【短編】TSして女になった途端にモテはじめる勇者の百合園
南川 佐久
第1話 僕、勇者なのに寝取られて婚約破棄された
「ごめんなさい。私、あなたと一緒になることはできないわ」
魔王を討伐して意気揚々と城に戻った僕は、婚約をしていた姫君にそう告げられた。
「なぜ?」
その問いに、彼女の瑠璃色の瞳が泳ぐ。絹糸のような金糸の髪を弄りながら、その視線は脇に控える騎士のアレクに注がれていた。
戸惑うようなその瞳と、姫君から発せられるなんともいえないフェロモンで、僕は直感したね。
――ああ。寝取られた、って。
僕が一生懸命に命をかけて五年も冒険している間、よろしくヤッていらっしゃったんですね、姫?
『勇者様が帰ってくるまで、寂しくて……』とかなんとか言って。
デキてたんだろ! アレクと!
ざわ、ざわ、と不穏な波を打つ侍女たちの呼吸と鼓動が僕にそう教えてくれた。
勇者、ナメんなよ。それくらい風の流れで読めるわクソが。
「……わかりました」
僕はそれだけ告げると城をでた。
魔王討伐の報酬は国で一番の美少女である姫君との結婚と、絶景の一等地に城をひとつ。そうして、一生遊んで暮らしても困らないだけの金貨の山だ。
当たり前だよな。世界を救ったんだから。
でも、一番欲しいものは手に入らなかった。
一介のパン屋の息子だった僕は、幼い頃、豊穣祭で見かけた同い年くらいの姫君――メリアーヌを一目見た瞬間から勇者になることを決めたんだ。
お祭りだからと城下の視察に来ていた姫君に、僕はその日一番良くできた自信作のパンを手渡した。そのときの、
『わぁ……! ふかふかで美味しい!』
の笑みをもう一度見たくて。
その宝石みたいに綺麗な瞳に、僕を映して欲しくて。勇者になったんだ。
なのに……!
◇
「うわぁああああ! フラれたぁ! 寝取られたぁああああ!!!!」
荷がほとんど運び込まれていない空虚な城で、僕は泣いた。
「メリアーヌ! メリアーヌ! 僕は大好きだったのに!! なにが勇者だ! 打倒魔王だ! こんなことなら、魔王と手を組んで無理矢理にでも彼女を手に入れておくべきだった!!」
……でも。
それじゃあ、あの笑みをもう一度見ることができないことくらい知っている。
「……なんか、もう何もかもどうでもいいや」
魔王を倒して、やることもなくなったし。
お金もあるし。
生きる目標がないって、こんなに虚しいことなのか……
「うわぁああああ……!」
当たり散らすように寝室でひとり枕投げをしていると、扉の向こうから遠慮がちな声が聞こえた。
「あの……テーゼくん?」
自信なさげで猫背な魔術師、モリーの声だ。
彼女の声は小さくても澄んでいてよく通るのですぐわかる。
そのブツクサとした詠唱は世界で一番のスピードと精度を誇る、パーティの要たる魔術師だ。
冴えない駆け出し勇者だった僕に、一番最初についてきてくれたマイベストフレンド。
「なに? モリー」
扉をあけると、モリーはおずおずと僕の服の裾を握る。
「悲しい気持ちはわかるけど、その……死んじゃったりするのだけはダメだよぉ?」
長くてモサっとした赤毛から覗く瞳はアメジスト色で。わずかに涙ぐんでいた。
僕は安心させるようにその頭をくしゃっと撫でる。
「わかってるよ、モリー。自殺なんて馬鹿な真似はしない。あんな尻軽メリアーヌのために、どうして僕が死ななくちゃならないんだ」
「でも、放って置いたら死んじゃいそうなくらい、『陰』の気が漂っていたから……」
それには激しく同意してしまう。
もう何もかもがイヤになってしまっている、と認めると、モリーはひとつの小瓶を出してきて。
「これを飲んだら、もう二度とこんな悲しい思いをすることはなくなる……と、思う」
「なに? その薬……」
「せっ……セックストランスの秘薬……」
「セックス? ごめん、僕もうそういうのごめんだから。女とか、何も信じられないから」
「そっ、そういうのじゃなくて! 媚薬とかじゃなくて! 通称TS薬って言って、これを飲むとテーゼくんが女の子になるんだよぉ! そしたらもう、姫の浮気なんてどうでもよくなるでしょう!?」
そう言って、モリーは僕の胸元に薬を押し付ける。
「テーゼくんに生きる気力がないなら、なんでも協力するから! これを飲んで、ウチらと楽しく暮らそうよ! ほら、ウチのパーティってテーゼくん以外は女ばかりでしょう? 女嫌いになっちゃったテーゼくんでも、自分が女になれば皆と一緒に楽しく暮らせると思うんだぁ。この城、部屋だけはやたらあるし。パーティの皆でわいわい過ごせたら、テーゼくんも元気でるかなぁって思うんだけど……どう?」
「僕が……女に?」
正直、わけがわからない。
けれど、女が嫌いになってしまったことで、パーティの皆と今後ギクシャクした関係になるのはイヤだと思っていたし……渡りに船か?
