第3章 元の世界へ

第19話 案内人

 俺達は犬信の言うエルフの行方を探っていた。犬信が言うようには、強い魔物を常に求めているらしく、狩場にいることが多いようだった。だが、強い魔物といっても種類は豊富だ。犬信はどこに当たるのだろうと思っていると、そこには大きな植物があった。その真ん中には女性のような人型の植物が絡みついた魔物がいた。


「次の狩りの時にはこのアルウラネっていう魔物を狩るって言ってたからな」

「そうよ。私はこいつを狩りに来た」


 目的のエルフの人がやって来た。長い金髪に青目で容姿はとてもいい。尖った耳にはピアスを左右一つずつつけている。


「エリン・マラゾールよ。よろしく」

「よろしくお願いします。俺は靄志・細川です」

「私はアリス・イベルタル。よろしく」

「俺は鬼塚蓮って言います。よろしくお願いします」

「私は志水夏鈴です。よろしくお願いします」

「私はシエル・グリムですわ。よろしくお願いします」

「はあ、みんなかしこまってるな」


 俺達は自己紹介していった。犬信が、そんな俺達に緊張感のない声をかける。そうして、エリンさんは、早速アルウラネをやっつけようとしていた。背中にかけていた弓に魔法を使っている。緑色の光が矢に宿され、矢が輝いた。


「私のこの魔法の矢でこんな魔物一撃よ」


 そうして、放たれた一矢は、アルウラネの人間の部分の心臓を貫いた。その周りの植物が暴れまわるように揺らめき大地が震動するが、魔法が人間の部分を侵食し、やがて殺した。


「アルウラネって、どの程度の魔物なんだ犬信」

「さあな。プラチナランク依頼の魔物なことは分かってるけどよ」

「そんな魔物を一撃で倒せるのか。強いな」


 俺は単純にエリンさんが強いと思った。矢の狙いも正確だったし、一撃でプラチナランク依頼の魔物を倒しているからだ。あの緑色の付与した魔法が何だったのかも気になる。


「ところでエリンさんは何でこの魔物を狩ろうと思ったんですか」

「復讐よ。こいつのせいで3日間食べ物が得れなかったのよ」

「こいつがいる森にこの人は迷い込んだんだとさ。それで、あたりに魔物1匹いなくて植物もこいつだけでこの人は気付かずに森の中を進んだんだがいつまでたっても出れない中、俺達に出会ってこいつが魔物だと気づいたみたいだよ」

「そう、大変だったのよ。こいつのせいでこっちは食べ物に困ったの」

「そうですか。その時のアルウラネなんですか」

「それは違う。私はその時からアルウラネを憎んで狩りを続けている」


 そんな経緯があったとは思わなかった。エリンさんはアルウラネを憎んでいるというがきりがない気もする。それにしても犬信は何故エリンさんに馴れ馴れしいのだろう。そこまで深く知りあう仲なのだろうか。


「犬信、なんでこの人に馴れ馴れしいんだ」

「え、それは長い付き合いだからだよ靄志」

「そうよ。犬信や仔犬とは長い付き合いなのよ」

「先輩、この人気分屋だからどの魔物をやっつけようとしてるか分からなかったけれど、今回は当たりでしたね」

「エリンさんはアルウラネが標的じゃないのか」

「ああ、それは標的の1つなだけよ他にも魔物は狩っているわ」

「この人、本当に気分屋ですからね先輩」

「そうだよ。こいつはかなりの気分屋だからここにいたらいいなと思ってたぐらいで期待はしてなかった」


 エリンさんはだいぶ気分屋なようだった。犬信と仔犬の会話からもそれが分かる。長い付き合いの中で初めて会ったころからアルウラネに敵対心を抱いているというのはたまたまだろう。とにかく、すぐにエルフの里に行けそうで助かる。


「エリン、エルフの里にまた行きたいんだが」

「え、あの時もういいって言ってたよね犬信」

「用事ができたんだ。俺達は前にも言った通り異世界から来た。その情報がエルフの里にあるかもしれないんだ」

「確かに図書館にならあるかもしれないけど聞いたことがないわ。期待はしないで置いた方がいいと思うわよ」

「それでも行かないと納得できないんだ。ここにいるみんなもそのために集まってきている」

「そうですよ。エリンさん、もう1度、案内お願いします」

「お願いだエリン」


 犬信と仔犬の二人はエリンに頼み込んでいた。エリンはその表情を見ると満足した表情で笑う。そして、礼をした二人の頭をなでる。


「かしこまらなくていいわよ、2人とも。心配しないでも案内ならしてあげるわ」

「ありがとう。あそこはただでさえ人の性格が荒いし、行きたくないと思ってるんだろう」

「まあね。でもこれだけの人数が行きたいって思ってるし、貴方達も恩人だしね」


 犬信がエリンさんに感謝する。俺達も感謝しようと次々頭を下げた。


「そんなに頭下げなくていいわよ。あの里までは私からしたらあんまり行くのは大変じゃないから」

「そうなんですか?」

「ええ、私はドラゴンでも難なく倒せるけど、倒さなくてもあの巣の近くは隠蔽魔法で楽々通れるわ」


 俺は、隠蔽魔法と聞いて俺の加護、靄を思い出す。靄を掛ければそのドラゴンの巣の辺りも楽々行けるのだろうか。ぶっつけ本番でやるつもりはないが、いつか試してみたいとは思った。その前に元の世界に帰れるなら帰りたいが。


