第15話 魔王の死、勇者の帰還
俺は、輝と魔王が剣と剣をぶつけるのを見ていた。光の聖剣が、魔王が放つ瘴気を浄化していた。あの瘴気がかかると何が起こるのだろうか。何か良くないことが起きそうな気がする。俺は緑髪赤目の魔族の相手をすべく、魔王の左側に周った。魔王の下で輝に魔法を放とうとしている。止めなくては。俺は緑髪赤目の魔族に切れ味の強い糸を靄を掛けながら放ち首元を狙う。そうして首を切ったがその傷が体から再生して元通りになった。
「ふう。おっかないことをしてくれますね。再生能力がなければ危ないところでした」
「マジか」
「靄志。再生魔法っていうのがあるのよ。ここは私に任せて」
首筋を狙ったが再生能力があるのならどこを狙えばいいのだろうか。だが、アリスによると再生魔法という物があるらしい。俺はここはアリスに頼むとして、もう一人の魔王の左側にいる魔族を倒しに行く。この魔族は茶髪で角は緑色で目は瞑っていていて見えなかった。その魔族に糸使いの加護を発動させて靄を掛け切れ味の強い糸を放った。だが、躱される。
「俺にはその加護は効かない。魔力を感じ取れるからな」
「こっちも厄介だな」
俺は靄を掛けずに切れ味の強い糸を縦横無尽に放つ。魔族の方は丁寧に躱し、躱しきれないものは剣で糸を斬り、見事全て避けきっていた。俺は糸を使って糸を高速回転させ縦横無尽に飛ばす。これも敵は切り裂いたり躱したりしようとするが、数が多く、その多くが魔族に突き刺さった。
「ぐはっ。糸を操るというのはここまでできるか。だが、私は軽傷だ。これでどうだ」
魔族が近くまで迫ってくる。俺は切れ味の強い糸をチェーンソーのように高速回転させながらバリアのようにして放つ。相手は剣を振りかざす。それを邪魔するかのようにその領域を広げ、魔族の皮を蝕む。だが、それでも剣を振りかざすのをやめず、俺はその斬撃を躱す。剣を習っておいてよかった。この動きは剣を習ってなければできなかっただろう。俺は近接距離から切れ味の強い糸を無数に放つ。
「ぐああ、貴様。やはり勇者の」
「とどめだ」
俺は切れ味の強い糸を魔族の首に引っかけ斬った。魔族は最後の叫びを上げながらやがて絶命する。これで魔王を補助する1人を倒せた。輝が頑張ってくれることを祈る。そして、俺はアリスの方にも加勢する。ここでは鬼塚蓮が殴ったりもしていた。再生能力を解き終わったようで、俺は靄を掛けながら切れ味の強い糸を魔族の首筋に放った。鬼塚蓮には退くようにジェスチャーで伝えた。
「ぐあー。これじゃ、これじゃ死んでしまいますよ。どうしてくれるんですか」
「知るか。俺達は魔王を倒す。輝しか倒せなくても俺も手伝う」
「ひぎゃー」
緑髪赤目の魔族は倒れた。後は魔王だ。輝と魔王は互角の戦いを繰り広げていた。
「輝、お前に靄を掛ける。そうすれば魔王にも気づかれなくなる」
「頼む。靄志」
俺は輝に靄を掛ける。輝は見えにくくなりその動いている音も聞こえにくくなり、斬った斬撃の痛みすらも感じられにくくなった。これで魔王と戦うと、一気に輝が優勢になった。
「貴様、勇者に何をした」
「ちょっと俺の加護を使っただけさ」
「あの忌まわしき神か。勇者の後にお前らも処分してやろう」
そう魔王が言った時、輝の剣が魔王の胴体を斬る。
「ぐあー」
「とどめだ」
輝の声は俺達もそうだが、魔王にも聞こえていない。靄の力が強いのだろう。輝はとどめの一撃を放つ。光は靄に隠れて見えないが確かに魔王を切り裂く。魔王は首を斬られ死んだようだった。俺は輝の靄を解除した。
「やった。魔王に勝った」
輝が歓喜の声を上げると一つの扉くらいの時空の裂け目のようなものが現れた。
「これが、元の世界に戻る道なのか」
元の世界に戻れるかもしれない通路に鬼塚蓮が反応する。輝がその裂け目に触れるとその裂け目に吸い込まれ裂け目は閉じていった。
「おい。輝だけなのかよ」
「勇者だけが帰れるっていうのは酷いですね」
俺達は輝だけが帰れたと思えばいいのだろうか。だが、あの空間は元の世界に戻る物だったのだろうか。先は良く分からない。だが一つ言えることは、俺達は帰る手段を失った。
「魔王様はやはり敗れたのか」
「お前は」
遠くの方から声がして振り向くと赤髪赤目で赤い角の魔族が立っていた。
「私達は人間の世界に侵攻する。魔王がいなくなるのは予想出来ていたことだ。勇者が消えた今こそ魔族がこの世界を支配する時代になるのだ」
「させるか」
「その能力見ていたぞ。私はこれで失礼する。魔族の生き残りで兵を集めればすぐにマルサス王国辺りには侵攻できるだろう」
俺は糸を放ったが遠すぎて外れた。魔族の男はそう言い残すと去って行った。
「どうする、靄志。あいつを追うか」
「いや、ロスティア王国にいったん戻りましょう」
鬼塚蓮に聞かれて俺はロスティア王国に戻ることを選択する。
「靄志、あれが魔王に勝って異世界に帰れるゲートだったの?」
「分からない。だけど、俺達は別の方法で戻らなきゃならないみたいだ」
俺は、アリスの問いに答えようがないがとりあえず分かっていることを言った。そうして、俺達はロスティア王国に帰る。すると王国は魔族が襲っていて燃えていた。城だけが燃えていない。
