第12話 一時帰還
「……それにしても、やっぱりいい剣だな」
残りの
あれだけ激しい戦闘を繰り返したというのに傷はおろか、刃毀れの一つも起こしていない。
まさに
「……シン。……無事?」
そしてきっちり十秒後、レティシアが転移で戻ってきた。
「ああ。終わったよ」
俺は
しかしレティシアはどこか浮かない顔をしている。
「どうした?」
「……ごめん。……足手纏いだったね」
「……は? ……何言ってんだ?」
そんな事は断じてない。
しかしレティシアはそう思っていないらしく、俯いている。
「……だって、わたしが居なければシンが一人で倒せたでしょ?」
「……いいかレティシア。俺はレティシアのことを足手纏いなんて思った事はない。そしてこれからも思う事はない」
だから俺は明確に否定する。
こういうのはしっかり言葉にしないと伝わらないものだ。
「……どうしてわかるの?」
レティシアが顔を上げて言った。
「今まで魔術師と共闘した事は何度もあるが、レティシアと戦ってる時が一番やりやすい。それにさ。俺、こういうのは適材適所だと思うんだ」
「……適材適所?」
「ああ。今回はたまたま魔術師に不利な魔物だった。だけど次出てくる魔物が剣の効かない魔物だったら? レティシアは俺の事を足手纏いだと思うか?」
レティシアは首をふるふると振る。
「……思わない」
「それと同じだよ。納得したか?」
五百年も生きているだけあってレティシアは頭が良い。
だから俺の言った事をすぐに理解してくれた。
「……ん。……変な事言ってごめんなさい。……それとありがとシン」
「ああ。俺の方こそ援護助かったよ。ありがとなレティシア」
「……ん」
どことなく嬉しそうにレティシアは頷いた。
「……じゃあ進もうか。いつまでもここにいたらまた魔物が来るかもしれない」
「……ううん。……一度戻ろう。……もうすぐで日が暮れる」
「もうそんな時間か」
陽の光が遮られているので時間経過が分かりずらい。
実際、死界樹海自体は暗いので日が暮れようが、あまり関係ないかもしれない。だけど休息は必要だ。
「……そうだな。ひとまず戻ろうか」
「……ん」
レティシアが頷き、魔術式を記述する。そして今朝と同様に視界が切り替わった。
死塔の一階、食堂だ。
「ホントに転移魔術様々だな」
転移魔術は行ったことのない場所には転移できない。
しかし逆に言えば一度でも行ったことのある場所には転移できる。
なにせ野営をする必要がないのだ。
夜襲を警戒して見張りをする必要も無ければ、食糧の心配もない。暖かい風呂にも入れるし、ベッドでも眠れる。
きちんと疲労を回復できるのはありがたい限りだ。
「……シン。……もうご飯食べる? ……それとも先にお風呂?」
「汚れたからな。先に風呂かな」
相手にしていたのがアンデット系と言うこともあり、服に腐臭がこびり付いている。この状態で何かを食べたくはなかった。
「レティシアはどうする?」
「……ならわたしも」
「そうか。確かこっちだったか」
「……ん」
俺とレティシアは食堂を出ると、風呂へと移動する。
昨日案内して貰ったので、どこに入り口があるのかはちゃんと把握している。そのため、すぐに着いた。
扉を開けて中に入ると脱衣所があり、その奥に立派な浴槽があった。貴族が入るような巨大な浴槽だ。
俺に続き、当然のようにレティシアも入ってきた。
「……あの、レティシアさん?」
「……ん?」
振り返ると不思議そうな顔をしたレティシアがいた。
「もしかして風呂って一つだったりする?」
レティシアが「わたしも」なんて言うのだから、てっきり男用と女用で二つあるものとばかり思っていた。
だからレティシアも付いてきたのだと。
俺の質問にレティシアは首を傾げた。
「……そうだよ?」
なにを当たり前のことを言っているのか。
レティシアの顔にはそう書いてあった。
……ああ。そういうことか。
おそらく、いやほぼ確実にレティシアにはそう言った常識がない。ずっと一人だったのだ。それも仕方ない事だろう。
しかし今は俺がいる。しっかり教えなければならない。
「レティシア。普通、男女は一緒に風呂に入るものではないんだ」
「……でも友達だよ?」
純真無垢な瞳で見つめてくるレティシア。しかしそういうことではない。
「友達だからこそダメなんだよ。そう言うのは結婚してからだ。だからレティシアが先に入ってくれ」
「……わかった。……でも入るのはシンから。……くさい」
「……ぐっ」
流石に真正面から女の子にくさいと言われるのはダメージが大きかった。
アンデットと近接戦をやっていたのだから仕方ないといえば仕方ない。それにレティシアもそういうつもりで言った訳ではないとは思う。
「……わかった。なら先に入らせてもらう。悪いけどレティシアは待っててくれ」
「……ん」
レティシアが脱衣所から出ていく。
それを見送ってから俺は大きなため息を吐いた。
「なんかドッと疲れたな」
「……待たせても悪いしサクッと入るか」
俺はそう呟くと、服を脱ぎ始めた。
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