「エルフの里に行く準備をまた始めよう」

「そうね。でもだいたい終わってるわよね」

「そんな。準備なんて大していらないわよ。今の感じで全然大丈夫」

「そう思うのはあんただけだと思うがな」

「やあね。犬信、貴方だって山道についてこれたでしょう」

「あの時は全然楽じゃなかったけどな」


 俺とアリスが話す中、エリンが準備をしなくても大丈夫だと伝えてくるがそれが本当ではないということが犬信により分かる。やはり山に行くには準備が必要らしい。


「犬信、お前は登ってみて何が足りないと思った」

「水だな。あとは食べ物が少しあっても良かったと思ってる」

「なら大体足りてるな。行く用意はOKですか先輩」

「おう。俺達も大丈夫だぜ」

「出発しましょう」


 こうして、俺達はエリンについて行った。山はなだらかな山だが距離は長く、何分も歩いた。木はたくさん生えていて、赤い実もあったが食べると酸っぱかった。途中に魔物もいたが、今回はエリンさんの隠蔽魔法で乗り切った。それにしても、俺の靄の方が精度が高い気がする。視覚的にも隠蔽できてるが、靄と組み合わせて使うと一番強くなりそうなので後で練習してみることにした。そうして、山道を進み30分で休憩に入った。


「はあ、疲れた。水はあるんだよな靄志」

「はいはい。持ってきてるよ」

「ありがとう。あの時とは大違いだよ」


 コップに入った水を犬信と仔犬に渡す。


「先輩、一緒のコップで飲みません?私たちもそういう仲ですし」

「そうだな仔犬。お前と間接キスがしたい」

「何なら口移しで飲みますか先輩」

「それもいいな」


 犬信と仔犬はイチャイチャしていた。それにしても口移しか。俺はアリスに目を向ける。アリスは顔を赤らめて聞いてきた。


「靄志も口移しで飲みたいの?」

「やってみないか。俺達恋人だろ」

「そうね。やりましょう」


 アリスは口に水を含むと俺の口にキスしながら水を与えた。その口で飲む水は独特の温度があってそれがアリスの温度だと思うと愛おしくなった。


「やっぱり恥ずかしい」

「俺もだけど、嬉しいよ」

「今度は靄志がやってよ」


 俺もアリスがしたようにキスしながらアリスに水を与えた。アリスはさっきから顔が赤い。だが、嫌がってはおらずむしろ嬉しそうだった。


「うらやましいですわ」

「......」


そばで、シエルがうらやましそうに見ていたが無視する。



「かー、夏鈴、俺達もやらないか」

「えっ。蓮くんとキス!?」


 志水夏鈴は鬼塚蓮の誘いに顔を真っ赤にする。蓮の方も顔が赤い。このペアは性行為もしていないようだったし、これが初めてのキスになるのかもしれない。


「蓮くんとキスもしたことないのに」

「俺も緊張してるさ。だけどこのままあいつらに後れを取ってはいられないぜ」

「確かにアリスちゃんや仔犬ちゃんに引けを取ってるかもしれないけど人前じゃないところででもいいでしょ」

「そうだな。誰もいないところでやろう」


 2人はどうやら誰もいないところでやるらしい。そうして、休憩は終わろうとしてたが、犬信と仔犬がまだ口移しで水を飲んでいた。


「仔犬。もっと勢いを緩めて」

「こうですか。先輩」

「そうそう」

「もう時間よ、犬信、仔犬」

「ええ、もうそんな時間ですか」

「はあ、そうなのか。続きはまた後でな仔犬」

「名残惜しいです」

「俺もだけど今は元の世界へ帰る方法を探してるんだ。ここは気を引き締めて行こう」

「そうでしたね、分かりました」


 犬信と仔犬も山に登る準備をする。俺達は山を登った。途中で険しい道になったりすることはなく順調に魔物のいる山を進んでいった。そうして、ドラゴンの巣と思われる場所にたどり着いた。洞窟の中で、1匹の大きなドラゴンが卵を守っていた。


「ここ1番緊張するんだよな」

「しゃべって大丈夫なのか犬信」

「隠蔽魔法の範囲内に入ってれば大丈夫だったはずさ靄志」

「本当だ気付かれてない」


 隠蔽魔法はバリアのように範囲が決まっていた。俺の思っていた隠蔽魔法とは違うが、覚えておいてもいいと思ったので後で学習しようと思う。隠蔽魔法でドラゴンに気付かれないまま洞窟の出口へ出た。そこは、山道だったが、開けた場所が見えた。エルフの里だろうか。


「この里の人たちはドラゴンを守護神として崇めてるから、ここのドラゴンを倒すとろくなことがないわけよ。でも私、1回倒しかけたことがあってね」

「そうなんですか。ここの人はドラゴンを崇めてるんですか」

「そう。1回倒しそうになった時はここの人たちにこっぴどく叱られてね。大変だったわけよ」

「エリン、帰って来たのか。よそ者を連れて、よくここに顔を出すことができるな出来損ないが」

「出来損ないでも何でもありませんよ。里から出れないあんたたちの方が出来損ないじゃないの?」

「黙れ、よそ者、ここはエルフの里だ。ここはお前らのためのものではない。引き返すなら今の内だぞ。この里の人々はよそ者に厳しい」

「今更引き返すなんてありえないんですけど」

「ふん。どうなっても知らないがな」


 こうして、俺達はエルフの里に入り込んだ。ここに異世界に関する情報があるのかは分からない。だが、それにつながる情報を得ようと思う一行なのだった。

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