第6話 二人目の攻略対象ですわ
私は机に腰掛けて読書をする。
そばにはうつ伏せになった死体があった。
小太りのその男は学園長だ。
首には剣が突き立てられており、ぴくりとも動かない。
「当然の報いですわ」
一週目の世界において、学園長は貴族の娘である私に媚びていた。
ところが形勢が悪くなった途端、寝返って攻撃を仕掛けてきたのだ。
おかげで私は数々の苦痛を味わう羽目となった。
今後の展開のためにも、早期に退場させておくべき人間である。
過去に戻った私は学園を崩壊させた。
主要人物を殺したことで、既存のルートから逸脱している。
正直、これから何が起こるか分からない。
乙女ゲームの知識は活かせない場面も増えるはずだ。
それでもジェノサイドルートを諦めるつもりはなかった。
ひとまず私が恨みを抱く人間を皆殺しにする。
細かいことは成り行きで行動すればいいだろう。
好き勝手にやると決めたのだから、いちいち悩むこともない。
室内を物色していると、いきなり窓が割れた。
同時に一人の男が中に転がり込んでくる。
私は反射的に飛び退いて観察する。
目元を隠す赤色の蓬髪に、気力の感じられない表情。
細身の体躯で、煤と埃で汚れた外套を羽織っている。
動くたびに金属の擦れる音が鳴るのは、数多の魔道具を隠し持っているためだ。
両手にはめた指抜きのグローブに強力な術式が仕込まれているのを私は知っていた。
男の名前はリエン。
学園の教師で攻撃魔術の達人……そして、乙女ゲームの攻略対象の一人だった。
ゆらりと立ち上がったリエンは、学園長の死体を一瞥する。
彼は大げさにため息を吐いた。
「じゃじゃ馬にもほどがあるだろ。教育体制に不満でもあったのか?」
「ごぎげんよう、リエン先生。愚か者を粛清しただけですので、お気になさらずですわ」
私は一礼しながら身体強化を発動する。
続けて日本刀を創造して構えた。
リエンの実力は非常に高い。
今の私では、消耗を気にして勝てる相手ではなかった。
対するリエンは動じない。
それどころか、余裕ぶった表情で肩をすくめる。
陰鬱な暴力性を感じさせる笑みだ。
己の力量に自信があるが故の態度であった。
「あなたに恨みはありませんが、さっさと死んでくださるかしら」
私は日本刀を振りかぶって跳びかかる。
リエンは楽しげに両手を突き出し、そこから火球を放った。
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