第39話 告白

 お互いの価値観をすり合わせ、私達は安野君が予約してくれたという海が見えるカフェへと移動する。

 おすすめのパンケーキは、ふわりとしたスフレ生地と生クリームの愛称が抜群で、とても美味しかった。

 食後の紅茶を堪能しながら、横浜の海の景色を堪能する。

 私と安野君の間には、終始和やかな雰囲気が流れていて、お互いに目が合っては微笑み合い、他愛のない話をしてランチタイムの時間を過ごした。


 お店を後にした後は、再び横浜の街を練り歩く。

 時折視線が交わり、微笑み合いながら歩いているうちに、先ほど私が乗りたいと言った観覧車の前に辿りついた。


「ちょっと時間早いけど乗っちゃおうか」


 そう言われて、私と安野君は観覧車へと乗り込んだ。

 ゴンドラの中に乗り込み扉が閉まると、ゆっくり観覧車が上昇していく。

 お互いに向かい合う形で座り、視線が合わせて微笑み合う。

 そんな甘酸っぱい雰囲気を楽しんでいると、安野君が外の景色を見つめながらつぶやいた。


「綺麗だね」

「うん、そうだね」


 観覧車から見える横浜の景色。

 地上とは違って赤レンガや山下公園などが一望できて、ランドマークタワーなどのビル群が並ぶ方を見れば、奥に山々の景色を窺うことが出来た。

 私が再び海の方へと視線を戻す。


「見て見て安野君。おっきい船が止まってるよ」


 私が指さした先には、桟橋と思われる場所に、大きな豪華客船のような船が停泊していた。


「本当だ。凄い大きいね」

「私、船って乗ったことないんだよね。安野君はある?」

「観光の遊覧船ぐらいは乗ったことあるけど、あんな立派な豪華客船みたいな船はないかな」

「逆にあんな大きい船に乗ったことあるって言ったら驚きだよ。世界一周したの?って思っちゃう」

「あははっ……まあ確かにあぁいう豪華客船って、お金持ちの人が世界一周で豪遊してるイメージだよね」


 そんなことを話している間にも、ゴンドラはぐんぐん上昇していき、中腹辺りまでやって来た。


「寺花さん」

「ん、なに?」


 そこで、唐突に私の名前を呼んでくる安野君。

 彼は頬を赤く染めつつ、ちらちらとこちらの様子を窺っていた。

 そんな安野君の様子に首を傾げていると、おもむろに彼が一つ咳払いをしてから居住まいを正す。


「さっきなぁなぁになっちゃったから、ちゃんとはっきり言っておこうと思って……」


 そう前置きをして、安野君は真っ直ぐな瞳で私を見つめてくる。


「寺花さんのことが好きです。俺と付き合ってください」

「……!」


 告白の言葉を受け、私の胸がきゅっと締め付けられる。

 次に身体中からぶわっと温かいものが溢れ出てきて、全身優しさのようなもので包まれていく。


 手を差し伸べながら頭を下げている安野君。

 私はその彼の手に自身の手を重ね合わせた。


「はい、こちらこそ、これからよろしくお願いします!」


 優しい口調で返事を返すと、斗真君が顔を上げてふっと破願する。

 お互いに手を取り合いながら、笑顔を浮かべて微笑み合う。

 二人だけの空間と言うこともあり、何だか凄くいい雰囲気が漂っていた。


「隣、座ってもいい?」


 斗真君がそう尋ねてくる。


「うん、いいよ」


 私は端にずれて、斗真君が座るスペースを空けてあげる。


「ありがとう」


 お礼を言って、斗真君が隣に腰掛けてくる。

 隣に腰掛けると、肩と肩が触れあってしまう。

 自然と斗真君の温もりを感じて、心が安らかな気持ちにさせられる。

 手をつないだまま私たちは微笑み合う。


 私達を祝福するように、先ほどの曇天が嘘のように空は青く冴えわたっていて、西日が私たちを照らしている。


 こうして、私たちはお互いの気持ちを確かめ合ったうえで、正式に付き合い始めることとなった。

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