婚約破棄された伯爵令嬢は王太子に求婚されたのだが……

誰もが憧れるラブロマンス

 アポロニア王国王宮にて、この日はアポロニア王家主催のパーティーが開催されていた。

「ローズマリー・ウィルクス! 貴様との婚約を破棄する!」

 パーティーの場に相応ふさわしくない声が響き渡る。声の主はジミー・ダンヴィル。ダンヴィル公爵家の次男である。彼は婚約者である伯爵令嬢ローズマリーを差し置いて、ピンク色の髪の小動物を彷彿とさせるような少女をエスコートしていた。

 突然の出来事に、パーティー会場はしーんと静まり返る。

「このような場で婚約破棄でございますか……。恐れ入りますが、理由をお聞かせ願えますか?」

 婚約破棄を告げられたローズマリーは戸惑いながらも落ち着いていた。紫色の艶やかな髪にルビーのような赤い目の、凛とした顔立ちの令嬢である。

「白々しい! 貴様が俺の愛するこのサマンサ・ファロンに酷い仕打ちをしたからに決まっている!」

 目を吊り上げているジミー。彼は隣にいるピンク色の髪の少女の肩を抱く。おそらく彼女がサマンサなのであろう。

「失礼ですが、そちらのサマンサ様と仰るお方とは初対面でございます」

 戸惑いつつも主張するローズマリー。

「そんな、私が男爵令嬢だからって酷いです!」

 わあっと泣き出すサマンサ。

「おお、サマンサ、泣かないでおくれ」

 サマンサを守るように抱きしめるジミー。ローズマリーはそれがわざとらしく感じた。

「とにかく、貴様のような性悪女とは婚約破棄だ! そして俺はこのサマンサと新たに婚約を結ぶ!」

 ジミーはローズマリーを睨んでそう言った。

「……婚約破棄は承りました。皆様、この場の雰囲気を壊してしまい申し訳ございません。わたくしはこれで失礼しますので、皆様はパーティーをお楽しみください。それではご機嫌よう」

 ローズマリーは軽くため息をつき、その場を去ろうとした。

 その時だ。

「ローズマリー嬢、待ってくれ!」

 ローズマリーを呼び止める者がいた。

 蜂蜜色の髪にサファイアのような青い目の、まるで美術品のような顔立ちの青年だ。年はローズマリーとあまり変わらないように見える。

「ヒューゴ王太子殿下……!」

 ローズマリーは自身を呼び止めた人物を見てルビーの目を大きく見開いた。

 ヒューゴ・アポロニア。アポロニア王国の王太子である。

「ローズマリー・ウィルクス嬢、君に結婚を申し込む。どうか私の妻となり、共に国を盛り立てて欲しい」

 ヒューゴは片膝をつき、ローズマリーの右手の甲にそっと唇を落とした。

 周囲は大きく騒つく。

「お、王太子殿下、ご冗談はおやめくださいませ」

 ローズマリーはいきなりのことで困惑していた。

「それに、わたくしはたった今婚約破棄された身でございますわ。王太子殿下には相応しくありません」

「いいや、ローズマリー嬢、君以外に私の妻に相応しい女性はいない。元々このパーティーは君の功績をたたえる為に開いたんだ」

 そこでヒューゴは皆の方に体を向ける。

「皆も知っている通り、我が国の王族、貴族は魔力を持つ。しかし、その魔力を使い過ぎることで体内にある魔力回路に支障をきたし、体の不調を起こすことは知っているであろう。現にこの場にいる者達の身内にも、魔力回路に支障をきたして寝たきりになっている者もいるだろう。だが、ここにいるローズマリー・ウィルクス伯爵令嬢は、壊れた魔力回路の治療法を確立した! それだけでなく、魔力の使い過ぎや暴走を防ぐ為の魔道具も開発したのだ!」

 その言葉を聞き、周囲からは歓喜の声が上がる。

「よって私は、国の為に尽力したローズマリー嬢を妻に望む!」

 すると周囲も祝福ムードに変わる。国王も王妃もローズマリーを認めているようだ。

「ローズマリー嬢、研究所で君と過ごした時間は私にとって宝物だ。どうか私と結婚して欲しい」

 ヒューゴのサファイアの目は、真っ直ぐローズマリーのルビーの目を見つめていた。

 ローズマリーは頬を赤く染めて首を縦に振る。

「光栄でございます、王太子殿下。不束者ではございますが、王太子殿下と共にアポロニア王国を盛り立てていければと存じますわ」

 こうしてローズマリーは王太子妃になるのであった。


 ウィルクス伯爵にはローズマリーしか子供がいないという問題もあった。しかし、分家から養子を迎えることで後継者問題は解決した。

 ちなみにジミーとサマンサが婚約破棄騒動を起こした為、ダンヴィル公爵家及びファロン男爵家は莫大な賠償金をウィルクス伯爵家に支払うことになった。そしてジミーとサマンサはそれぞれの家から勘当され、平民になるしかなかったのである。


 ローズマリーとヒューゴの一世一代のラブロマンスは、皆の憧れとして語り継がれるのであった。

 その裏でしわ寄せを受けた者達がいることを知らずに……。

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