第31話 二組のカップル

今日。学園にハラドが登校した。ただ登校しただけではなくて婚約者のアスーナと一緒にだ。



「これからは前よりも一緒に登校する時間があるからね。そして、よほどの事態にならない限り俺が離れることはないよ」


「ハラド様ったら過保護になりましたわね」


「いやいや、これこそが婚約者としてのあるべき姿だよ」



アスーナとハラドはまるで見せつけるかのように仲良く教室に向かう。あまりの仲の良さに見かけた者は面白そうに眺めたり嫉妬深く見つめたり悔しそうに顔を背けたりするなど反応は様々だ。


そして、もう一組のカップルもまた二人のことを良くない感情を抱きながら待ち構えていた。



「アスーナ!」


「お姉様!」


((来た!))



予想通り、カリブラとソルティアだ。こちらのカップルの仲はよく無さそうで不機嫌な顔をしているし互いの顔を見ようとしない。更に、アスーナとハラドの仲良さそうな姿を見ると憎らしい顔つきになって睨んでいる。



「……何のようだカリブラ?」


「どうしたのソルティア?」



カリブラとソルティアのただならぬ雰囲気を感じ取ったアスーナとハラドは険しい顔で警戒心を強める。カリブラとソルティアの性格の悪さから考えれば、絶対にろくでもないことを言い出すだろうと予想できたからだ。


ただ、どんな突拍子もない言葉が出るかは予測できない。二人と嫌でも付き合いの長いアスーナでもだ。



「アスーナ、もう随分とハラドと仲良くなってるんだな……ついこの前までこの僕の婚約者だったくせに……はしたない女だ」


「お姉様、すぐに新しい男と仲良くなってはしたないと思わないの?」



二人揃ってあからさまな嫌味を口にしてくるが、この程度ならば簡単に反論できるレベルだった。それだけならまだいい。



「私とハラド様は気が合うのです。その事実に以前の婚約のことは関係もないし、はしたないということもありません」


「そういうことだ。そもそも俺達の関係を君らにとやかく言われる筋合いはないし、はしたないと表現されるのもおかしいだろう。二人共もう少し国語の勉強を頑張りな」


「「――っ!」」



アスーナにあっさり反論されて、ハラドに馬鹿にするようなことを言われて、カリブラもソルティアも悔しそうに顔を歪ませる。相当頭にカチンと来たようだが、珍しくすぐキレることはなかった。



「……僕はソルティアと婚約していたんだが……どうもうまくいかないんだ……気が合うから上手くいくと思ったらソルティアは屋敷で迷惑ばかりかける……もううんざりなんだよ」


「カリブラ様ったらこんな事を言うのよ。せっかくこんなに可愛いこの私が侯爵家に移り住んだっていうのに、カリブラ様のお母様がうるさくて仕方がないのよ。カリブラ様まで文句を言うようになって全然自由にできなくなったの。挙げ句には巫山戯たマナーを押し付け勉強を要求されたりするのよ。もうめんどくさいしつまんない」



(つまり、互いに愛想をつかしたからこちらに飛び火を飛ばすわけか)


(まあ、二人の性格の本質を考えれば……そうなるでしょうね)

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