第10話 死界樹海
視界が切り替わってすぐ。俺は周囲の環境を把握するべく、視線を走らせた。
場所は森。
周りには凄まじく巨大な樹が乱立している。
巨樹の根はとても太く足場がかなり悪い。踏み込みには気をつけなければならないだろう。
そしてなにより視界が凄まじく悪い。とにかく暗いのだ。サッと上へと視線を走らせると、巨樹の葉が陽の光を遮っていた。
どおりで暗いわけだ。
「グゥオオオオオ!!!」
そこまで把握した時、突如として背後から咆哮が聞こえた。
同時に殺気が放出され、凄まじい速度で魔物が向かってくる。数は五。どの個体も濃密な魔力を放っている。
……だけど遅い。
俺は振り返り、腰を落とす。
そして一瞬にして魔物の前に移動した。
……まずは一体――。
しかし不壊剣が振るわれる事はなかった。
その前に魔物は絶命し、勢いそのままに巨樹へ激突。ベチャっと生々しい音をさせながら地に沈んだ。
……これが死の呪い。範囲はレティシアから半径約十メートルってところか。
周囲の気配を探ると五体、その全てが消えていた。俺は絶命した魔物に視線を向ける。
潰れて死んでいたのは
赤黒い体毛を持った大型の犬系魔物だ。
その視線で見つめられるだけで精神汚染を引き起こし、恐慌に落ち入れさせるという非常に厄介な能力を持つ。
それ故に脅威度も高く、高位の魔物に指定されている。
出来れば出会いたくない魔物の一種だ。
「……というかこれ、俺いるか?」
死の呪いの前ではどれほど強力な魔物だろうと意味をなさない。
「……ここら辺はわたし一人でも大丈夫。……でも少し進むと違う。……以前、わたしが進めたのはこの付近まで」
「特殊な魔物でも出るのか?」
「……ん。……アンデット系統の魔物」
「あぁ。なるほど」
理解した。
既に死んでいる魔物には死の呪いが効かないのだろう。
なにせ死んでいるのだから。
「わかった。ならそいつらの相手は俺がする」
「……ん。……おねがい。……あっ。……あと、わたし遠隔攻撃に弱い。……生物じゃないから死なない」
あまりに強力な呪いだと思ったが、弱点も多いらしい。
「了解。教えてくれてありがとな。……知っていれば対処できる」
人に弱点を教えるのは勇気がいる。
しかしレティシアは教えてくれた。ならば俺はその信頼に応えよう。
「……おねがい」
「おう。……それにしてもいきなり
「……
「………………しかい……じゅかい? ……わるいレティシア。もう一回言ってくれるか?」
「……シンって同じこと何回も聞くよね? ……死界樹海だよ」
俺は目頭に手を当てて天を仰いだ。今回も聞き間違いではなかったらしい。
死界樹海。それは最古の三大魔王、死滅龍エルドグランデが支配する
大陸南方に位置し、その大きさは大国であるハイルエルダー王国よりも大きいとされている。
「……大丈夫なのか?」
いくら王国最強と呼ばれようとも三大魔王に敵うと思うほど自惚れてはいない。それ以前に俺では戦いにすらならないだろう。
襲われたらその時点で死が確定する。三大魔王とはそんな存在だ。
しかしレティシアは力強く頷いた。
「……大丈夫。……
「討伐されている? そんなまさか……」
そんな話は聞いた事がなかった。
伝説の三大魔王の一柱が既に討伐されている。それが事実だとしたら国中、というよりも大陸中が大騒ぎになるだろう。
それに――。
「――だって
残っている。
通常、
「……そう。……核を他の場所に移したか、そもそも核ではなかったか」
「……そんなことがあり得るのか?」
「……
レティシアの言う通りではあるのだが、やはり信じがたい。そんな事が可能であるならば他の三大魔王である
「いやそもそも、三大魔王を討伐するなんて事が可能なのか? 倒した勇者は誰だ?」
「……勇者レン=ニグルライト」
「レン=ニグルライト? 聞いた事ないな」
「……古い勇者だから」
「なら聞いた事がなくても当然か。それにしてもすごいな」
普通は三大魔王に手を出そうなどとは考えない。
それほどまでに人類と三大魔王とでは力の差がある。しかし本当にそれを成したというのなら、正真正銘の偉業だ。すごいなんて言葉では表しきれない。
レティシアはどこか誇らしげに頷いた。
「……ん。……偉大な人」
「ちなみに取りに行く魔石は何の魔石なんだ?」
「……
「……破片? というよりもそもそも残っているのか?」
レティシアが古い勇者というからには相当昔だろう。
二百年か、三百年か、はたまたレティシアが生まれる前、五百年以上前なのか。
そんな昔に討伐された魔物の核が残っているとは思えなかった。
しかし、レティシアには確信があるようだ。
「……こっち」
そう呟くと、レティシアは迷いなく死界樹海を進み始めた。
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