第十七話

急いで自分たちの家に戻る勇者たちだったが、

ある人物が目の前に現れる。


勇斗「あと少しで家…あ、お前は…!?」

僧子「え…!?どういう事…!?」

魔瀬樹「…久しぶりだな。…2人だけか?」

僧子「え…え…?本物の魔王も偽物の魔王も、もう倒したはずじゃ…!?」

魔瀬樹「クックック…先程倒された魔王も偽物だ。あの時転送されたのは私が生み出した偽物だ…!」

勇斗「なんだよそれ…!?魔法使いにも気付かれずに偽物を生み出して、自分は転送されないように

一瞬で離れたって事か!?…だったら、トキラが…命懸けであの魔王を倒した意味は…」

魔瀬樹「クックック…貴様らは本当に馬鹿だなあ…最初の戦いで私が指先ひとつ動かさずに勝利したと言うのに…たった9レベル程度上がり、いくつかの新たな特技を覚えた程度で私に敵うわけが無い。」

勇斗「そんなわけ無い!実際G国で戦った時にお前はレベル99の俺たちに手も足も出なかっただろ!」

魔瀬樹「クックック…実はな、あの時貴様らの心を読んで転送石の存在を知り、こちらの世界も私の手で征服しようとしたというわけだ。貴様らが転送石を使用せざるをえないような状況を作り出して私も共にこちらの世界へと来るために。そして…その計画は無事に成功したというわけだ。」

僧子「この…!」

魔瀬樹「…クックック、言いたい事でもあるのか?あらゆる手段を使う、それが魔王というもの…!」

僧子「きぃ……魔王、今あなた魔法は使えるの?」

魔瀬樹「…使えないな。魔法使いに魔力を渡した時から魔法は使えなくなっている。あの時はいかなる手段を使ってでも信頼を勝ち取らなければならない状況だったからな…」

勇斗「…じゃあ、ここで倒してやる。」

魔瀬樹「クックック…面白い冗談だ。もしやれると言うならば、やってみたらどうだ?まあ、魔法なぞ使わなくとも貴様を再起不能にする事は出来るが…クックック…!」

勇斗「てめぇ…顔面に拳をぶち込んでやる…!」


勇者が魔瀬樹の顔めがけてパンチを放つ。


魔瀬樹「無知とは怖いものだな…はっ!」


ドゴムッ…!


勇斗「お…ごふ…!ほ…ごぉほ!ごほっ!」


無防備な脇腹に拳を叩き込まれ、吐血するほどの

ダメージを受けてしまう。


魔瀬樹「クックック…弱いな!私がこちらの世界に来た時に、引き継がれていたのが魔力のみと思っていたならば…大馬鹿者だなぁ…!」

勇斗「血…が…!」

僧子「勇者!大丈夫!?」

魔瀬樹「…さて、貴様らに頼みがある。私も過去に連れていってもらおうか?」

勇斗「くそっ…!いつの間に頭ん中読んだんだ!」

魔瀬樹「貴様らはいずれここに戻って来て何かしらの行動を起こすと読んでいたからな…私の予想通りに行動してくれて助かったぞ?まあ…過去に戻って未来を改変するとは思わなかったが…」

勇斗「…ちっ!どうしたいんだよ!」

魔瀬樹「貴様らに教える義理は無いな。」

僧子「…どうするのか教えないんだったらこっちも何もしないよ。」

魔瀬樹「…では、この石の塀を超えて貴様らの家に入り、過去石を探すとしよう。貴様らはそこで何もせずに待っているんだろう?クックック…」

勇斗「ふぅ〜…行けよ。せいぜい探してろ。」

魔瀬樹「…クックック、何か作戦があるようだが…上手く頭の中にもやをかけたな。思考が読み取れんが…まあ良い、過去石を探させてもらうぞ。」

勇斗(ふぅ、乗り切った…スマホスマホ…)


勇者がスマホを取り出し、急いでカメラを起動して録画する。


魔瀬樹「…ほっ!」


魔瀬樹が家の塀を飛び越える。

勇斗「…よし!映像には収めた…!さあここからは時間との勝負だ…」

僧子「ど、どうするの…?」

勇斗「もちろん…110番だよ!いくら力が強くても複数の警察官相手には勝てないだろ!ピポパっと…もしもし!警察ですか!?家に強盗が押し入って!助けてください!住所は…」


