたからなぁー。 小百合はいい案ない? どこでもいいよー」


ただどうやらサボることは決定したようだ。 二人はサボるよう促してくることが多いためバッグの中には私服を常に忍ばせてある。


「・・・えー、じゃあゲーセンとか?」


正直、寒いのに外へ出たくなんてなかった。 私服はかさばるものは選べないため今着ている制服よりも寒さに弱い。


「ゲーセンで何すんの? 今はもうアプリの方がプリよりも盛れるって」

「じゃあカラオケとか・・・?」

「歌う人いなくない? だべりたくてもカラオケはうるさくて聞こえないから却下」


『どこでもいい』と言っておきながら否定してくる二人にうんざりだった。


―――アタシはサボりたくないんだけど・・・。

―――結局サボって怒られるのはアタシだけだし・・・。

―――なーんて愚痴は言えないよなぁ。


先生に怒られる時何故か二人は察して逃げていく。 全ての責任を毎回押し付けられ嫌になっていた。 だが二人の迫力に気圧され何も言えないのも事実だ。


―――それにアタシが強く否定したら何をされるのか分からない・・・。

―――二人の前では印象がいいように普通のギャルでいなきゃ。


そう思いいつも自分の思いを押し殺していた。 そんな時ギャルグループの最後の一人が現れる。


「おはよー、みんな!」

「「・・・」」


吹奈(スイナ)が挨拶すると二人はわざと視線をそらし沈黙する。


「お、おはよ、吹奈!」

「小百合ってば優し過ぎ」


慌てて空気を悪くしないよう挨拶を返すと茉耶に笑って返された。 一瞬吹奈は気まずそうな表情を見せるが二人にこう言った。


「あー、また小百合を困らせていたんでしょ? 小百合を困らせるなんて駄目だよ!」

「はぁ? アンタ何様のつもり? 誰に向かって言ってんの?」

「ウチらの中で唯一彼氏がいるからって調子に乗り過ぎ」

「あーあ、サボる気も失せたわ。 小百合も何か言ってやりなよ」


そう言って二人は小百合を見る。 恐る恐る目を向けると吹奈と目が合った。 その目は冗談でも何でもなく、本気で怒りを瞳に灯している。

二人の言葉に逆らえば一体どんな目に遭わされるのか分からない。


「・・・あ、あっち行きなよ。 目障りだから」

「ほら、小百合がそう言うんだから行った行ったー! 彼氏のところへでも行って慰めてもらえばー?」


―――またそう言ってアタシのせいにする・・・。


茉耶が笑いながらシッシと吹奈へ向かって手を振る。 吹奈はバッグを置いて一歩後退った。


「・・・じゃあアタシ行ってくるね」


吹奈が去ると二人は楽しそうに笑う。


「ごめん、アタシはトイレ」

「一緒に行こうか?」

「すぐ戻るからいいよ」


小百合はそう言って席を立った。 お手洗いへ急いで向かうフリをしながら胸ポケットからスマートフォンを取り出す。


“吹奈!! さっきは酷いことを言ってごめん”


鍵アカウントのツウィッターDMで吹奈にメッセージを送った。 二人にスマートフォンを奪われた時見られてしまう可能性があるため、二人だけが知る連絡用アカウントを作ったのだ。

それのDM,ダイレクトメッセージのみしか使用していない。 送信すると即返事が来た。


“大丈夫だよ。 あの二人に小百合は言わされているだけ、って分かっているから”


その優しい言葉に小百合は涙を零した。


「・・・本当にごめん」



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