第42話 驚きのニュース
「おはよう……斗真君」
翌朝、俺が玄関を開くと、美月がピシッと制服姿に身を包んだ状態で待っていた。
「お、おはよう、み、美月……」
ぎこちない挨拶を交わすと、二人の間に得も言えぬ沈黙が舞い降りる。
昨日、キス未遂があってから初めて顔を合わせたので、なんとなくお互い様子を窺っていると言ったところだろうか。
「ま、待っててくれたの?」
「うん。だって付き合い始めてから初めての登校でしょ?」
美月の口からそんな言葉が出てくるとは……。
本当に付き合い始めたんだなと言うことを改めて実感する。
「い、行こうか」
「うん……」
会話は少なかれど、考えていることは一緒。
どちらからともなく、お互いの手を取り合ってマンションの廊下を歩いていく。
改めて美月の手に触れると、彼女の手はすべすべしていてとても暖かい。
俺の手、カサカサに乾燥してないかな?
手汗とか掻いてないかなと心配になってしまう。
昨日はデート前日に寝られなかったこともあり、ベッドで一人悶絶している間に寝落ちしてしまった。
おかげで、付き合い始めて浮かれて寝不足と言うことはないけれど、どこか気持ちが浮き足立っているのは間違いない。
「あのね……」
「あのさっ……」
俺が話しかけようとしたタイミングで、美月も同時に声を掛けてきた。
「み、美月から先にどうぞ」
「ううん。斗真君の方から先に言って」
「いや、俺の用件は全然大したことじゃないから、美月からどうぞ」
「じゃあお言葉に甘えて……」
そう言って、美月は一つ間を置いてから、目を輝かせながら尋ねてくる。
「昨日の『フラッシュライフ』からの発表見た?」
美月が出してきた話題を聞いて、俺も一気にテンションが上がってしまう。
「見た見た! ついに新人がデビューするんでしょ?」
「そうそう! 私も発表があるまで知らされてなくてビックリしちゃった」
「これでついに、モモちゃんにも初めて後輩が出来るんだね」
「ねっ! 一体どんな子なのかな?」
モモちゃんが活動を初めて一年と少し。
初めて出来る後輩に、思いを馳せる美月。
「それでね、斗真君って今日の夜は空いてる?」
「うん、特に予定はないよ」
今日はバイトの予定も入れてないし、夜はモモちゃんの配信でも見て過ごそうと思っていたのだが、この流れはもしや……。
「その……斗真君が良ければなんだけど、新人ちゃんのデビュー配信一緒に観ない?」
俺が思った通りの提案をされて、ついふっと笑ってしまった。
「なっ、なに!? 私何か変な事言った?」
「いやっ、何でもない。いいよ、一緒に観ようか」
「えっ、いいの?」
「うん。どんな新人の子が入って来るのか俺も楽しみだからね。この気持ちを誰かとっ共有したいって言うのもあるし」
俺が嘘偽りない言葉を返すと、美月は嬉しそうに両手で俺の手を掴んでくる。
「ありがとー! それじゃあ一緒に観ようね!」
こうして、俺と美月は放課後一緒に新人ちゃんの初配信を視聴することを約束した。
◇◇◇
学校へ行くまでも、二人の話題はずっと新人ちゃんのことで持ち切りだった。
付き合い始めて最初の登校だったというのに、そんなことも忘れて果たしてどんな子なのだろうと想像を膨らませていたら、あっという間に学校へ着いてしまう。
「おはよー美月!」
教室へ入ると、開口一番にクラスメイトの水田さんが美月にぶんぶんと手を振っていた。
「おはよう亜紀。それじゃ、また後でね斗真君」
「うん、また後で」
お互い席に荷物を置いたところで、手を振り合い美月と別れる。
美月は水田さんの元へと向かっていき、二人してキャピキャピと話し始めた。
学校での美月の付き合いをとやかく言うつもりはないので、俺は水田さんと楽しそうに話している様子を見ながら、つい微笑ましい気持ちになってしまう。
「はぁ……朝から惚気られるコッチの身にもなってよね」
すると、隣でスマホを弄っていた有紗が盛大なため息を吐いてくる。
「わ、悪い……」
「まっ、別にいいけど」
俺が謝ると、有紗はむすっとした様子で再びスマホへ視線を戻してしまう。
有紗の機嫌を窺いつつ、俺はカバンの中から筆記用具などを取り出していく。
「ねぇ、アンタ今日、初配信観るわけ?」
「へっ?」
「だから、これ」
唐突に有紗が尋ねて来たかと思えば、スマホの画面をこちらへと見せてくる。
そこには、先ほど美月ともずっと話題にしていた『フラッシュライフ』からデビューする新人Vtuberのニュースだった。
あまりVtuberに興味を示さない有紗にも情報が届いているなんて、『フラッシュライフ』も成長したなと実感する。
「もちろん。俺はあくまでモモちゃん推しだけど、『フラッシュライフ』自体も応援してるからね」
「ふぅーん。そうなんだ」
そこで、有紗は興味を失ってしまったらしく、スマホに視線を戻してしまった。
どうしてわざわざそんなことを聞いてきたのかは気になったけど、興味本位だったのだろう。
初配信、一体どんな子がやって来るのか楽しみにしつつ、俺と美月の関係性にも変化が生じて、新しい日常が幕を開けようとしていた。
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