僕は。何もかもがどうでもよくなっていたから。
その薬を受け取って、モリーの前で一気に仰いだ。
「えっ……!? 即決?」
驚いたモリーの顔がみるみるうちに煙で包まれて、僕の全身――特に骨が悲鳴をあげて。
「ああ、あああああ……!」
服が、ぶかぶかになった。
モリーが慌てて、顔を両手で覆って叫んだ。
「テーゼくんが……マジで女の子になっちゃった!! どうしよう、どうしよう! ちょっとした現実逃避のつもりだったのに、まさかここまで決断力があるとは……! あっ、ちんち〇がない!」
「テーゼくんのち〇ち〇ですって!?!?」
バァン!と扉を開けて入って来るのは、銀甲冑の軽装を身に着けた女騎士のライザだ。銀糸の髪を振り乱して、涎を拭いて部屋にあがりこんできた。
「テーゼくんが女の子!? モリー、あなたナニをしたんですの!?」
同じく涎を拭いて入ってきたのは、栗色の巻き髪をゆらした聖女エリス。
隣の部屋で壁に耳を当ててテーゼの部屋を盗聴していたのだが、たまらず駆け込んできた様子だった。
三人は、ぶかぶかのシャツに身を包んだ僕を見下ろして悲鳴をあげた。
――歓喜の、悲鳴を。
「「「きゃ~!!!! 可愛い~~~~!!!!」」」
「!?!?」
僕の長めの黒髪を掻き分けながら、エリスが叫ぶ。
「お目目ぱちくり! 睫毛も長いですわ~!」
「待て、見ろ! この艶のある肌を! 胸は若干控えめ……私の十分の一程度だが、ハリがあって美しい!!」
「
ライザとモリーも遠慮を忘れ、ぺたぺたと僕を触りまくる。
そうして、ライザのたぷたぷのおっぱいに包まれて、僕はぎゅ~!っと抱きしめられた。
「「「テーゼくん、可愛い!!!!」」」
今まで五年旅をしてきて、こんなスキンシップをされたのは初めてなので思わず動揺してしまう。しかし、今の僕の股間にはあるべきものが付いていないから、反応のしようもない。
僕はひたすらに柔らかい三人の身体にもみくちゃされながら、お着替えやらお風呂やらを楽しんで、初めて三人の裸体を目にして、きゃいきゃい騒ぎながら夜中までケーキとマカロンで乾杯をして。四人で同じベッドで眠った。
翌朝。柔らかいエリスのおっぱい枕で目が覚めた僕は。
――女になるって最高だな……
なんて。すっかり元気になっていた。
◇
翌日、買い物に出た勇者一行の姿に町の人々は仰天し、その愛らしい『勇者テーゼ』の姿と振る舞いが城にいるメリアーヌの耳に届くのも瞬きの間であったという。
城下の巡回パトロールに出ていたアレクはその姿を二度見し、そっと頬を染める。
そうしてメリアーヌもまた、楽しそうな勇者一行の姿に、なんとも言えない羨望を抱くのであった。
そんな風の噂を耳にし、テーゼはにやりと笑みを浮かべる。
――勇者を、ナメるな。
僕がこれで終わると思うなよ……!
----あとがき--------------------------------------------------
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①『【短編】少子化対策で同棲しているクラスメイトの氷の女王が、部屋では甘々に溶けている件』
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個人的に推したい短編です!甘々同棲。糖分過多がお好きな方に!
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