第95話 魔王の地下迷宮 その8

迷宮から地上に戻ると、既にお日様はてっぺんを指していた。

つまり、お昼である。


まずは身を清めるためにお風呂に入り、そのあとに昼食。

食事が終わる頃には睡魔に襲われていた私は、みんなと別れて部屋に戻って眠りに就いた。

そして、起きた時には部屋は真っ暗になっていたのだった。


「今、何時かしら…」


そう思いながら、廊下に出ると外の方から何時もの足音が。

一応、窓から外の様子を眺めると、中庭は大勢のファンゾンビたちで埋め尽くされていた。

ノルが動員悲鳴のスキルを使ったのだろう、いつもよりも数は多かった。

そんなことを思っていると、中庭にある人影の一人が私に向かって手を振っているのに気付く。

人影が軽快に走りながら城の中へと入ってから3分後、その人物は私の前に姿を現した。


「お姉ちゃん、ちょうどみんな集まったところだよ」


「そのようね。お疲れさま、ノル」


そう言って私はノルの頭を撫でてやり、彼女はそれにいたく喜んだ。

それから間もなく、彼らたちには天に還ってもらい、私は遅い夕食を摂るためにキッチンへと向かう。

お鍋の中にシチウがあったのでそれを温め、堅パンの入ったカゴと一緒に居間へと運んで二人で食事を楽しんだ。


「お昼から何も食べてないから、美味しいわ」


同席しているノルにそう言って感想を述べると、彼女はこう言った。


「お姉ちゃん、夕食食べてたよ?」


「え?…本当に!?」


「うん。だって、呼びに行ったのわたしだし、ちゃんと起きて食べてたのはみんな見てるよ」

「でも、カヤお姉ちゃんたちが絶対に覚えてないだろうからって、夜食用に追加で少し作っておいてくれてたの」


「それが、これ…と」


「うん」


とりあえず、心の中でお礼を言って完食したのだった。


‥‥‥。


ユーリーが帰ってくるまでは、強化系スキルを完璧なものとするべく戦闘に明け暮れ、たまに気分転換に5階まで戻ってファイアストームを放ったり、8階のレッサーデーモン相手にウィザルド・デストロイヤーを放ったり、最近使いだした・・・・・メテオも放ったりして得意顔ドヤがおを決めたのであった。


身体能力向上ブーストについては、何度もやって行くうちに慣れて来て最初の頃のように異常に疲れるという事も無くなっていた。

そんなある日の夜、パソコンに一通のメールが舞い込んできた。


「あら?ユーリーからメールだわ」


私の一声で、ソファに座ってテレビを見ていた皆は、私のパソコンの所まで集まって来た。


「なんて書いてあるん?」


「明日、帰って来るそうです」


「おおっ!良かったなぁ。これで雷も怖く無くなるな」


チサトさんは、そう言ってカラカラと笑う。


「ですねぇ。なんせ、隣の隣の私たちの部屋にまで聞こえてくるくらいですからねぇ」


チサトさんの近くで羽をパタパタとさせているリョクお姉様が相槌を打つ。


「俺は幾度となく彼女の部屋に行って慰めてやろうかと思ったもんさ」


クラスさんは体をくねらせ、自身を包み込むようにその手で抱いた。


「それ犯罪やからな」


「………」


今度から、あの雷雨日は手で口を塞ごうと心に決めたのだった。


‥‥‥。


そして、次の日の朝。


私はソワソワしていた。

何度も手鏡で顔を見たり、寝癖がついてないか確認したり、足を小刻みに揺らしながら窓の外を眺めたり。


「あ、土煙が上がりましたねぇ」


リョクお姉様は、窓の外を眺めながらそう言われたけれど、私には全く何も見えなかった。

ちなみに、他に見えた人はカヤさんだけなので、私が特別視力が悪いわけではない。


「それじゃあ、迎えに行きましょう」


そう言って外に出ようとしたのだけれど、カヤさんに引き留められる。


「まだ、20分は掛かりますよ」


という衝撃的な言葉と共に。


この人たちは、一体どれだけ遠くを見渡すことが出来るのだろうか。

それから十数分ほど経った頃、ようやく私にも土煙が見えたので外へと足を運んだ。


城の外に出ると小さく見える位置に馬車はあり、馬のアルマーズが足を止めるまで、それほど時間は掛からなかった。


「ユーリー、おかえり…って…ええっ!?」


馬車から下りて来たユーリーは、確かにユーリーだったけれど、私の知っているユーリーではなかった。


「ただいま、マリア」


間近くまで来てそう言う彼に応えるためには、私は見上げる必要があった。


「おぉっ!見ないうちに、めっちゃおっきくなったやん」


チサトさんをはじめとして、みんな驚く。

無理もない。

パーティから離れた時は、私より背が低かったのだから。

そんな私たちの反応に、ユーリーはただ照れ笑いをしていた。


‥‥‥。


居間にて。

テーブルの上には、事前に用意したお茶菓子が人数分置かれている。


「で、感触はどないなん?」


「えっと…急に背が伸びたので体が完全に馴染んではいないのですが、それなりには行けると思います」

「それで、明日にでも実戦を兼ねて迷宮に潜りたいのですが、宜しいでしょうか?」


「うちは全然かまへんで」


「あぁ、俺も全然かまわないぜ」

「むしろ、弟君の完成度がどんなものか確認したいしな」


「私もユーリーさんの成長を見てみたく存じます」


「いやぁ、楽しみですねぇ」


私も含め全員同意した。


「で、魔物相手の実戦は明日という事で良いんだが、その前にその実力とやらを早速見てみたいもんだな」


というクラスさんの一声で、お昼から地下1階で模擬戦が執り行われることになったのだった。

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