おまけ4 第29話補足

学園でカリブラが恥をかいて翌日、アスーナはグラファイト公爵家の屋敷に招かれた。



「ようこそアスーナ、我がグラファイト家は君を歓迎するよ」


「光栄ですわハラド様」



ハラドはアスーナを笑顔で出迎える。その直後、大きな白い犬が駆け込んできた。



「ワンワン!」


「まあ、大きなワンちゃん!」


「ああ、我が家の愛犬ポッピーだよ」



ポッピーはハラドの屋敷で飼っている犬だと聞いている。大きな犬で一見怖そうな印象を受けがちだが、アスーナはそんなふうに見なかった。むしろ目を輝かせてポッピーに抱きついた。



「あらあら、人懐っこそうで可愛い顔してますねポッピーちゃん」


「ワンワン!」


「おや? ポッピーの可愛さが分かるなんて流石アスーナだ」


「ワンワン。クウゥ〜ン」



出会ったばかりなのにアスーナとポッピーはじゃれ合う。



「そういえばアスーナも犬を飼っていたんだな。クロットという名前は知ってるけど、どんな犬だったんだ?」


「クロットはポッピーくらい大きく育った黒いワンちゃんです。私が幼い頃から飼っていたんです。ソルティア以外の家族みんなで可愛がっていました」


「そうか……って、ソルティア嬢は可愛がらなかったのか?」


「ソルティアも最初の頃は可愛がっていたんですが、クロットが大きくなると怖がってしまい……」


「すまない。野暮なことを聞いた……」



アスーナの顔が少し寂しげになった変化をハラドは見逃さなかった。そして聞いたことを後悔して話題を変えることにした。



「もしかしてクロットはポッピーと同じ犬種なのか?」


「そうですね。クロットのほうがポッピーちゃんよりも大きかったですが、顔つきと体格から同じだとひと目見て分かりました」


「そうか、それでポッピーが大きくて怖いって感じがしなかったんだね」


「ワンワン!」



ハラドがなるほどという感じで納得するが、アスーナはふと疑問に思った。



「え? 大きくて怖い印象を受けるのですか? ポッピーちゃんはこんなに可愛いのに?」


「大型犬だから噛まれたら痛そうとか考える人もいるのさ。ポッピーはこれでも60センチくらいだからね」


「クロットは70センチでしたよ。それでも私もお父様も義兄様も大切に可愛がってきました。ソルティアは違いましたけどね」


「70……ポッピーが怖くないわけだ」



ポッピーは大きくなりすぎたため、中々会わせられる来客がいなかった。そのため寂しい思いをさせたとハラドは思っていたのだ。それだけに、アスーナがポッピーのことを気に入ってくれて本当に嬉しかった。



「ワウンワウン!」


「あはは! 本当に可愛いですね〜」



ポッピーのことを第一印象で可愛いと思ったアスーナ。そんな彼女にポッピーも気に入ったようでじゃれ始める。そんな婚約者と愛犬の仲良しな様子が嬉しいハラドは考える。今日の予定の変更を。



(これは……大事な話は後で良さそうだな。アスーナが笑顔で愛犬とじゃれ合う……なんて愛らしい光景なんだろう。時間はたっぷりあるからもう少しこのままでいいか……)



実は手紙でカリブラがアスーナに迫ろうとして失敗したことを知ったため、これからのことをじっくり話し合おうとしていたのだが、自分の愛犬とじゃれ合うアスーナが愛おしくて後回しにすると決めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る