第42話 二人の『陰』
顔を真っ赤にして憎悪を込めた目でアスーナとバニアを凝視するカリブラは、激しく息を切らしながらも更に叫ぶ。
「よ、よくも、そ、そこまで……み、醜いなんて、ゆ、許さない……! こ、殺し……いや、死んだほうがマシだと思うくらいの恥辱を与えてやるぞぉっ!」
「こんなことで取り乱して感情が爆発するなんて、本当に幼稚すぎますね」
「全く~、貴族になっちゃいけない男~。まして嫡男なんて世も末~」
「だ、黙れ黙れ黙れぇっ! お前らぁっ、女どもを顔以外殴ってやれ!」
顔以外殴れ、つまり顔以外ならいくら殴っても構わないということ。その言葉だけでもカリブラの下劣な思考がよく分かる。そんな自分にアスーナは頭が痛くなりそうだった。取り巻き達もそれを感じ取ったのか動揺しながらもアスーナとバニアに迫る。
「ははははは! アスーナぁ! 泣け! 喚け! 恐怖しろ! そして『助けてください』と叫べぇ!」
「え? 嫌ですけど?」
「いい加減余裕ぶるのも大概にしろよ! お前は今から傷物になるんだよぉ!」
カリブラは気づいていなかった。これほど危機的状況なのにアスーナが冷静にしているということを。ただ、気づいたとしても後の運命の何かが変わることはなかったのかもしれない。
「「そんなことはさせん!」」
「「「「「――っ!?」」」」」
どこからともなく――正確にはアスーナとバニアの後ろの方からカリブラが聞き慣れない声が発せられた。その直後に、アスーナとバニアの側から見慣れない簡易な武装をした者が二人も現れた。
そして、アスーナとバニアに一番近づいていた二人の取り巻きを見慣れない形をした剣と槍で一撃で叩きのめしてしまった。
「……へ? な、なんっ、なんだぁ!?」
突如、どこからともなく現れた二人組に取り巻き二人が昏倒させられた。その事実に遅く気づいたカリブラは眼の前で起こった事態に驚愕し、その目で現れた二人組みを見る。
「な、なんだお前ら!? どこにいたんだよ!?」
「……外道が知る必要ないでござる」
「これから貴様も同じ目に遭うんだよ」
「っ!?」
一人は赤いフルフェイス型の仮面を被った見慣れない黒い武装、声色から男性のようだ。もう一人は全身赤と黒を強調した龍を模した様な武装、緑色の瞳と髪でポニーテールをしており声から女性だとすぐに分かるが顔つきは傷だらけ。
この二人こそ、バニアとアスーナを守る『陰』の役割を担うチャンバーラ王国の戦士。男の名をガット・ン・カインデン、女の名をグレン・バク・リュウケン。両者共にかなり危険な雰囲気を感じさせたため、怒り狂ったカリブラの頭が恐怖で冷えてしまった。
「お、同じ目に!? お前ら、この僕に手を出すというのか!? 僕を誰だと思っているんだ!? 偉大すぎるほど偉大なカリブラ・ゲムデス様だぞ!」
しかし、カリブラは危険な相手だと理解しつつも高圧的な態度を精一杯示そうとする。無駄に高すぎるプライドが怯える気持ちよりも強気な態度を見せようとするのだ。無駄な努力とも分からずに。
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