第44話 害虫駆除

カリブラは驚愕した。しかし、驚いたのは自分が害虫と呼ばれたことではなく、ハラドの顔が別人かと思うほどに冷たいものになっていたことだ。まるで虫けらを見るような鋭い目つきでハラドはカリブラを睨んでいるのだった。



「お前はあんな事があったにも関わらずにアスーナに執着していたな。それが心配になってアスーナを守るために俺が動くことは何も不思議なことじゃない。お前はそれが分からなかったのか?」


「そ、それは……」



カリブラは何がなんだか分からなかった。嫌っていてもハラドは公爵という一つ格上の貴族令息だ。本格的に敵対しようとすれば勝てる見込みが少ないことくらいカリブラも分かっていた。だからこそ、ハラドがいない間を狙ってアスーナを我が物にしようとしていたのだが、いないはずのハラドが今ここにいるのはどういうことだろう。



「ああ、俺がいない間を狙っていたのにとか思ってそうだが、俺は密かに学園に入っていたのさ。方法は口にしないがな」


「はぁっ!? なんでわざわざそんな真似を!?」


「言っただろう。お前という害虫を駆除するためだって、お前を追い詰めるためにわざと隙を作って待ち構えさせてもらったんだ。勿論、返り討ちにする準備もしたうえでな」


「な、何ーっ!?」



ハラドの言葉通りならカリブラの計画は筒抜けだったということだ。返り討ちにする準備までしていたというのだから、頭の足りてないカリブラでも自分の計画が逆に利用されたと分かってしまった。



「カリブラ様、お気づきになりませんでしたか? 私とバニアを呼びに行った貴方の取り巻き二人が姿を見せないことに」


「そ、それがどうし……まさか、あいつらが裏切りやがったのか!?」


「いいえ、廊下で拘束させて頂いています。廊下に転がしてますが」


「っていうか、私達だけ部屋に入ってきた時点でおかしいと気づくべきでしたね~」


「くっ!」



確かにアスーナとバニアをおびき寄せるように二人の取り巻きに命じていた。その二人が姿を現さない時点で何かおかしいと気付くべきだったのだが、もう遅い。



「ソルティア嬢に嫌気が差したのならさっさと婚約解消か婚約破棄すればよかっただろう。それをしないでアスーナを自分のものにしようとするのはどういうことだ?」


「あ~、多分カリブラ様のことだから~。『どうせなら姉妹両方とも手に入れよう』とか思ったんでしょうね~。もしくは言うこと聞かない妹を姉を使って、とか~?」


「だとしたら最低ですね。そもそもソルティアはもう私の手にも負えないというのに」


「…………っ!」



カリブラは悔しさに歯噛みする。アスーナとバニアを思い通りにするはずが自分が追い詰められる状況になってしまったのだ。自分より立場が強いハラドがすぐ後ろにいて、眼の前には強力な護衛二人に守られるアスーナとバニアがいる。カリブラが逆転するチャンスは一切ない。



(このままだと僕は……)



もう証人は揃っている。このままではカリブラは犯罪者として処罰される。そんなことになれば侯爵家の嫡男から降ろされる可能性が高い。

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