第75話 油断できない戦いですわ
心臓が破裂した。
狙撃された傷口から血が勢いよくこぼれ出していく。
倒れた私は足腰の震えを自覚した。
ボロボロの肉体は限界寸前であった。
魂を増殖させていなければ死んでいただろう。
「終焉の魔女は俺様が倒す!
世界を救った英雄として名を上げるのだァッ!」
アレムの宣言が聞こえた後、狙撃の連射が始まった。
私は無防備に術を食らって肉体を破壊されていく。
脳の半分以上が吹き飛んだせいか、頭が上手く回らない。
半開きの口から、涎なのか血なのか脳漿なのか分からないモノが垂れていた。
私が動こうとするたびに、ピンポイントで関節や急所を撃ち抜かれる。
ロボットの乱戦下というシチュエーションでよくもそこまで精密射撃ができるものだ。
しかも常に動き回ることで巧妙に居場所を隠している。
確実な狙撃戦法を徹底する様はさすがと言う他ない。
体内のほぼ全魔力が漏出し切ったタイミングで、額に鋭い殺気を感じた。
気が付くと目の前にいたアレムがいた。
銃口が私に突きつけられている。
「――出世のための犠牲になってくれ」
「俺の女に何してんだ」
横から声がした。
青く光る泥がアレムの頭部を包み、消滅させた。
胴体がくたりと崩れ落ち、遅れて首の断面から出血する。
死体のそばにはリエンがいた。
彼は私の手を取って立たせながら笑う。
「情けないぜ、マリス。強くなりすぎて戦いの勘が鈍ってるぞ。せっかくの能力が台無しだ」
「あなたの支援を信じていたから囮になっただけですわ。確実に仕留められる状況に誘う方が効率的ですもの」
「まったく、不死性が高いのも考えものだな……」
苦笑したリエンはぼやく。
頼られて悪い気はしないようだ。
一方、レボはロボットの残骸の山に鎮座していた。
なぜか私や冥王の魔力を宿している。
人型に変形したレボは誇らしげに言う。
「掌握完了。我は無敵なり」
「ばら撒かれたマリスの魂を喰って自己強化したらしい。俺も真似してみたけどこいつは便利だな」
説明するリエンの手の間で、圧縮された冥王の魔力が泥のようになって浮遊している。
これでアレムを殺したらしい。
ロボットに仕込んだ私の魂を使うとは面白い発想である。
「さて、先を急ぐか。また特殊部隊が来るかもしれないからぞ。さっさと邪教とやらを広めようぜ」
「そうですわね。この国を我々の信者だらけにしましょう」
アレムの死体を焼き払った後、私達は別のフロアへ移動した。
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