「なんなんだ。一体」
「とりあえず、魔族を何とかするぞ」
「そうですね。俺はあの筆頭のような魔族を倒してきます」
「無理はするなよ靄志」
俺は武装した魔族の軍勢の一番前の真ん中に立って指揮している魔族に、俺自身にも靄を掛けながら近づき切れ味の強い糸で首を切断した。
「隊長。隊長。どうしたんですか」
「死んでいる。どうして」
魔族の軍団は体調がいなくなって混乱していた。その隙に糸を高速回転させながらドリルのように顔に刺していく。
「ぐぎゃー」
「何でこんなことにこの遠征は安全じゃなかったのか。ぐはっ」
こうして、敵の魔族の軍団は俺によって倒されていく。鬼塚蓮も倒してくれている。この軍団がロスティアから退くのにそれからそんなにかからなかった。
「それにしても何でロスティア王国が狙われてるんだ。そして、城は無傷なんだ」
「蓮くん。あれ」
「なっ」
城からアレクサンドルが出てきた。角を生やした状態でその短い金髪を見せながら青い目はこちらを見ている。
「勇者は既に元の世界に戻った。我ら魔族が人間を駆逐し支配するのだ」
「お前は、何で魔族に」
「おー、勇者の連れか。やはり帰れなかったようだな。ついでに言うと私はもともと魔族だった。勇者が魔王を倒しいなくなるのを待っていたのさ」
鬼塚蓮とアレクサンドルが言いあっている。俺はこのアレクサンドルという人を倒すため背後に迫っていた。だが、アレクサンドルの手に銃が握られていることを発見する。
「糸使いよ。この人間が死んでほしくなければ今すぐ姿を現し攻撃をやめるんだ」
「くそが」
俺は靄を解きアリスの前に立つ。
「靄志、なんで攻撃をやめたの?」
「あの武器だ。あれは危険だ」
「やはり分かってるようだな」
「銃はこの世界にもあったのか」
「試し打ちででもしてみようかな糸使い」
バンバンと銃声が鳴る。俺は糸でバリアし、その一撃を防ぐ。銃を持っているだけでこんなにも戦闘がやりづらいとは思わなかった。だが、俺はアリスに靄を掛けると抱いて一旦俺にも靄を掛けて逃げ出した。
「靄志。あそこには夏鈴もいるのよ」
「分かってる。だが、アリスも隠れててほしい」
「私だって戦える」
「じゃあ、約束してくれ、何があっても自分の命は守ってくれ」
「約束する」
俺は靄を掛けたアリスを送り込み、俺もアレクサンドルの後方に立った。そして、首筋に切れ味の強い糸をチェーンソーのようにして放った。
「ぐぎゃー。糸使いめ。やってくれたな」
アレクサンドルは痛みで銃を手放した。その隙に鬼塚蓮が何度も殴りボコボコにする。
「ぐはっ。貴様らこんなことしてただで済むと思うなよ。私はこの国の王アレクサンドルだぞ」
「この国を裏切ったお前がどうなろうと誰も何も言わねえだろうよ。国民の怒りも買ってるはずだ」
「知るか。私はこの国の王。魔族にして人間の国を支配する王族だぞ」
「アレクサンドル様。そういう人だとは思っていませんでした」
アレクサンドルが自分が国王なことをいいことに好き勝手言っているが、それに呆れる俺達。そして、メリルが現れた。教会も襲撃を食らったのだろう。自分の国の王族が魔族だったと知った時の彼女の心境はどうだったのだろうか。
「蓮さま、靄志さま。夏鈴さま。勇者だけが帰れるということは私も想像していませんでした。すいません」
「メリルさん。今はそんなことよりアレクサンドルを」
「そうだぜ。その話はあいつを倒してからだ」
俺が声の部分だけ靄を外して言う。そしてすぐに靄を掛けアレクサンドルを追撃した。糸による首筋の切断だが、今度は切れなかった。
「糸使いよ。貴様は加護を2個授かった。きっとその強さからも神に愛されているのだろう。だが、私は加護ではない魔族の能力、異能でお前の攻撃を防いだ」
「だったら何度も当てるまでだ」
俺は何度も何度も切れ味の強い糸を鞭のようにしてアレクサンドルに放った。最初はアレクサンドルは余裕の表情だったが、徐々に傷が増えていく。アレクサンドルはそれに焦りを覚えて怒鳴る。
「糸使い風情が。私の異能の力を凌げると思うなよ」
「お前、俺のことは何にも気にしてねえみたいだな」
「何、ぐはっ」
鬼塚蓮のパンチでアレクサンドルが吹っ飛ぶ。それに追撃するように俺は大きく切れ味の強い糸に勢いをつけて鞭のようにして放つ。正中線から血潮がだくだくと出る。
「くそが。お前らなんかに私が」
「とどめです」
「とどめよ」
アリスが炎の巨大な球の魔法を放ちそれを呪符で魔力を強化する志水夏鈴。2人の強力な魔法でアレクサンドルは焼けた。
「こんな。こんなことがあってもいいのか。私は国王だぞ。一番この国で偉いのだぞ」
「国の民を思わない国王などいりません。さようなら、アレクサンドル様」
メリルの言葉に白目をむくアレクサンドル。ロスティアはこの後、復興できるのだろうか。だが、この国の民で無事な人もいる。王族なしでもやって行けるようになればこの国は復興できるかもしれない。こうして、魔王討伐から始まった。ロスティア王国への魔族の侵攻は食い止められた。
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