勇者が電話で警察を呼ぶ。


勇斗「…そういうわけなので、急いでください!」


通話終了


勇斗「…後15分ぐらいで来てくれるみたいだから、魔王に過去石が見つからないように妨害するぞ!」

僧子「えっ!?あ…うん!」


家に入り魔王を探す2人。


魔瀬樹「庭、二階の部屋、様々な場所を探したが…どこにも見当たらない。いったいどこに…おや?」

勇斗「魔王…探し物は見つかったか…!」

魔瀬樹「…まだ見つかっていない。」

僧子「…そう。私たちはあなたを妨害しに来た。」

魔瀬樹「…クックック、私を止められると?」

勇斗「…ああ、15分あればお前を止められる。」

魔瀬樹「では、15秒で貴様らを殺すとしよう。」


魔瀬樹が勇者めがけて目にも留まらぬ速さのパンチを繰り出す。


勇斗「うおぁっぶ…ねぇ!」


間一髪でパンチを避け、顎を狙ってお返しの膝蹴りを放つ。


シャッ!


魔瀬樹「その身体でも私の身体を掠める程度には…強いようだなぁ!」


ドゴッ!


勇斗「ぐへ…!」

魔瀬樹「喉を締めれば息が取れまい!」


魔瀬樹が勇者の喉を両手で強く締め付ける。


勇斗「〜…!〜〜!!」

僧子「………やあっ!」


そこへキッチンから包丁を持ってきた僧侶が不意をついて魔瀬樹に対して突き刺そうとする。


魔瀬樹「…気配がだだ漏れだぞ?」

僧子「避けられた…!」


しかし、攻撃を避けた拍子に勇者の喉の締め付けが緩む。


勇斗「おっふぉぁ…!ぐ…あふぁっ…」

僧子「ゆ…勇者…!」

魔瀬樹(流石に時間をかけ窒息させるのは無理か…ならば…!)

魔瀬樹「…包丁を奪い!」

僧子「わっ!」

魔瀬樹「まず貴様を刺し動きを鈍らせ!」

僧子「ぐあっ!」

魔瀬樹「次にこいつを殺る!」

勇斗「ひんいぃぃ〜ぁああ!」


真剣白刃取りの要領でギリギリ刃が勇者に届く事は無かった。そんな緊迫した空間に女神の声が響く。


女神「僧侶よ…今のあなたならばヒール程度の魔法なら使えるはずです…!」

僧子(女神様…!分かりました!)

僧子「…ヒール!」


僧侶の傷が少し癒える。


魔瀬樹「ほう…?」

勇斗「…!お前一瞬僧侶の方に気を取られたなぁ!おっらぁ!」


ドン!


魔瀬樹「っ…!」

魔瀬樹(先程までより拳を突き出す速度が明らかに速い…!なんだこの成長速度は…!)

勇斗「おらおらおら!」

魔瀬樹「ぐっ…!?」


転倒した魔瀬樹を躊躇なく殴りまくる勇者。


魔瀬樹「うっ!ぐっ!うっ!ぶっ!」

勇者「良いか!勇者だからって正々堂々とした戦いばかりじゃないんだぞ!分かったか!」


その瞬間、玄関の扉が勢い良く開く。


警察官A「大丈夫ですか!」

警察官B「あっ…おい!その人から離れろ!」

勇斗「あっ…えっ?あ…俺か?」

魔瀬樹(増援か…だが、勇者が増援に気を取られている隙に…)

魔瀬樹「…はっ!」

勇斗「うおっ!?」

僧子「あっ…あの派手な服を着た人です!あの人を取り押さえてください!」

警察官A「え…?は…はい!」

警察官B「あっちの方か…!」


警察官2人が魔瀬樹を取り押さえようとする。


魔瀬樹(ち…流石に厳しい…!)

魔瀬樹「ぐっ!」

警察官A「確保!確保ぉ!」

警察官B「暴れないで!暴れないで!」

魔瀬樹「くぅ…!」

魔瀬樹(全身を押さえ付けられ、身動きが取れん…くそ…!うつぶせの体制では力が出にくい…!)

