阿寒湖畔観光
虫を使って戦っていたことが悪いことではないのだが、画面いっぱいに蠢いている虫を長時間にわたって映していたことで相当数の苦情が来ていたようだ。直接マーちゃん中尉に苦情が来ることはなかったのだけれど、イザー二等兵に対してはそれなりに苦情も届いており、ルーちゃんを対戦相手に選んでしまった栗宮院うまな中将には相当数の苦情が届いていたのだ。
そんな事を気にするような栗宮院うまな中将ではないのだが、栗宮院家にも直接そういったものが届いていたこともあって三日ほど栗宮院うまな中将が部隊を離れることになってしまった。
「うまなちゃんが戻ってくるまでの間はどうしようか?」
いつも通りに試験は問題なく行うことが出来るのだけれど、受験者を選んでいたのが栗宮院うまな中将だったという事もあって二日ほど試験は中断されることになってしまった。
「急な休みになったわけだけど、イザーちゃんは何して過ごすのかな?」
「そうだね。特にやりたいこともないから温泉に入って部屋でのんびり過ごすかな。マーちゃんが私と一緒に温泉に入りたいって言うんだったら旅館の人にお願いして家族風呂の予約をしてくるけど」
「そういうのは別にいいかな。俺はゆっくりと阿寒湖のほとりを散歩でもしてこようかなって思ってるよ」
マーちゃん中尉はイザー二等兵の冗談に乗るようなことはせずにいたって冷静に答えていた。全く動じることのないマーちゃん中尉に対してつまらなさを覚えたイザー二等兵ではあった。だが、それももはやマーちゃん部隊の日常となっているので何も問題はなかった。
湖と遊覧船を眺めながらソフトクリームを舐めるマーちゃん中尉の事を離れた位置から見つめてきている女性がいるのに気づいたマーちゃん中尉ではあったが、自分から話しかけに行くのも何か違うのではないかと思って黙ってやり過ごすことにしていた。何か用事でもあるのなら向こうからやって来るだろうと思って待つことにしたのだ。
遊覧船に乗るのもいいかもしれないなと思って運航時間を確認してみたが、残念なことに本日の最終便はすでに受付も終了していたのだった。乗る機会なんてまたやって来るだろうと思って立ち去ろうとしたところ、乗船案内をしていた係員に話しかけられたのだ。
「もしかして、フェリーに乗ろうと思ってました?」
「ええ、休みが出来たんで乗ってみようかなって思ってたんですけど、確認してみたら最終便も受付終了していたみたいなんで次の機会にしようかなって思ってたところなんです。最終便も満席になるなんて凄い人気なんですね」
「最近じゃ三日前から予約で席が埋まったりもしてるんですよ。それもこれもマーちゃん中尉が試験会場として阿寒湖温泉を選んでくれたからですね。今までも何度か満席になったことはあったんですけど、マーちゃん中尉達が来てくれてから毎日どの時間もほぼ満員になってくれて助かってます。おかげさまで支給されるお弁当も凄く豪華になってるんですよ」
「それは良かった。でも、乗れない人がいるのはちょっと悲しいですね。俺もその一人ですけど」
「それは申し訳ないです」
「いや、そういうつもりで言ったわけじゃないんで。なんにせよ、賑わっているのはいいことですし。また休みが出来たら乗りに来ますよ。その時はよろしくお願いしますね」
「あ、ちょっと待ってもらってもいいですか。客室じゃなく乗務員室なら乗れるかもしれないんで確認してみますね」
係員は電話を取り出して奥へと下がっていってしまった。マーちゃん中尉としてはそこまでして乗りたいとは思っていなかったので多少の戸惑いもあったのだが、せっかくの好意を無駄にするわけにもいかないので待っていることにした。その心の中では断られてくれた方が良いと思っていたのだけれど、そんなことも言えるはずがないので黙って待っているしかなかったのだ。
何となく手持無沙汰だったので売店なんかを眺めていたところ、マーちゃん中尉の目に気になるワードが飛び込んできた。近くに行って確かめてみても気のせいではなかったのでソレを頼んでみることにしたのだ。
「すいません。マリモソフト一つください」
先ほど普通のソフトクリームを食べたばかりなのだが、それとも違う謎の食べ物であるマリモソフトを見つけてしまったからには食べてみるしかないと思い注文していたのだ。
渡されたマリモソフトは当然ではあるが原材料にマリモは入っていないだろう。入っていたとしてもマリモの味なんてわからないので気にすることでもないのだが、マーちゃん中尉は観光地にあるソフトクリームなんてこんなもんだよなと思いながら食べ進めていた。
遊覧船の係員はまだ戻ってこないようなのでそのまま食べ進めているのだが、驚いたことにソフトクリームの中からマリモが出てきたのだ。もちろん、本物のマリモではないけれどそれに見立てた濃い緑色の物体が入っていた。
サービスで試飲させてもらったお茶にもマリモが入っていたのを思い出したが、当然それも本物のマリモではないだろう。
「お待たせして申し訳ないです。社長と船長と話してきたのですが、マーちゃん中尉がよろしければ操舵室に乗っていただくことが出来るそうです。もちろん、お代は頂かないのでどうでしょうか?」
「いや、さすがにタダというわけにはいかないでしょ。普通に運賃は払いますよ」
「いえいえ、私どもはみなマーちゃん中尉達に感謝してるんですよ。私達だけじゃなくこの地で働いている人はみんなマーちゃん中尉に感謝してますからね。今回はマーちゃん中尉だけという事になってますが、次回は是非お三人でご乗船してくださいね」
そこまで言われては断るのも角が立つと思い乗船することにしたマーちゃん中尉ではあった。その姿を少し離れたところから見ている妙齢の女性が苦虫を噛み潰したような顔でマーちゃん中尉の事を見ていることに気付いてはいたのだが、そんな事にかまっている場合でもないだろうと思ったマーちゃん中尉は乗船手続きを始めるのであった。
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