瑠璃色の簒奪者。



 ――走馬灯が、流れていく。

 

 いつかの記憶、いつかの景色を切り裂くように、赤い剣閃が走り――。



 俺の身体は意図せずに動く。

 


 

 それは、まさに最後のあがきと言えた。


 それも、一矢報いる手などではない。

 単なる延命だ。


 


 ――致命傷を避けようと捻った身体が、首を落とす軌跡を逸らす。



 避けられない。

 ただ、当たり所を変えただけだ。

 どこを斬られようと、HPを失えば終わりだというのに。

 

 

 ――振り下ろされた赤い刀身が、俺を袈裟斬りした。


 

 

 かくして俺のHPはゼロになり、意識喪失ブラックアウトする――。

 

 

 そのはずだった。



 


「…………あ?」




 

 

 まだ、立っていた。


 いつまでも、その瞬間はやってこなかった。



 俺は意識も失わず、何事もなかったかのように両目でこの世界を捉え続けている。


 それよりも、さらに奇妙なのは……。


「……なんだ、これ」


 なにか線のようなものが俺とデーモンの間に伸びていた。


 濃い、青い糸。

 それはデーモンの身体に巻き付けられ、奴の自由を奪っているようだ。

 


「これは……」



 繋がっている線を辿り、俺は自分の胸元を見る。



 ――そこには、身に覚えのない模様が刻まれていた。

 瑠璃色の紋様が、ちょうど心臓の位置に重なるように描かれている。

 

 まるで肋骨の下にある心臓そのものが、瑠璃色に輝いているかのように……。



 思わずその模様に触れようと手を伸ばすと、思いがけないことが起きた。

 さきほどから動かなかったデーモンが、その手を動かしたのだ――



 


 

 その瞬間、俺は理解した。

 

 

 

 瑠璃色の簒奪者。

 

 

 目の前のデーモンの身体は、すでに奴自身のものではない。

 その身体の主導権君主は、今や俺にあるのだと。



 俺は握り込んだ形をとった両手を、自分の首元に持って行く。

 その動きと全く同期して、デーモンは刀を自分の頸筋に当てる。

 

 その骸骨の下にある緑色の両目が、怯えるように光った気がした。

 

 そして。



「――死ね」

 


 俺は、両手を引く。


 それは容易く、まさにジェスチャーをするのと同じだけの力で――。

 

 

 デーモンは自分の首を、刎ね落とした。






 ――目の前が、目映いほどの光に包まれていく。

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