勇斗「助かったぁ〜…手から出血してるけど…」

僧子「あ…ヒール…」

勇斗「お…助かる…」

魔瀬樹「…離せェッ!」

警察官A「うわっ!」

警察官B「ぬおっ!」

魔瀬樹「ハァー…ハァー…もう良い…!本当ならば隠しておきたかったが…ハアァ!」


魔瀬樹が火球を生み出す。


勇斗(お…おいおい!やっぱり魔法が使えないって嘘じゃねぇかよ!ヤバいって!)

僧子「け…警官さん!逃げましょう!」

魔瀬樹「逃げる隙なんぞ与えん!せぇい!」


沢山の小さな火球が拡散するように放たれていく。


警察官A「あ…あづい!あづい!」

警察官B「ぎゃぁぁぁ!」

勇斗「あっつあっつぁ!あぢぢぢぢ!!」

僧子「熱!熱い!」

魔瀬樹「おや?庭に生えている草の影に箱のようなものがあるな…」

勇斗(クソッ!クソッ…!俺たち…ここで終わり…なのか…!?)


救いの手を差し伸べるように女神の声が響く。


女神「勇者よ、聞こえますか?そちらの世界で死亡した場合でも復活は可能です。今はまだ焦る時ではありません…!」

勇斗(そうですか…!)

僧子(でも…過去石が…!)

女神「過去石の入った箱を誰も知覚出来ないようにしました…!これで、魔王が箱を見つけられる事は絶対にありません…!」

魔瀬樹「気のせいか…?草の影に箱があったような気がしたのだが…」

僧子(よ…良かった…でも…警察官さんは…)

女神「…残念ながら、そちらのお二方はどうしようもありません。」

勇斗(そう…ですか…うっ…)

僧子(うぅっ…)


勇者、僧侶、警察官2人が焼死。


魔瀬樹「…まあ良い、これから面倒な事になるやもしれん。証拠隠滅も兼ねてあたり一帯に火球を放つとしよう…」


魔瀬樹が全方位に無数の火球を放ち、その距離は5kmにも及んだ。


あの世


勇斗「う…ん…?ここは…あの世なのか?」

僧子「あっちの世界のあの世と似てるけど…」

勇斗「とりあえず〜…そうだなあ…いつもみたいな感じで復活してみるか。大火傷ぐらいだったら1分すれば復活出来るようになるだろ。」

僧子「そうだね。…どこで復活するのかな?」


復活した場所は…それぞれの実家だった。


勇斗の実家


勇斗「………お?ここは…実家?」

勇斗の母「…あれ?勇斗?あんたいつの間に帰ってきたのよ?」

勇斗「あ〜…いやぁ〜…家が〜…燃えちゃって…」

勇斗の母「えぇ!?」

勇斗「えと…なんとなく実家に帰りたいなぁ〜って思って帰る途中で…僧子から〜…連絡があって…」

勇斗の母「え…それで、皆は無事なのかい?」

勇斗「それが〜…魔由美と戦弥が…その…」

勇斗の母「…そうかい。とりあえず、家上がりな。何か飲み物持ってくるから…」

勇斗(2人とも…ごめん…今はとりあえずそういう事にさせてくれ…)


僧子の実家


僧子「…ここは」

僧子の父「…おお?僧子、いつ帰ってきたんだ?」

僧子「あ…お父…さん。えっと…その…家が…ね…燃えちゃって…帰ってきたんだ。」

僧子の父「あ、もしかしてさっきニュースでほら、5km燃えたっていうあれじゃないか?」

僧子(5km?証拠隠滅のためかは分からないけど、魔王…なんて酷い事を…!)

僧子「あ…うん。えっと…家に帰ろうとしたら火が上がってて、仕方なくこっちに帰ってきたの。」

僧子の父「そうか…あ、勇斗くんと魔由美ちゃんと戦弥くんと一緒に住んでたんだろ?皆は無事か?」

僧子「えっと…勇斗だけ逃げられたみたい…」

僧子の父「そうか…辛かったなぁ…」

僧子(魔法使い…戦士…今はそういう事にさせて…ごめんね…)


2人はそれぞれ自分の部屋でスマホを取り出す。


LI◯E チャット内


超天才★勇斗[僧侶、いるか?]

僧子だよ[いるよ]

超天才★勇斗[お前も実家か?]

