第4話 ジェノサイドルート開拓ですわ

 ミアの死体に座って休憩していると、駆け付けてくる人間がいた。

 一瞬、教師かと思ったが違う。

 それよりも縁深い男だった。


「な、なんだこれは……」


 愕然としているのは、学園の制服を着た金髪の青年だ。

 モデル体型で容姿端麗、ついでに声も良い。

 完璧とも言える人物だが、その顔は恐怖に染まり切っている。


 彼はこの国の第一王子クリス。

 乙女ゲームにおける攻略対象の一人で、私の婚約者だ。

 そして、マリスに惚れて私を裏切る男である。

 彼を心から愛していた時期もあるが、今はゴミクズにしか見えない。

 これは前世の記憶というより、マリステラ・エルズワースの記憶と人格が反応しているようだ。


 憎悪を押し殺し、私はあえて朗らかに挨拶をする。


「ごきげんよう。ちょっと泥棒猫を殺しただけですわ。お気になさらず」


「マリス、君はなんてことを……」


 死体を見たクリスは言葉を失っていた。

 今にも吐きそうな顔で立ち止まっている。


 私は急におかしくなって含み笑いを洩らし、持っていた電動ドリルを捨てた。

 そして、魔術でポンプ式のショットガンを創造する。

 同時に生み出した弾を装填しつつ、私は笑顔で宣告した。


「クリス様。あなたにも死んでもらいますわ」


「くっ」


 危険を察知したクリスが距離を取ろうとする。

 私は構わず発砲した。


 散弾はクリスの腹と太腿に命中する。

 着地に失敗したクリスが派手に転倒した。

 彼は血を流して叫ぶ。


「うわあああああぁぁっ!?」


「良い悲鳴ですわね。感激ですわぁ」


 私は嬉しくなってショットガンを連射した。

 わざと手足ばかりを狙って、すぐに死なないように調節する。

 四肢がズタズタになったクリスは、身動きできずに痛がるばかりだった。

 私が無防備に歩み寄っても、目に涙を浮かべることしかできない。

 ショットガンの銃口を胸に突き付けると、クリスは懇願する。


「や、やめてくれ」


「嫌です。諦めてくださいまし」


 さらりと断った私は引き金を引く。

 クリスの胴体が爆発し、派手に血が飛び散った。

 一度だけ吐血したクリスは、目を見開いたまま動かなくなる。


 私は息を吐いて後ろに下がる。

 創造したばかりのショットガンは端から崩れて消滅していった。

 捨てた電動ドリルもとっくに消えている。


 私は微かな息切れを自覚する。

 魔力消費によるものだ。

 なるべく疲れないようにコントロールしていたが、今の肉体では限度があるらしい。


「これから修練が必要ですわね」


 反省する私は、堂々と学園の建物内に侵入した。

 生徒の姿が見えないものの、遠くから声が聞こえる。

 どこかに避難したようだ。


 私は舌なめずりをして探索を始める。


「――残りもぶっ殺して差し上げますわ」


 過去に戻ったのは改心のためではない。

 私はすべてを滅茶苦茶にしたい。

 攻略対象を皆殺しにして、本来は存在しないジェノサイドルートを開拓するのが目的だった。

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