第11話 アリスの魔力

 俺達は魔物を倒しに森の中へ向かっていた。森の中はロスティアの森だ。


「輝はこの森で魔族と戦ったの?」

「いや、帰る途中で王国の人たちが騒いでてそれが魔族の襲撃だった」


 魔族の討伐はここでした訳ではないらしい。俺は前方にレッドボアを確認したので、切れ味の強い糸をレッドボアに引っかけ暴れさせて殺した。


「本当に強くなったな靄志」

「確かに靄志、お前前まで兎の魔物に苦戦してたのに強くなったな」


 輝に次いで言うのは宮野聡みやのさとしだった。彼はクラスの中で目立つ存在ではないが体育の授業で好成績を残している。

 普通の生徒も俺に関わってくるようになったのはやはりいじめが無くなったからだろうか。俺はいじめられないクラスでの1日を快く思っていた。元々いじめっ子だった奴も建の計らいでそうじゃなくなっていた。

 輝がレッドボアを右に発見して、加護、聖剣で狩る。他の生徒も、こうやって魔物狩りをして1日は半分終わった。午後は休憩時間のようだった。そこでアリスと合流した。


「靄志、今さらあの森の魔物で練習になったの?」

「確かに練習にはならないかもしれないな」


 俺は魔物を容易く狩ることができた。それは他のクラスメイトよりも多く速く狩っていた。聖剣を使う神藤輝も驚いていたくらいだ。もう1度メリルさんに鑑定してみてもらってもいいかもしれない。俺は兵士にメリルさんの居場所を聞いた。


「すいません。メリルさんはどこですか」

「あいつは教会だ。お前強くなったようだがまた鑑定してもらうつもりか」

「そうです」

「そうか。魔王を倒す人員が増えるのは助かることだ」


 俺は教会に向かう。ロスティアの教会は石膏作りで白い建物だ。それに星形の飾りが建物のてっぺんに飾られている。


「すいません。メリルさんいますか」

「あなたは加護が2つの。生きてたんですね」


 メリルさんは俺を見ると驚いた表情でこちらに駆け寄ってきた。俺はこの人に自分の今の強さを見てもらう。


「鑑定をもう1回してもらってもいいですか」

「いいですよ。鑑定」


細川靄志

職業:糸使い

Lv31

体力147

魔力156

攻撃力101

防御力117

素早さ129

加護:糸使い 靄


「へえ、こんな風に出るんだ」

「飛躍的に上がってますね。輝さんよりも強い部分は強い。短期間でここまでなるには魔物を相当倒さなければならないはずです。やはり崖の下に落ちて魔物をたくさん倒した感じですか」

「はい。あ、ついでにこの子も鑑定してください」

「いいですよ。鑑定」


アリス・イベルタル

職業:魔女

Lv11

体力28

魔力380

攻撃力18

防御力13

素早さ29

加護:紫水晶の炎


「これは......」

「魔力が異様に高いな。そんな感じはしなかったんだけどな」

「私って強いの?」

「強いです。ですが、魔女ですか。それは隠すことをお勧めします。過激派が狙ってくるかもしれないからです」

「過激派って何ですかメリルさん?」

「魔女狩りと言って職業が魔女の者を殺す動きがあるんです。狙われる可能性があります」

「私は魔法を使えるようになればいいのかしら」

「そうですね。その魔力なら初級の魔導書から勉強してすぐに使えるようになると思います」


 予想外にアリスが強かった。まあ、魔力だけが異様に高いのだが、これなら俺と共に戦いに行くこともできるだろう。


「魔導書は王国の図書館にある。行ってみようアリス」

「そうね。これで靄志の手伝いができたらいいし。本なんてあのくそじじいが読ませてくれなかったけど本を読むのは文字くらいは読めるからできると思う」

「分からない部分があれば手伝うよ」

「ありがとう。助かるわ」

「そういえば加護があったけど使える実感はあるのアリス?」

「いや、そんなこと今まで気づかなかったし無いと思うわ」

「紫水晶って知ってる」

「知らない。何それ」

「水晶っていう透明の石の紫色の種類の物なんだけど」

「石って。ああ、あのくそじじいの正妻がつけてたやつか」

「石屋に行って見てみる?」

「いやそれも図書館で見てみるわ。行きましょ、靄志」

「ああ、行こう」

「また、鑑定してもらいたい時来てくださいね」


 こうして俺達は教会を出て王国の図書館へと向かった。俺達は先に魔導書を見つける。赤い目の描いた魔導書だった。初級魔法練習の書と書かれている。


「ええとこれによると魔法は魔力を感じることから始まるって書いてるわね。私にすごくあるこの力かしら」

「この力って言ってもアリスの感覚は俺は分からないからね。まあ、それを頼りにしてけばいいんじゃないか」

「そうして、魔力が物質に変わるイメージをして放出するっと」


 そう言ってアリスは石を出す魔法を使った。初めての魔法だったようだ。それにしては良くできている。


「何だ簡単じゃない」

「それって俺もできるのかな」

「やってみれば、私は簡単にできたけど」


 俺は体の魔力らしきものを感じそれを石のようにイメージして放出する。脱力感と共に小石が出てきた。上手く魔力が固まらない感じで大変だった。


「やっぱりこれにはアリスの方が才能があるんじゃないか」

「そう。ならこの分野を極めて靄志に追いつけるようにするわ」

「もう少し読んでみよう」


 そうして初級魔法練習の書を俺達は読み終え、魔法をいくつか実践した。水を出す魔法、風を起こす魔法、結界を作る魔法など、この場で使っても大丈夫な魔法を主に使った。そのすべてをアリスは1回で覚えた。日の魔法が使える場所がないかと思ったらしく調理場に向かった。俺も一緒に行ってみごと炎の魔法を使うことができたようだった。