僧子だよ[そうだよ]

超天才★勇斗[これからどうする?しばらくは石も回収出来ないぞ]

僧子だよ[とりあえず火が消化され次第家に戻ろう]

超天才★勇斗[分かった。待ち合わせとかあるか?]

僧子だよ[多分あれだけの大火事なら消化されたかどうかもニュースでやってると思うから、火の消化の情報が入ったらまた連絡するね]

超天才★勇斗[分かった]


それから数日経ち、なんとか消火されたようだ。


僧子だよ[勇者、魔王が放った火が消されたみたい]

超天才★勇斗[やっと消火されたのか]

僧子だよ[家に戻ってみようか]

超天才★勇斗[分かった]


こっそり実家を抜け出し、自分たちの家に戻る。


僧子「あ、勇者…」

勇斗[うへぇ…こりゃまた…酷いな…]

僧子「とりあえず、箱を探そう…」

女神「勇者よ…聞こえますか…」

勇斗「あ、女神様」

女神「今、箱を知覚出来るようにしました。」

僧子「ありがとうございます。」


箱を探す2人。


勇斗「…お、あれかな?」

僧子「あったあった…さ、箱を開けよう。」

勇斗「パカリンコっと…よし、過去石は無事だな。これで過去に戻れる…ん?なんか視線を感じ…」

魔瀬樹「もらったぁぁ!」


屋根の上にいた魔瀬樹が勇者に飛び付いてきた。


勇斗「やっ…屋根の上に…!」

僧子「あ…危ない!」


僧侶が腕を突き出した事で勇者への攻撃が逸れた。


勇斗「うおっ…っぶねぇ〜!僧侶マジナイス!」

僧子「はあ………よし…!」

魔瀬樹「ち…!」

僧子「あ…勇者!二手に逃げるよ!」

勇斗「お、おう!…どこに逃げれば良いんだ!?」

僧子「どこでもとりあえず逃げるの!速く!」

勇斗「分かったけどさぁぁぁっ!?」


魔瀬樹は容赦無く攻撃を続けてくる。


勇斗「ぬっりゃぁ!?」

魔瀬樹「二手に分かれるつもりか?クックック…」

勇斗(やべぇ〜、バレてるか…?)

魔瀬樹「………間抜けめ。」

僧子「頑張って逃げて!勇者!」


タッタッタッ…


勇斗「あっ…待っ…!…くっそぉ!こうなったら、絶対に逃げ切ってやるよ!」

魔瀬樹「クックック…追うのは貴様ではない。」

勇斗「…へ?」

魔瀬樹「追うのは僧侶だよ…クックック…!貴様はそこで突っ立っていろ!」


魔瀬樹は僧侶の方を追いかけていった。


勇斗「な…なんなんだよ…?とりあえず過去石は…過去石…過去石が…あれ!?無い!何で!?」


一方、僧侶の方はというと…


僧子「はっ…はっ…なんでこっちを…!?」

魔瀬樹「クックック…!見事な手際だったぞ!」

僧子(バレたか…)

魔瀬樹「腕を突き出し私の攻撃を防ぎつつ勇者から過去石をこっそり奪って、その後二手に逃げる際に勇者の方を追わせたかったのだろう?」

僧子「なんでも…お見通しか…!」

魔瀬樹「いったいどういうつもりなんだ?貴様1人で過去に戻るつもりだったのか?」

僧子「…ふふっ」

魔瀬樹「?…どうした?絶望のあまり、笑う事しか出来ないのか?」

僧子「これは勇者のためなんだよ。」

魔瀬樹(…!?な…空気が…異様な雰囲気に…!)

僧子「やっと魔王と2人きりの状況を作れたよ…」

魔瀬樹「貴様…何を…?」

僧子「…ここで負の連鎖を断ち切ろうかなって。あ、詳しく知りたいなら心を読んで。いちいち説明するのももう面倒だから。」

魔瀬樹(なんなんだこいつは…!何か底知れぬ力を感じる…!こ…心を読もう…!)


魔瀬樹が僧侶の心を読むが…


魔瀬樹「………あ…あ…!ア…!」

僧子「あらら、分かりやすく追体験みたいな感じで思考してたのに…精神が崩壊しちゃったかぁ。まあ良いか。勇者には悪いけど今回は私1人で行く。」


僧侶が過去石を掲げる…


僧子「ここまで…長かったなぁ…」


次回に続く

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