第8話 出発
五時間の短い睡眠を終えたシンはアメリアと共に朝食を取った後、その日の予定について話した。
「チェックアウトしたら一度ナポリに向かうよ。その後ローマまで行って用事を済ませたらフィレンツェへ出発しよう。」
「うん。ローマまでは何で行くの?」
「今回は普通に電車で行くよ。」
「え、でも電車なんかで行ったら組織の人にバレちゃうんじゃない?」
「あー……初日は避けてたけどこの先はそれほど警戒する必要はないと思うよ。」
「なんで?」
「多分ちょっと勘違いしてると思うんだけど、裏社会の組織ってそこまで何でもありってわけじゃないよ。まぁうちの組織は結構大きめではあるけど、それなりの変装をしてれば見つかる可能性はかなり低い。」
「ふーん。」
「もちろん包囲網は張られてるだろうけどね。」
「あれ? でも私変装なんて出来ないよ?」
「うん、だからまず変装用のマスクを作りに行く。一応世界中にそういう業者はいるんだけどローマに腕のいい技師がいてね。数時間もあれば顔にぴったり合う専用のマスクを作ってくれる。」
「あぁ、さっきの用事ってそれのことだったの。でもその人も組織の人なんじゃないの?」
「そういう技師もいるけどそいつは裏社会でも完全に独立してる。まぁ俺たちみたいな訳アリも多いから個人でも結構儲かってるって噂だけど。」
「へぇ~便利。」
(もっとも、想定以上に組織の奴らの頭が回っていた場合は二日経った今でもそこを張り込まれてる可能性があるけど……その時は力ずくで逃げることも考えるか。)
一抹の不安を覚えながらもシンはアメリアを必要以上に怯えさせることは避けるべきだと判断し、その可能性について話すことはなかった。
「ローマに行くまではどうしよっか。」
「紙マスクを売店で買っていこう。応急処置だけどそれでも十分顔は隠せる。不自然でもないしね。」
チェックアウトの時間である11時が迫るとシンは変装用の若い男のマスクを被って部屋を出る。チェックイン時にも同じマスクを着用していたため、怪しまれることなく無事チェックアウトが完了した。
その後二人は一階にあった売店で紙マスクを買い、ホテルの正面玄関に停まっていたタクシーを使って付近の駅へ向かった。
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「へぇ~あれが券売機なんだ。」
「もしかして、乗ったことないの?」
「うん、あんまり家から出してもらえなかったから。」
少女は笑い話のように明るく振舞うがその様子がシンにとってはかえって痛々しく感じた。
ナポリとローマはおよそ223キロほど離れているものの、フレッチャロッサという高速列車が直通しているため一時間と少しあれば簡単に行き来することが出来る。日本と同じようにデータで管理されるオンラインチケットも存在するが、追跡を恐れたシンは既に携帯を破壊しているため今回は自動券売機でチケットを買うことにした。
「あっ、あそこ空いてる! あそこで早く買おうよ!」
「いや、多分やめておいた方がいいね。他の人も並んでるでしょ?」
「ホントだ。なんで一個空いてるのに並んでるんだろ?」
「これ結構あるあるなんだけど、自動券売機ってたま~にハズレが混ざっててそいつを引くとおつりが出ないとか、ひどいときにはチケットそのものが出ないことがあるんだ。」
「えぇ!?」
「だから基本的には人の使ってるやつを使った方がいい。今後のためにも覚えておいてね。」
「はーい。」
二人は券売機でチケットを購入した後、足早にプラットフォームへ向かい正午過ぎ発車の列車に乗り込んだ。
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