第52話 ユートVSボーゲン(5)

 ボーゲンの剣を容易に斬り落とした。


「なんだと!」


 剣を斬った感触がほとんどなかった。聖女の魔法は剣の切れ味を上げる効果があるのか、それとも魔族に対して特効作用のようなものがあるのか。どちらにせよチャンスだ。このままボーゲンを斬り伏せる。


「聖女の力を受けるがいい!」


 俺は武器を破壊され、隙だらけになったボーゲンに対して、剣を斜めに振り下ろす。


「バカめが! 無駄なことを!」


 先程と同様に俺の剣を脅威に考えていないのか。いや、魔気に余程自信を持っているのだろう。だがその満身が命取りになるということを教えてやる!


 俺の剣がボーゲンの左肩から心臓付近まで斬り裂く。


「ぐあああっ!」


 するとボーゲンの口から苦しみに満ちた叫び声が上がった。


「ど、どういうことだ! この私が痛みを感じるなどありえん!」

「余計なことを言っている暇があるのか?」


 俺は続けて右に左にと剣を振り、ボーゲンは攻撃を食らう度に顔を歪ませていた。


「ま、まさかこれが聖女の力とでもいうのか!」

「ボーゲン⋯⋯お前の敗因は聖女の力を甘く見すぎたこと⋯⋯そしてリリアに手を出したことだ!」

「く、くそぅっ!」


 俺はとどめを刺すため、渾身の突きを放つ。

 満身創痍のボーゲンはかわすことも防ぐことも出来ず、心臓に剣が突き刺さった。


「地獄に行って後悔するんだな」

「ぎゃあぁぁぁぁっ!」


 ボーゲンの断末魔が周囲に響き渡り、そして静寂が訪れる。

 するとこの後、予想外のことが起きた。


「身体が⋯⋯消えていく」


 なんとボーゲンの身体は徐々に黒い灰となり、この世から跡形もなく消え去ってしまったのだ。

 これは魔族の特性なのか、それとも聖女の力を受けたから消滅したのかわからないけど、とりあえずリリアを守ることが出来た。

 俺は安堵のため息をつくと共に、力が抜けて地面に崩れ落ちる。


「ユート様! 大丈夫ですか」


 リリアが疲労で重くなった身体で、俺を抱きとめてくれた。


「ちょっと疲れただけだから」

「でもユート様血が⋯⋯」


 ボーゲンにつけられた傷から血が出ていたのか、服を濡らしていた。


「大丈夫。もう血は止まっているよ。それよりこのままだとリリアの服も汚れるぞ」

「大丈夫です。魔力が戻りましたらすぐに回復魔法をかけますので、今はこのままでいてもかまいませんか?」

「あ、ああ⋯⋯」


 リリアは俺を抱きとめたまま、微動だにしない。

 寄り添っているからか、リリアの温もりを感じる。

 ボーゲンは強敵だったけど、俺はリリアを守ることが出来たんだな。

 俺は改めてリリアを失わずに済んだことに対して、胸を撫で下ろす。


「そういえばリリアの想いの力⋯⋯確かに受け取ったよ」

「えっ! あれはその⋯⋯無我夢中でよくわからなかったといいますか、身体をくっつければ想いの力がより伝わり、聖女の力を渡せるかな思った次第であります」


 何だかリリアは顔を赤くして、挙動不審になってしまったぞ。

 俺はそんなに変なことを口にしたのか?


「熱い想いが俺の中に流れ込んできて、おかげでボーゲンに勝つことが出来たよ」

「あ、熱い想いですか。それはどのような気持ちでしょうか」


 リリアは恥ずかしいのか、目をうるうるさせながら上目遣いでこちらに視線を送ってくる。


「それは⋯⋯」

「それは?」

「卑劣なボーゲンを倒したいという、リリアの熱い想いだ」

「えっ?」

「村人を人質に取るなど本当に汚い奴だった。俺達のことを虫けら扱いしていたし、このまま生かしておいたら人族は滅ぼされていたかもしれない」


 もしリリアの熱い想い、もとい聖女の力がなかったらと思うとゾッとしてしまう。

 それだけあのボーゲンという魔族は強敵だった。しかしボーゲンは我が主と口にしていた。もしかしたらその主呼ばれる奴も魔族の可能性が高い。やれやれ⋯⋯おそらくこれからもリリアの命が狙われる可能性が高くなりそうだな。


「そそそうですね! 子供達を人質に取って私、とても怒ってました! 何とかなって良かったです!」


 ん? リリアはそうですと肯定の言葉を発しているが、何か動揺しているように見えるのは気のせいか?


「それより回復魔法一回分くらいの魔力が溜まりました! ユート様の怪我を治しますね!」


 リリアは捲し立てるように言葉を発すると、俺の傷を治すため回復魔法をかけるのだった。


 そしてこの時ユートは気づいていなかったが、リリアが回復魔法を唱えると、数人の気配がこの場から消えるのであった。


 こうしてユートとリリアの手によって魔族であるボーゲンは倒されたが、これはまだ二人に降りかかる災難の序章であることは、誰も知るよしがなかった。

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