第29話 その後の結果
そして今デートの件をアーシェとドンキホーテはどう処理したのかと言うと、結果は端的に言うと次のようになる。
アーシェがデートは失敗、ドンキホーテはアーシェにフラれたと言うストーリーを作り上げたのである。
最もこれは何か策略があるとか、何か思い描いている計画があるわけではない。咄嗟に同僚に聞かれ思わず反射的に取り繕った嘘だった。
リリベルのことを正直に話すわけにもいかないし、そもそもドンキホーテと行っていないデートに行ったとも言えなかったアーシェは思わず言ってしまったのだ。
その後こっそりとドンキホーテにことの顛末を教えたアーシェは申し訳なさそうにドンキホーテに謝った。
ドンキホーテも特に責めるようなことなかった。言い訳してしまったものは仕方ない、状況的にも、立場的にもだ。
むしろそれがベストな選択なのではないかと思ったし、ドンキホーテはアーシェのついた嘘にのることにした。
そして現在、ドンキホーテはいきなりナンパしてフラれたした男という不名誉なレッテルを貼り付けられたというわけだ。
「先生、どうしたの?」
心配そうにドンキホーテの顔を覗いてくるミケッシュ。
ドンキホーテは苦笑いを浮かべる。
最初は大したことはないだろうとタカを括っていたものの噂の周りは早い同僚からの憐れみの視線が度々向けられるのは思いのほか辛いものがある。
まさか生徒にまで同情されるとは思いもしなかった。同僚にすらやられるときついのに生徒になるとその辛さは倍どころの話ではない。
「ありがとな、ミケッシュ」
笑うドンキホーテはそのままいつもの平静な表情を作る。
とりあえず、これ以上は生徒たちに広まっていないことを願いながらドンキホーテはミケッシュよりも先に寮の外に行こうとした時だ。
ガチャリと女子寮に繋がる扉が開かれる。
「お待たせミケッシュ。あ、先生もおはよう」
油を刺していない歯車みたいにドンキホーテは首を回しネクスの方を見る。
ぎこちなく出る「おはよう」
神に、勇者に祈るどうかネクスにだけは……。
「先生……その、残念ね」
ドンキホーテは天井を見上げた。
─────────────
「あ」
「ども」
逃げるように一足早く、生徒たちより先に学校に到着したドンキホーテはバッタリとアーシェに出くわす。
騎士学校でのアーシェの役割はケガの多い生徒たちの治療だ。
故にアーシェたち医療に関わる教員の朝はドンキホーテと同じく早い。
邪魔をするわけにはいかないだろうとドンキホーテはそのままアーシェの横を通り過ぎようとした時だった。
「あの……」
アーシェはドンキホーテは呼び止める。
「なんであの子を私に任せようと思ったんですか」
あの子とはリリベルのことだろう。周りには誰もいない背を向けたままドンキホーテは言う。
「アーシェ・ルノーム。弱冠十六歳にして従軍衛生士官として世界大戦に参加、数々の命を救った」
「……救えない命もありました」
「それでも貴女は最後まで戦い抜いた、教会から異端者扱いを受けていたとしても」
「私以外にもいたはずです従軍衛生士官」
「確かに。でも……」
ドンキホーテは振り返りアーシェを横目で見つめる。
「貴女だけだ、列車事件の時いつまでも生徒たちのそばにいた人は。俺は貴女のそんな優しさに甘えただけですよ」
「……ふふっそうですか」
「そうですよ、助かってます」
すると鐘の音が鳴る、街の朝か夜かを時間を知らせる鐘じゃない学校の開始を知らせる時間だ、生徒たちが慌てて教室に入室してくる時間でもある。
「じゃあまた」
ドンキホーテはヒラヒラと手を振りながら、自身の教室に向かっていく。
先ほどの会話などまるで忘れたかのように。
「変な人」
そう、アーシェは呟いた。
─────────────
「やぁ皆んなおはよう」
生徒三人、教師一人の教室だからかドンキホーテの声が遠くまで、そうまさしく隅々まで染み渡っていく。
ネクス、ミケッシュ、リリベルの三人もドンキホーテに挨拶していく。
「さあ今日から、君たちは騎士としての未来に突き進んでいくわけだが、まずはビックニュースだ」
ドンキホーテは背後の黒板に文字を書き込んでいく。ミミズがダンスしているような文字を生徒に見せつけていくドンキホーテ。
「先生、それは形象文字?」
「ネクス、先生の文字は最先端なんだ」
適当なことを言い、そしてドンキホーテは書き上げる。
"中間試験"と書かれた黒板を背にドンキホーテは言う。
「今から2ヶ月後大規模な、実戦演習が通称中間試験が急遽やることになった」
ドンキホーテは笑う。
「今日から猛特訓だ」
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