「やったー。これで靄志の手伝いができる」

「ありがとう。これでアリスも一緒に魔物狩りに行けるな」

「思うけど魔物狩りって靄志に必要なの?」

「それはみんなに合わせてのことさ。大丈夫多分魔王討伐の練習にはなってると思うから」

「そう。じゃあ、紫水晶について調べましょう」


 魔王討伐はクラスのみんなですることになっていた。1部抜け出している人物もいるが、基本的には皆で帰りたいのでその労力を分担するように建がそういうことにしているらしい。それで、紫水晶について書かれた本は、図書館の石の図鑑に会った。


「これだよ。これが紫水晶」

「そういえばこれに近いものが魔法を使う時イメージされてたわ。特に炎の魔法を使う時」

「それがアリスの加護なのかもな」

「加護か。私にもあったとはね」

「俺も驚きだよ」


 こうして、俺達は図書館から膨大な知恵を得た。これからも使うことがあると思うので使っていきたい。そうして、夕方になった。部屋ではアリスが魔法の練習をしている。図書館から中級魔法の本も借りてきたようだ。一生懸命に練習している。魔法に熱中しているようだ。中級魔法もすぐに使いこなせているようだ。結界の中級魔法を使ったり、自分をナイフで斬って治療魔法を使ったりしている。一気に強さが追い付かれた気がした。これが才能という物なのだろう。俺は強くはなれたがこうやってアリスが強くなってくれるのは嬉しかった。


「ということで今夜もお願いね靄志」

「分かった。今夜は見つからないようにしよう」

「分かってるわ。鍵も閉めたし、ベッドに入って来て」

「ああ、アリス。大好きだ」

「私もよ靄志」


 俺達はベッドに入る。生身の肉体に溺れる快楽を手にした俺達はそのままお互いを貪った。夜は長く刻々と過ぎていく。寝る時間はお互いを求めあうことで削られていく。だが、睡眠とは別の快楽で興奮して夜中になっても起きていた。それでも、力尽きてやがて寝て、朝になった。


「ふわぁ、おはよう靄志」

「おはようアリス。昨日は結構やったな」

「うん。靄志、今日もやるわよ」

「眠そうだが大丈夫か?」

「大丈夫よ。今日は私も魔物退治に連れってってね」

「分かった。輝に言うよ」


 俺達は服を着て、外に出る準備をした。朝食はバイキング形式だった。元の世界のバイキングのような感じで朝食をとっていった。美味しそうなたれがついた鶏肉や、新鮮な野菜のサラダ、温かいコーンスープなどがあった。

 そうして、俺は輝に話しかける。


「なあ、輝。今日はアリスも魔物退治に連れてっていいか。魔法が使えるようになったんだ」

「そうなのか。良いけど無理はさせるなよ」

「大丈夫。俺がついてるからさ」

「分かった。お前を信じる」


 輝は了承してくれた。魔物を狩るため用意を始める。アリスにもその用意をさせた。鎖帷子があったので着てもらう。これで防御にはなるだろう。魔力は高いものの防御力は俺よりも確実に少ない彼女への配慮だ。


「これ重いわね。まあ、これで防御になるならいいけど」

「悪いな。重いのに」

「大丈夫よ。私も魔法を使うのか。魔法使いって絵本でしか見たことないけど。上手く使えるといいな」

「大丈夫さ。アリスならきっと上手に魔法を使えるよ。俺よりも確実に才能はあるしさ」

「そうね。あんたよりも私の方が魔法に関しては強い。自信を持っていこう」


 こうして、俺とアリスはクラスメイトと共に魔物を倒しに出かけた。森の中に入っていき、動物がいなくなったところで魔物が出てくる。今回は豚くらいは大きさがあるネズミ型の魔物が最初に現れた。


「行くわよフレイムランス」


 アリスの手から火の矢が勢いよく出された。一瞬でその矢にネズミ型の魔物は貫かれ息を止めた。


「すごいなアリス。一瞬じゃないか」

「えへへ。もっと褒めてもいいのよ」

「気を引き締めろ。また来るぞ」


 今度はレッドボアが現れる。俺は切れ味の強い糸に靄を掛けながら鞭のように放つ。こうして放つと視覚的には全然気づかれない一撃が放てる。靄と糸使いは結構相性が良かった。そうして、レッドボアは鞭のような一撃で目を傷つけた。こうなってしまえばこっちのもの。切れ味の強い糸を両側張りながら回転させチェーンソーのようになった糸の斬撃で切断する。


「糸使いって言ってももう何でもありだな」

「輝も頑張ってくれよ。勇者なんだからさ」

「ああ、俺もお前達には負けてられないな」


 勇者である輝の技は単調だった。技の工夫がもう少しあってもいいように思った。


「輝。技に工夫とかしたことないのか」

「そうだな。お前も技に工夫してるしな。考えてみるよ」


 こうして、今日の魔物の討伐はアリスにも輝にもいい影響を与えたのだった。

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