おまけ1 第1〜3話の補足
グラファイト公爵家。嫡男が王太子の側近ということもあり王家にもっとも近しい立場にあると言われている。当然、主催するパーティーの参加者も大勢いるわけだ。規模が小さいものでも様々な貴族が来る。
それを利用して嫡男の婚約者選びをすることもできるわけだ。
「ハラドお坊ちゃま。本当に良いのですか?」
「なにがだい、ガモンバ?」
グラファイト公爵家の嫡男ハラド・グラファイトは笑みを浮かべて振り返る。そこには困惑気味な料理長ガモンバの顔があった。
「何って、婚約者選びのことです。お坊ちゃまの狙う相手のことですよ」
「ああ、伯爵令嬢アスーナ・ブラアランのことか」
「はい。何も婚約者がいる令嬢を第一希望と考えるのはどうかと思うのです」
ガモンバの知識にある伯爵令嬢アスーナ・ブラアランは婚約者がいる。それもカリブラ・ゲムデスという侯爵令息でありながら評判の悪い男だ。そんな男の婚約者を第一希望にと考えるハラドのことが心配なのだ。
「それなら問題ない。俺の読み通りならあの二人は遅かれ早かれ婚約を白紙にする。解消か破棄どちらでも構わないが、カリブラに問題がある形で婚約は駄目になるはずだ。絵に書いたような馬鹿令息と模範的な貴族令嬢では釣り合わないからな」
カリブラの素行の悪さもアスーナの最高レベルの貴族令嬢らしさもハラドは耳にしている。そんな二人では婚約が続くはずがないとハラドは予想していた。いや、確信していた。
「それでも婚約している間に口説く理由にもいかないでしょう。不貞を促すようなもので、」
「ハラド!」
ガモンバが更に何か言おうとした時だった。とある人物がその声を遮ってハラドに呼びかけてきたのだ。しかも、絶対に無視できない相手。ハラドの主とも言える男。
「殿下!」
王太子エーム・タースグバ、その人だったのだ。
「ハラド、君の読みは見事に的中した。今しがた、カリブラ・ゲムデスはアスーナ・ブラアランに婚約破棄を宣言した」
「本当ですか! っていうか我が家のパーティーで!?」
「間違いない。どうやらブラアラン家の次女ソルティア嬢と不貞をしていたらしく、それを理由に婚約を破棄したいのだと言っていた」
「なっ!? アスーナ嬢の妹と不貞!?」
ハラドは流石に驚いた。ソルティアの評判の悪さも聞いていたために、カリブラがそんな女性と仲良くできるとは思っていなかったのだ。
「それでアスーナ嬢は、喜んで受け入れたのですか?」
「まるで見てきたかのように言うが、その通りだ。二人でお楽しみと笑って答えたよ」
「――っ! やりました! この時を待っていました! それでアスーナ嬢はどこに!」
ガッツポーズをして喜ぶハラドは今にもアスーナを探し出しそうな様子だ。それに対して王太子エームはアスーナがいる先を指差す。
「向こうにいる。ハラド、チャンスだからすぐ行って来い」
「はい! ありがとうございます!」
ハラドは急ぎ足で王太子エームが指さした先、アスーナのもとへ向かった。そんなハラドの姿に王太子エームは我が子とのように喜んでいる。
一方、ガモンバは唖然とした。ハラドの予想通りになったのだから。
「……ハラドお坊ちゃまの言う通りになった。『このパーティーの最中にあの二人の婚約は白紙になる可能性が高い』。まさかとは思っていたけど、本当に……!」
そしてその後、ハラドとアスーナが婚約することになったと聞いてガモンバは更に驚くことになったのだ。
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